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貴方に捧ぐ初めての嘘  作者: 日野うお
王都編 「責任もてない」運命共同体
94/100

あなたのためにもう一度14


「風なら強く吹き抜ける道筋、緑ならその深さ。水なら、清いこと。土やら枯れ葉やらが混じりすぎたなら、その水は魔力を宿すには不向きだ」

ファレルが呟いた。

この真下だ、と言うファレルに従って無理矢理見張りを倒して入り込み、水源に程近い小川を崩したのは、主にクリスだ。

雪山だというのに見張りの数はゆうに十を越え、さすがの彼でも主と半人前のゲインを守りながらの戦いは余裕とはいかなかった。厚手の上着の肩口は切れ、その下の肌にも血が滲んでいるはずだ。王子の側近足りうる剣の腕を誇るクリスにとっては、久々のことだ。

ところが人使いの荒いこの王子ときたら、その間じっと地面を見つめて動かなかった。普通なら、なんて傲岸な、尊大な、と見限りたくなる行動だが、代わりにクリスは尋ねた。

「そろそろ、きちんと話してくださいませんか」

彼の主はどこまでも気ままで奔放な問題児に見えるが、その言動には意味がある。

そしてクリスの要求に対する答えが、先刻の言葉だった。

「言ったろう。精霊は魔力の塊。魔力の集まりやすい地形や物体があるから、そこに生まれる。我々は、その『場』を壊そうとしている。ここが『場』で当たりだ。その証拠に、こんな何もない場所にわんさか見張りがいたしな」

それはここに来るまでにも聞いたことだったので、クリスも素直に頷いた。ただ、それでは違う疑問が残る。

「ですが破壊するならば、もっと迅速に進めるべきでは」

精霊からすれば、自らの存在を消されようというのだ。その反撃は凄まじいものになるはずで、中途半端な攻撃をした挙げ句そんな手負いの獣と戦うなど、下策といえる。

ファレルにもそれくらいのことは分かっている。実際、ルークを送り込んだ当初の計画では彼らの脱出と同時に、反撃の間すら与えない大規模な破壊を行うことになっていた。それは下手をすれば大災害と言っていい規模で地形を破壊することだった。

けれど今、ほんの少し水源の土を崩しただけでファレルは様子見に徹している。それは、中にいる人間のことを考えているからだろうけれど。

真下だ、と明言したのは、ヘティかルークの魔法具の気配がそこにあるということだと、クリスは判断していた。

ファレルには、常人を遥かに超える優れた魔力探知の能力がある。それは彼の魔法具づくりに活かされているだけではなく、日頃は王城の警備の一翼を担っている。

その精度ときたら、人の体内の魔力の動きから、その人間の感情すら読みとれるほどだ。げんにファレルは、大抵の人に鉄面皮と言われるほど表情に乏しかった頃のヘティのことさえ、一度も誤解しなかった。そんな主の言うことだから、クリスには疑う余地もない。

彼等はまだ中に…しかもこんな際奥にいる。脱出の連絡はない。つい先程、水神のもとに到着したと一方的な報告をしたきり、ルークの通信機は応答しない。

ただ、不思議なことに機能はしているらしい。壊れたのか手元にないのか、あるいは持ち主が応答できない状況なのか、とにかく下に魔法具があるというそれだけしか分からない。

その状態で中途半端な破壊活動を行ったファレルは、それからずっと真剣な表情でじっと小さな水溜まりを見つめている。

「あの、彼らは…」

沈黙にじれて口を挟んだゲインの不敬を、今ばかりは咎めなかった。クリスもまた、じれていたのだろう。ファレルは、ああと気づいたように呟いた。

「これは、助攻だ。場を破壊しようというのではない。水を汚し力を弱めているだけだ。今、主攻はあちらだ」

「ヘティですか?」

ゲインは驚いた声を出した。確かにヘティには膨大な魔力がある。しかし、彼女は風の魔法に特化しており、地下のように風のない、しかも水の精霊の影響下という環境ではどうにも不利だと思われたのだ。

けれど、ファレルは振り返りもせず、答えた。

「いや、主攻はルークだ」

え、と不敬な声をあげたゲインを今度こそ一応叩いたものの、クリスも意外に思った。

真意を探ろうと主の横顔を見つめる。

ファレルの緑の瞳は、揺らぎもしない。

「これはルークの気配だ」


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