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貴方に捧ぐ初めての嘘  作者: 日野うお
王都編 「責任もてない」運命共同体
88/100

あなたのためにもう一度8

通された浴場で扉を閉めると、ルーは倒れそうなヘティの肩をつかんで、きっと睨み付けた。

「何やってるんだよ馬鹿っ!なんでのこのここんなところに来たんだっ」

小声で怒鳴る。

怒鳴りつつも、呻き声すら出ないヘティを見ると素早く自分のスカートに手を突っ込み、取り出した小瓶をヘティの口に当てた。

「早く。飲んで」

説明も何もないが、ヘティは促されるまま大人しく唇を開いて、注がれる液体を飲み込んだ。強烈な甘さと苦さが喉をやき、思わず目をつぶったが、次の瞬間には、腹の奥から力が湧き上がってくるような感覚に襲われた。

回復力を上げる何かだったらしい。けほけほと咳き込みながらも、気づけば自分で体を起こせていた。ルーの手が、そっと肩から離れていく。

「あの人がくれたから、即効で効くはず。全く、いざというときには使えって言われたのに早速必要になってるってどうなの。とにかく、動けるようになったら逃げるから」

彼はそう言って、大きな桶の方に歩いていき、溜められた湯を撒き散らした。この部屋の床は石が敷かれているため、ざばんと盛大な音がした。

静かすぎれば見張りに怪しまれるからだろう。そう考えられる程度には、すでにヘティの頭も回復してきていた。

「ど、して?ここ…」

ヘティは、ルーがなぜここにいるのかを問う。ここはローゼルの山奥で、しかも彼らの隠し里のそのまた奥だ。簡単に探し出せる場所ではない。

ヘティの疑問に、ルーは首をすくめた。

「あのペン。持ってるでしょ」

そのかすかな気配を、作り手であるルーはたどることができた。幸運なことに、彼らはそれが魔法具だとは気づかなかった。そもそも魔法具の存在自体が庶民にとって縁遠いものだから、ペンにしかみえないそれは疑われもしなかったのだ。ペンは今もヘティの首から下がっている。

「本当はあの人の魔法具の方があれば、敵陣内でもそこを目印に俺をとばすことができるはずだったんだ。でも、呼ばれなければ発動しない。あんた、何で呼ばないわけ?お陰ですっごく地道に潜入するはめになったんだけど」

結局、潜入した後は姿を隠す魔法具の力を借りながらたどってきたのだ。

「あのペンダントは、取り上げられて」

言い訳するが、ルーの目は冷たい。

「そのときに呼びなよ」

「そう、だったね…」

目を泳がせたヘティに、ルーはため息をついた。慌てて、謝り、礼を伝える。

「ご、ごめん。あり、がと。でも、なんでその」

格好、とスカートに目を下ろしたヘティに、ルーは苦々しい顔になった。

「あの人が、俺の顔が割れているから変装して行けって」

ファレルは伝令として連れてきていた男を脅し、ルーを連れて隠れ里に入らせた。

伝令の挙動不審はクリスが幻影で誤魔化した。

そしてルーは久々に女装した。皆顔を知られている上、お前以外不自然だからとファレルに言われればそのとおりで、断ることもできなかった。

さらに、ファレルはルーを潜入させる前に、女物のスカートなら隠せると言って、大量の魔法具を仕込んだ。身を守るもの、攻撃するもの、姿を消すもの。

水は空中も、凍りついた地中も網羅するから、人はその結界を壊して通ることはできない。しかしファレルの言葉によれば、魔法具は人ではないから伝令と共に招かれて入ったルーが身に付けていれば持ち込めるのだという。

また、ルーがぱしゃんと水を撒く。そしてすっと目線だけヘティに向けて、軽く睨む。

「どうせ、あんたのことだから、変なこと考えて捕まったんでしょ。でも、とにかく逃げるから」

気づかれている。まあ、ここにルーがたどり着いた時点でヘティの書き置きも足跡もばれているのだから、当たり前なのだが。肩をすくめてヘティはますます縮こまった。

けれど、言わないわけにはいかない。

「あ、待って。この先に、水神がいるんだって。それって水の精霊だよね。それにね、あの…」

ヘティは言い淀んだ。脳裏には、先程見たルーそっくりの人の姿が焼き付いたようにはっきりと浮かんでいる。ただ、それだけに、なんと言っていいのか迷った。

その間に、ルーが続きを引き受けてしまう。

「俺の兄がいるって言う気?そんなの根拠もなにもないんだから、後回しに決まってる。第一、ここは一族以外入れないようにしてるみたいだから、可能性薄いでしょ」

「でも、」

「これ以上怒らせないでくれる?」

ルーの声が常になく低くなった。

ヘティは反射的に口を閉じた。全く、納得はしていない。あの人は、ルーに見間違えるほどよく似ていた。そして、本当のルーはここにいる。ということは、可能性はもう一つしかない。きっと彼がルーの兄なのだ。

けれど、あの蛇と横たわる異様な光景を、なんと説明すればいいのか。認め難かったが、蛇の胴体は青年の体と混じりあっているように見えていた。それをうまく言葉にするすべが、見つからなかった。

そして、不機嫌そうに顔をしかめたルーの指がさっきから細かく震えている。それもこの怒りも自分への心配故だということくらい、さすがのヘティも分かっていた。

「とにかく、早く動けるようになって」

このところ更新が遅れ、申し訳ありません。

執筆時間が全くとれないため、以前から書いてあった分を投稿しました。またしばらく間が空くかもしれませんが、意欲などの問題ではありませんから、必ず完結させますので…!

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