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貴方に捧ぐ初めての嘘  作者: 日野うお
王都編 「責任もてない」運命共同体
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あなたのためにもう一度4

ルーとゲインは、山に向かっていた。

麓の町の手前で馬車を降り、そこからは徒歩だ。

「田舎はよそ者が目立つからな」

それはルーにも理解できる感覚だったので、ゲインに逆らう気は起きなかった。

ここまで最短距離を進めたのも、ゲインの昔の友人が自分の家の馬車を出してくれたからだ。彼の一族が地元から排斥されたといっても、親しい友人はゲイン個人を惜しんでくれていたのだ。

「お前のとこの本家がいなくなってから、山のやつらが幅きかせてるよ」

「ルセル家か」

山のやつらという呼び名に、ゲインは心当たりがあるらしかった。

「王都から役人が来たってさ、この辺のことなんてよく知らないだろ?だから、やつらのことまで手が回らないんだよな」

「お前のうちの商売は大丈夫か?」

「うちは山側にはもともと手え伸ばしてないから、今のところぶつかってないけど。…二件隣はつぶれた」

彼の家は運送業を営んでいるらしい。彼の家の馬車に揺られながら、ゲインとルーはローゼルの近況を聞かされた。

「鉄砲水が出て、荷馬車が流されたんだ」

「そうか」

彼らが、当然のように鉄砲水の事故と『山のやつら』を結びつけて語ることに、ルーは驚いた。精霊の話は国家機密のはずなのに、まるで彼らは鉄砲水が意図的に起こされたかのような言い方をする。

「ここらでは、有名な話だ。ルセル一族には水の魔物がついているって。やつらに楯突くと、必ず水の事故に遭う」

精霊、などと呼び表されていなくとも、その現象は周知され、その恐れが、彼らにさらなる権力を持たせる。

「だから、悪事も見逃される。糾弾して、死にたくはないから」

気を付けろよ、と彼はゲインに念をおした。

雪靴も貸してくれた。人の通れる道も教えてくれた。ルーは感謝した。ゲインはともかく、見ず知らずの自分にまで準備された靴は、確実に彼の私物で、引き返していく彼自身の足元は心もとない短靴だったのだ。

しかし、二人は教えられた道をすぐに外れた。

そして、あえて山林の中を山まで進むと、雪洞を掘りそこに潜んだ。

それというのも、ゲインの友人と会う前に、二人はシンシアに連絡をとっていた。

彼女もまた、夜中だというのに親戚知人を当たり、ローゼルの状況や二人のとるべき手だてを探していてくれたのだ。

『拘留中のバッフル一族によると、確かに彼らはローゼルやルルムの豪族と交流が深いようです。ローゼルの豪族ルセル家現当主は、バッフルの先々代の外孫に当たるとか』

一族全てをとらえ監視していたと言っても、現実問題貴族でない者達の縁戚関係は記録がなく、他家へ出たものまで全ては把握しきれないのだ。シンシアの声は申し訳なさそうだった。

『兄からローゼルの領主代行へ連絡をつけましたわ。ファレル様は今のところ領主の館へは現れていませんが、ローゼル領は要請があればすぐに動けるよう、戦力を待機させてくれているそうです』

場所は領主の館だというシンシアに、ゲインは遠すぎると言った。

『隠し鉱山は山手ですか。確かに、領地の外れで目の届きにくいところのほうが、可能性が高いですね。少々お待ちを』

すぐにシンシアが誰かに話しかける声がしたので、彼女が同時に複数の魔法具でやりとりをしていることが知れた。

『承知したとのことです。極秘裏に、人を動かします。貴方方はそれまで待機してください』

「いや、今から山に登ろうと思う」

『今、馬車の交通記録を確認中なのです。少なくとも三時間前までの領堺の記録には、それらしき馬車はありません。ランス達の情報でも、王都隣のソチ領に入ったのは昨日の夜ですし、ヘティはまだそちらについていない可能性が高いのです』

ルーとゲインは、顔を見合わせた。

「先回りして馬車の通り道で待つことが出来れば、最善ということか」

『そうなりますわね。問題は、馬車がローゼルのどこへ向かうかなのですが。姉が言うには、魔石は多量の魔力に触れて変質した物質ですから、植物の多いところならば木の、というように自然の環境によって生まれるはずだと』

ゲインが迷いのない目で言う。

「山に万年雪の谷がある。ローゼルの人間は近寄らない一帯だ」その谷に続く道は、地図には載っていない。ゲインの友人も、道は存在しないと言っていた。

「明らかに怪しいな」

『となると、水ですか』

「恐らくは」

谷へ入れそうな場所に当たりをつけ、馬車を待ち伏せることにしたのだ。

けれど、シンシアは馬車を見送れ、ファレルたちと行動を共にしろと主張した。

『道さえ分かればいいのです』

「でもその間に何かあったら!」

声を荒らげたルーを、ゲインが止めた。夜中で人目がないとはいえ、目立つわけにはいかなかった。

『まだ夜も明けません。下手に動くのは危険ですし、』

「落ち着け。俺達はろくな戦力持っていないんだ。大人と合流したほうが勝機がある」

二人がかりで諭されて、ルーはかっと目尻を赤くした。しかし、わなわなと唇を震わせただけで何も言わなかった。

不本意だった。精霊を知る者達に拐われたのなら、狙われているのはヘティの血で、それは次代に受け継がせることも含めた意味でだ。館につくまでだって何もない保障はない。

それなのに、動けない。自分に力がないから。剣だって攻撃魔法だって、使えない。せめて、ヘティほどでなくてももう少し魔力があれば。意地を張らずにゲインか誰かに剣を習っていれば。

そもそも、きちんとヘティの不安を取り除いていれば、こんな事態にはならなかった。少しくらい魔法具の細工ができるようになったからと、前進した気でいた自分が、殴り付けたいほど腹立たしかった。

頭がずきずきした。

ルーが黙っている間に、ゲインとシンシアで話を終わらせたらしかった。

「お前、熱がぶり返したんじゃないか?」

「なんでもない」

ヘティが無事に取り戻せるなら。

ただ、無力な自分が悔しいだけだ。

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