試される意志
先ほど、私は無理やり告白されそうになりました。だけど、谷口先輩が浮気したのでその気力が削がれました。
「ちょっと、待て。俺は無実だし、浮気じゃない!」
「えっ? 何で分かったの心でも読んだの?」
「いや、最後だけ声に出てたぞ」
うっかりしました。私は、あんまり考え過ぎたら口から出ちゃうようですね。
「それよりも、翔さん~好きな人が居るにも関わらず、他の子に目移りするなんて、あなたも他の男と同じ様に、可愛いければ誰でも良いのね!」
「ちょっ……ちがっ!」
必死に弁明する谷口先輩を見るのも初めてだな。これはこれで気分が晴れるけど、ちょっと足りないです。
「真希ちゃん大丈夫だよ、私は別に谷口先輩とはずっと“いいお友達”でいたいから」
「えっ、ちょっ……」
「べ~だ」
更に戸惑う谷口先輩に向かって、私は舌を出して嫌悪感を露わにした。
泡を食って戸惑う谷口先輩を見ていると、何だかもっといじめたく……。しまった、このままじゃ私は女王道を極めてしまうかもしれない。
う~ん、あの親にしてこの子供有りか。血筋は争えないのかな。なんて、私が唸っていると誰かに肩を叩かれた。
「そうかそうか、ならいつでも俺に乗り換えても良いぞ」
あれ、いつの間に部屋から出てきたのですか? 脇田さん。
「そうそう、あれは翔君が悪いよ。自業自得だよ。僕で良ければ慰めてあげるよ」
坂谷君も、ここぞとばかりに私にアピールしてくる。
う~ん、でも脇田さんは怖いし、坂谷君は……弟みたい。
だからって、消去法で私は谷口先輩を?
チラッと、谷口先輩を見ると。さっきの女の子が、また谷口先輩にひっついていた。
ダメだ、脇田さんや坂谷君が同じ事をしても、何とも思わないけど。谷口先輩だけは……。
「あ~もう!! 何で、そうやってひっつくのを許すの!」
「あわわ、明奈落ち着け! こいつはな!」
何? 何か弁明あるの? 聞いても良いけど、よっぽどじゃなければ許さ……。
「男だぞ!!」
「ほぇ?!」
嘘をつくにしては、何とも適当な嘘をつきますね。ちょっとがっかりだよ。
「谷口先輩、その嘘だけは」
「嘘じゃない!!」
確認の為に、私は真希ちゃんにも顔を向ける。それに気づいた真希ちゃんは、私に向かって頷いた。
えっ? それじゃ、ほんとに?
すると、谷口先輩にひっついていたその子が、ゆっくりと私に近づいてくる。
「ほんとだよ~ほら」
そう言って、その子が私の手を取る。
そして、次の瞬間。私の手を自分の股間にもっていった。
「な、何か。覚えのあるこの股間の感触……」
かつて、私にもあったアレが。その子にしっかりと付いていたのです。こんな、女顔で女の格好していて、仕草も女の子。嘘でしょ……。
多分、私は今間抜けな顔をしているだろう。だって、鯉みたいに口をパクパクさせているんだもん。
「そんなに驚かないでよ。あなた、元男だった橋田明奈ちゃんでしょ。お仲間じゃん~」
「仲間じゃな~い!!」
私は、ニューハーフじゃないよ。勘違いしないで欲しいよ。でも、谷口先輩が私が元男だって分かっても平気だったのは、この子のせいか。
「だったら、なんで真希ちゃんは……」
「えっ、だって。男だろうと女だろうと、好きな人が誰かにひっつかられるのは嫌でしょう?」
この子束縛激しいかもしれないね。
釣られて私も、恥ずかしい事しちゃったよ。
「明奈、落ち着いたか?」
私は、谷口先輩からお茶を受け取り、ホールにある四角いテーブルのイスに腰掛けて、気持ちを落ち着かせていた。
「ご、ごめんなさい。谷口先輩。勢いで叩いちゃって」
「はは。誤解される様な事をしていた俺も悪いからな」
そう返すんですか。やっぱり優しいよね。
うん、顔を見られないよ。さっきから心臓がドキドキしちゃってるよ。
な、何か紛らわす為に話題を。あっ、そうだ。
「脇田さん、すぐに部屋に引っ込んだけど何をして……」
「作詞していたんだよ」
「わひゃぁ?! びっくりした! いつの間に横にいたんですか、脇田さん」
脇田さんが急に声をかけるんだもん。変な驚き方になっちゃったよ。それよりも、『スター・エンジェルズ』の曲って全部この人が作詞してたの? かなり意外……。
「あっ、そう言えばここの人達も、谷口先輩も坂谷君も羽根をむしられたり、おかしかったりすれけど脇田さんも?」
私は、気になっていた事を口にしてみた。
ほんとは、聞くのは図々しいだろうし、相手にとって思い出したく無い過去だけど。でも私は、ちゃんと皆と向き合いたい。だから、敢えて聞いてみた。
もちろん、私のその言葉に脇田さんは嫌な顔をしていたけれど、私の真剣な顔を見て観念した様に話してくる。
「俺はな、こいつらみたいに中途半端に生えてる状態じゃないぜ。自分で全てむしり取ったからな」
「えっ?!」
全て、自分で?! それがどれだけの痛みがあるのかと思うと、相当な事なのが分かる。
「俺に、こんな羽根は邪魔だったんだよ。昔グレてた俺に、何でこんな物がってな。むしゃくしゃしてむしってやった。その後で後悔したがな……」
私は、ただ黙って聞いていた。実は、ここに来てから少し気になっていた事があるの。
坂谷君以外は、羽根をむしられているみたいなんだけど、全員背中を壁に付けたり、イスの背もたれにもたれかかったりしないのです。
「俺達白い羽根の奴らにもな、多少は羽根に感覚があるんだ。お前みたいに、羽ばたかしたりは出来ないがな。付け根の肩甲骨を動かす事で、多少動くくらいだ。何が言いたいかは、分かるか? そんな肩甲骨から直に生えてる羽根をむしるんだぜ」
私は、その後に続く言葉がだいたい予想できていた。
それでも、しっかりと脇田さんの顔を見る。
「その後にあるのは、激痛だぜ。ちょっとでも、背中に何か触れようものなら、神経を抉られるような痛みが襲うんだ」
やっぱりね。だから、脇田さんはイスにしっかりと礼儀正しく座っていたのね。
皆もそういう座り方しているから、違和感でしかなかった。
でも、今脇田さんの話を聞いて、羽根をむしった後の後遺症が相当なレベルなのだと思い知った。
「あっ、じゃぁ谷口先輩も?」
谷口先輩も、片方を親にむしらていたはず。すると、先輩はゆっくりと頷く。
「そうだよ、俺も左側がむしられているからな。そっちに何か触れると、同じ様な激痛が走る。だから、ほら。右側に重点を置いて座ってるだろう?」
「それ、体悪くしますよ」
谷口先輩は絶対に、腰に負担かかってるはずだよ。
「あぁ、分かってるさ。だけど、それでも我慢出来ないくらいの痛みが走るんだよ。体の事とか、気にしてられないさ」
私は、どれだけ恵まれていたのやら。そう実感せざるを得ない状況が、ここにはあった。
この人達の救いの為に、『スター・エンジェルズ』が動いている。
そんな中で、なぜミカエルは私にその後任をさせるのだろうか?
どんな意図があって、あの映像を全国に送ったのだろうか。
「こんな時に限って何で出てこないの。ミカエル」
「ん? ミカエルさんは、消滅したんだろ?」
あっ、つい声に出てましたか。とりあえず、谷口先輩だけにしか聞こえて無くてよかった。
詳しい事情を知ってるの、この人だけだしね。
「あっ、えっと。その、一応無事だっからね。ミカエルは消滅してないよ」
私はこっそりと、谷口先輩に耳打ちをする。その後、谷口先輩が安堵した表情をしていた。
「でも、それなら何で姿を見せないの?」
「分かんないわよ。私が、今朝学校に行く時に姿を見せただけで、そのままどこかに飛んでいったんだもん」
「まだ、本調子じゃないって事かな?」
「う~ん……」
「2人ともいっそのことキスしちゃえば?」
「ほえぁ?! ま、真希ちゃん!」
ヒソヒソ話に夢中になっていて、気づきませんでした。私達の後ろに、真希ちゃんがいた事に。私は、咄嗟に谷口先輩と距離を取った。
「俺達は諦めた方が良いかね~?」
「ちょっと、脇田さん!」
にやけ顔で言わないで欲しいですね。恥ずかしいです。
「ほんとに、君は可愛いな明奈。それなら、ある程度のアイドルならなれるだろうけど、俺達は少し特殊だよ。ミカエルの後押しがあるとは言え、少し不安なんだよ。俺達は、本気でこの現状を変えたいんだ」
私が慌てているのを見ながら、谷口先輩がそう言ってきた。
確かに、そこらのアイドルより重いもの背負っているのは分かったよ。
「明奈。君は、君自身に俺達と同じ事が起きた訳では無い。果たして、ミカエルの後を継ぎ、俺達と一緒に来られるかい?」
今すぐ決められるものじゃないよね、これは。施設の皆もジッと私を見ている。
私がどんな人なのか、ミカエルと同じ事が出来るのか。そんな風に審査されているみたいです。
「ちょっと、考えさせて」
私は、自然とその言葉が口から出た。想像以上だっからね。
こんな重いものを背負えるのだろうか。そう、私には自信が無かった。
「あぁ、大丈夫だ。しっかりと考えてくれ」
谷口先輩は、俯いた私に微笑んでくれた。
でも、今はその微笑みは逆効果ですよ谷口先輩。




