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ラスト・エンジェル  作者: yukke
第9章 新生するアイドル
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試される意志

 先ほど、私は無理やり告白されそうになりました。だけど、谷口先輩が浮気したのでその気力が削がれました。


「ちょっと、待て。俺は無実だし、浮気じゃない!」


「えっ? 何で分かったの心でも読んだの?」


「いや、最後だけ声に出てたぞ」


 うっかりしました。私は、あんまり考え過ぎたら口から出ちゃうようですね。


「それよりも、翔さん~好きな人が居るにも関わらず、他の子に目移りするなんて、あなたも他の男と同じ様に、可愛いければ誰でも良いのね!」


「ちょっ……ちがっ!」


 必死に弁明する谷口先輩を見るのも初めてだな。これはこれで気分が晴れるけど、ちょっと足りないです。


「真希ちゃん大丈夫だよ、私は別に谷口先輩とはずっと“いいお友達”でいたいから」


「えっ、ちょっ……」


「べ~だ」


 更に戸惑う谷口先輩に向かって、私は舌を出して嫌悪感を露わにした。

 泡を食って戸惑う谷口先輩を見ていると、何だかもっといじめたく……。しまった、このままじゃ私は女王道を極めてしまうかもしれない。


 う~ん、あの親にしてこの子供有りか。血筋は争えないのかな。なんて、私が唸っていると誰かに肩を叩かれた。


「そうかそうか、ならいつでも俺に乗り換えても良いぞ」


 あれ、いつの間に部屋から出てきたのですか? 脇田さん。


「そうそう、あれは翔君が悪いよ。自業自得だよ。僕で良ければ慰めてあげるよ」


 坂谷君も、ここぞとばかりに私にアピールしてくる。


 う~ん、でも脇田さんは怖いし、坂谷君は……弟みたい。

だからって、消去法で私は谷口先輩を?

 チラッと、谷口先輩を見ると。さっきの女の子が、また谷口先輩にひっついていた。

 ダメだ、脇田さんや坂谷君が同じ事をしても、何とも思わないけど。谷口先輩だけは……。


「あ~もう!! 何で、そうやってひっつくのを許すの!」


「あわわ、明奈落ち着け! こいつはな!」


 何? 何か弁明あるの? 聞いても良いけど、よっぽどじゃなければ許さ……。


「男だぞ!!」


「ほぇ?!」


 嘘をつくにしては、何とも適当な嘘をつきますね。ちょっとがっかりだよ。


「谷口先輩、その嘘だけは」


「嘘じゃない!!」


 確認の為に、私は真希ちゃんにも顔を向ける。それに気づいた真希ちゃんは、私に向かって頷いた。

 えっ? それじゃ、ほんとに?


 すると、谷口先輩にひっついていたその子が、ゆっくりと私に近づいてくる。


「ほんとだよ~ほら」


 そう言って、その子が私の手を取る。

そして、次の瞬間。私の手を自分の股間にもっていった。


「な、何か。覚えのあるこの股間の感触……」


 かつて、私にもあったアレが。その子にしっかりと付いていたのです。こんな、女顔で女の格好していて、仕草も女の子。嘘でしょ……。


 多分、私は今間抜けな顔をしているだろう。だって、鯉みたいに口をパクパクさせているんだもん。


「そんなに驚かないでよ。あなた、元男だった橋田明奈ちゃんでしょ。お仲間じゃん~」


「仲間じゃな~い!!」


 私は、ニューハーフじゃないよ。勘違いしないで欲しいよ。でも、谷口先輩が私が元男だって分かっても平気だったのは、この子のせいか。


「だったら、なんで真希ちゃんは……」


「えっ、だって。男だろうと女だろうと、好きな人が誰かにひっつかられるのは嫌でしょう?」


 この子束縛激しいかもしれないね。

釣られて私も、恥ずかしい事しちゃったよ。






「明奈、落ち着いたか?」


 私は、谷口先輩からお茶を受け取り、ホールにある四角いテーブルのイスに腰掛けて、気持ちを落ち着かせていた。


「ご、ごめんなさい。谷口先輩。勢いで叩いちゃって」


「はは。誤解される様な事をしていた俺も悪いからな」


 そう返すんですか。やっぱり優しいよね。

 うん、顔を見られないよ。さっきから心臓がドキドキしちゃってるよ。

な、何か紛らわす為に話題を。あっ、そうだ。


「脇田さん、すぐに部屋に引っ込んだけど何をして……」


「作詞していたんだよ」


「わひゃぁ?! びっくりした! いつの間に横にいたんですか、脇田さん」


 脇田さんが急に声をかけるんだもん。変な驚き方になっちゃったよ。それよりも、『スター・エンジェルズ』の曲って全部この人が作詞してたの? かなり意外……。


「あっ、そう言えばここの人達も、谷口先輩も坂谷君も羽根をむしられたり、おかしかったりすれけど脇田さんも?」


 私は、気になっていた事を口にしてみた。

 ほんとは、聞くのは図々しいだろうし、相手にとって思い出したく無い過去だけど。でも私は、ちゃんと皆と向き合いたい。だから、敢えて聞いてみた。


 もちろん、私のその言葉に脇田さんは嫌な顔をしていたけれど、私の真剣な顔を見て観念した様に話してくる。


「俺はな、こいつらみたいに中途半端に生えてる状態じゃないぜ。自分で全てむしり取ったからな」


「えっ?!」


 全て、自分で?! それがどれだけの痛みがあるのかと思うと、相当な事なのが分かる。


「俺に、こんな羽根は邪魔だったんだよ。昔グレてた俺に、何でこんな物がってな。むしゃくしゃしてむしってやった。その後で後悔したがな……」


 私は、ただ黙って聞いていた。実は、ここに来てから少し気になっていた事があるの。

 坂谷君以外は、羽根をむしられているみたいなんだけど、全員背中を壁に付けたり、イスの背もたれにもたれかかったりしないのです。


「俺達白い羽根の奴らにもな、多少は羽根に感覚があるんだ。お前みたいに、羽ばたかしたりは出来ないがな。付け根の肩甲骨を動かす事で、多少動くくらいだ。何が言いたいかは、分かるか? そんな肩甲骨から直に生えてる羽根をむしるんだぜ」


 私は、その後に続く言葉がだいたい予想できていた。

それでも、しっかりと脇田さんの顔を見る。


「その後にあるのは、激痛だぜ。ちょっとでも、背中に何か触れようものなら、神経を抉られるような痛みが襲うんだ」


 やっぱりね。だから、脇田さんはイスにしっかりと礼儀正しく座っていたのね。

 皆もそういう座り方しているから、違和感でしかなかった。

でも、今脇田さんの話を聞いて、羽根をむしった後の後遺症が相当なレベルなのだと思い知った。


「あっ、じゃぁ谷口先輩も?」


 谷口先輩も、片方を親にむしらていたはず。すると、先輩はゆっくりと頷く。


「そうだよ、俺も左側がむしられているからな。そっちに何か触れると、同じ様な激痛が走る。だから、ほら。右側に重点を置いて座ってるだろう?」


「それ、体悪くしますよ」


 谷口先輩は絶対に、腰に負担かかってるはずだよ。


「あぁ、分かってるさ。だけど、それでも我慢出来ないくらいの痛みが走るんだよ。体の事とか、気にしてられないさ」


 私は、どれだけ恵まれていたのやら。そう実感せざるを得ない状況が、ここにはあった。

 この人達の救いの為に、『スター・エンジェルズ』が動いている。


 そんな中で、なぜミカエルは私にその後任をさせるのだろうか?

 どんな意図があって、あの映像を全国に送ったのだろうか。


「こんな時に限って何で出てこないの。ミカエル」


「ん? ミカエルさんは、消滅したんだろ?」


 あっ、つい声に出てましたか。とりあえず、谷口先輩だけにしか聞こえて無くてよかった。

 詳しい事情を知ってるの、この人だけだしね。


「あっ、えっと。その、一応無事だっからね。ミカエルは消滅してないよ」


 私はこっそりと、谷口先輩に耳打ちをする。その後、谷口先輩が安堵した表情をしていた。


「でも、それなら何で姿を見せないの?」


「分かんないわよ。私が、今朝学校に行く時に姿を見せただけで、そのままどこかに飛んでいったんだもん」


「まだ、本調子じゃないって事かな?」


「う~ん……」


「2人ともいっそのことキスしちゃえば?」


「ほえぁ?! ま、真希ちゃん!」


 ヒソヒソ話に夢中になっていて、気づきませんでした。私達の後ろに、真希ちゃんがいた事に。私は、咄嗟に谷口先輩と距離を取った。


「俺達は諦めた方が良いかね~?」


「ちょっと、脇田さん!」


 にやけ顔で言わないで欲しいですね。恥ずかしいです。


「ほんとに、君は可愛いな明奈。それなら、ある程度のアイドルならなれるだろうけど、俺達は少し特殊だよ。ミカエルの後押しがあるとは言え、少し不安なんだよ。俺達は、本気でこの現状を変えたいんだ」


 私が慌てているのを見ながら、谷口先輩がそう言ってきた。

確かに、そこらのアイドルより重いもの背負っているのは分かったよ。


「明奈。君は、君自身に俺達と同じ事が起きた訳では無い。果たして、ミカエルの後を継ぎ、俺達と一緒に来られるかい?」


 今すぐ決められるものじゃないよね、これは。施設の皆もジッと私を見ている。

 私がどんな人なのか、ミカエルと同じ事が出来るのか。そんな風に審査されているみたいです。


「ちょっと、考えさせて」


 私は、自然とその言葉が口から出た。想像以上だっからね。

こんな重いものを背負えるのだろうか。そう、私には自信が無かった。


「あぁ、大丈夫だ。しっかりと考えてくれ」


 谷口先輩は、俯いた私に微笑んでくれた。

でも、今はその微笑みは逆効果ですよ谷口先輩。

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