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貴方に捧ぐ初めての嘘  作者: 日野うお
王都編 「責任もてない」運命共同体
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あなたのためにもう一度1

転移施設を訪れると、ゲインは堂々と使用許可をもぎ取った。

「主人に、内密にある品を届けるよう言われたのですが」

そう平然と言ってのけた使者としては若い二人に、役人は眉をあげていぶかしんだが、だめ押しとばかりファレルの紋章の入った魔法具を見せれば、慌てて慇懃な態度をとりはじめた。

もちろん全て嘘っぱちだ。

涼しい顔をつくって転移の陣の中に立つと、ルーはすぐにひどいめまいを感じた。堪えきれずに目をつぶってしまい、自分が病み上がりだと思い出した。

再び目を開くと、そこにはもう、違う顔の役人が立っていた。

はぁ、と息を吐き出す。

「これで、半日分は巻けた」

ゲインの言葉は、独り言というよりはルークを落ち着かせるためのように聞こえた。

半日。もう一度転移を使えば、追い付けるかもしれない、とルーは考えた。

転移地点どうしは国防の事情で離れているため、馬車なり徒歩なりで移動しなければならない。これは王族であるファレルすら例外ではない。

建物の外に出たとたんに冷たい雪に降られ、二人は追い立てられるように歩いた。空は鉛色の雲に覆われて夜の顔をして、すでに辻馬車のある時間ではなくなっていた。

この移動時間を利用して、シンシアに連絡をとる。

あちらに残った面々も飛び回ってくれたらしく、新しい情報があった。

ひとつは、フラー子爵家は三男クロードを使ってヘティとルークを引き離そうとしていたが、ヘティが今日魔法省に現れなかったという報告を受けて動揺しているらしいこと。

もうひとつは、『五色の水』に停まっていた馬車は、その後少し遠回りしながらも、昨夜閉門ぎりぎりにローゼル方面の関所をくぐったということ。

「やっぱり、ローゼルの人間で間違い無さそうだな」

ゲインの言葉に、ルークはしばらく返事をしなかった。ざくざくと、雪を踏む音が響く。

それから、ルークが呟いた。

「最初に外を出歩いたときにもう、ローゼルの連中に目をつけられてたってことだよな」

ゲインがちらりと意図を問うように目をよこした。

植木鉢を落とされる直前にして唯一の外出だから、何度考えても、その可能性が高い。しかしそれをわざわざ口にしたのは、後悔以外の理由からだ。

「…実は領地でも、あいつが襲われたことがあったんだ。犯人の黒幕は分からないままだったけど」

「…それと、今回の件、関係あるのか?」

バッフルと王都は遠い。しかも、一応あの一族は皆とらえられている。

ルークは首を振った。

「分からない」

けれど、なにもつながりがないのなら、ヘティに目をつけるのが早すぎる気がした。耳覚い貴族でさえも、積極的に関わってきたのは教室でのあの魔力暴走事件からだ。そして今回王都の貴族で関係しそうな家はない。

「でも、ヘティに一番早くから目をつけていたのは、バッフルの隠し鉱山の豪族だった」

ゲインが前を向いて歩きながら、考え込むように眉間にシワを寄せた。

「…地方の豪族は、場所によっては領主より古くからその土地に住み続けている。バッフルとローゼルの間にはルルムがあるが、距離は近いし、古くから繋がりがあっても、不思議ではない。ローゼルにも、ルセルという古い一族がいる」

領主は王の命令やら失脚やらで入れ替わることもある。しかし、貴族ではない地方の豪族は、そうした抗争から離れたところにいる。

「古い繋がりのなかで魔石や人のやり取りがあったとしても、おかしくはない」

ゲインは頭でっかちではないのだなと、ルークは思った。貴族ならば、一地方の豪族が影でかなりの力を持っているだとか、まして自分たちの知らない共同体を作り上げているだとか、そんなことは仮定の話でも不機嫌になりそうなものだ。しかし、彼は自分からルークの言わんとすることを言葉にして認めてみせた。

「これが本当なら、事態はかなり厄介かもしれない」

「なぜ」

「俺達が相手にするのは、人質のヘティ·ブラントに加えて、大量の魔石と、精霊に関する知識をもった集団だ」

「それでも、やることは変わらない」

ルーは反射的に返した。相手が誰であれ、ヘティを連れ戻しにいくのだ。

そう告げると、ゲインが一瞬口角を上げた気がした。

「何だよ」

「いや。それより、次の転移施設だ」

二度目、三度目の転移も無事に終え、ローゼルにたどり着いたのは夜中のことだった。

建物を出る前、ゲインは髪に魔法をかけた。いつもの艶のある焦げ茶の髪を、色褪せたような薄い麦色にしたのだ。

「見咎められる間がおしいからな」

ルーの視線に気づいて、言い訳のように彼はそう言った。

それほど疎まれる場所に、わざわざ帰ってきたのか。ルーは、その心意気に免じて、その苦しげな声を聞き流した。

「ローゼルに魔石の鉱山はないことになっている。でも、今考えると、ある気がしている」


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