お風呂タイム
食事がテーブルに並びだし、そろそろ夕飯の時刻が迫ってきていた。
「ほら、早く」
「ちょっと待って、望。こんな服装はさすがに」
そう言いながら、俺は望に手を引かれ階段を引きずり下ろされる。
冗談じゃないぞ、こんな格好で降りられるわけがない。
「もう、可愛いから大丈夫だって」
望は最後の1~2段を、俺の後ろに回りこみ背中を押しだして無理やり突き落としてきた。俺は、バランスを取り何とか着地した。危ないぞ、そのまま壁にめり込んだらどうするんだ。
「あら、可愛いわね~明奈。似合ってて良かったわ~でも、いきなりスカート履くなんてどういう心境の変化?」
しまった、結局披露する事になってしまった。
そう、今の俺は薄手の長袖ブラウスに、ひざ丈の可愛いフレアスカートを履いており、もう完璧に女の子の格好になっていた。
「あっ、いや……これは、望に無理やり着せられて」
「ね、可愛いでしょう~」
望が、俺の後ろから顔を覗かせて言ってきた。
ダメだ、今絶対顔真っ赤だ。今日1日でどれだけ真っ赤になってるんだ俺は。
「ぶひぃ。やばい、アニキがこんな可愛い妹に」
「黙れ、ブタ」
「ブヒヒ、クーデレか。悪くない」
テーブルからブタがにやにやして言ってきた。
こいつ、だんだん笑い方がブタになってないか。
「守、いい加減にしなさい。ほらほら、早く席について。ご飯食べましょう。明奈も、無理して毎日着なくてもいいからね」
「うん、わかった」
母さんはにこにこしながら、俺達に席に着くように促した。
さて、夕飯はクリーミーコロッケだクリームではない。
我が家特製コロッケなのだ。
材料は、普通のコロッケなのだが中がクリーミー過ぎてたまらない一品なのだ。
母さんが、具材を徹底的にすり潰しこねまくってるからだ。
もはや、それでストレス発散してるのではないかというくらいに、力強く徹底的に行ってるのだ。
あれ? もしかして日頃のストレスをこれで発散してるんじゃ。
オヤジと喧嘩した後などは、これが1週間続いてうんざりした記憶があるぞ。オヤジへの当てつけかとも思ったがまさか……
って事は、今日このコロッケが出てきたと言うことは、少なくとも俺がこんな事になってしまったからか?
母さんなりにストレス感じてたのだろうか。
「あ、おいしい」
一口かじってみた。今日はいつも以上にクリーミーで旨すぎる。
「だよね、今日のコロッケ美味しいよね~」
望が何の疑問も持たずに感想を口にした。
「そう、良かったわ~今日はいつも以上に気合い入っちゃったからね」
怖いです、怖いですよお母様。こっち見ないでください。そのにこにこ顔がもう怖い。
いや、俺の考え過ぎだ。何も考えず食おう。
夕飯も終わり、各々テレビを見たりとのんびりとした時間をリビングで過ごしていた。
ブタは速攻で自室に戻ったがな。多分アニメの時間なんだろう。
「そうそう、明奈。お風呂入ってきなさい。お父さんはもう入っちゃってるから」
「ふぁ~い」
俺はデザートのリンゴを口にしながら言った。
「って……ちょっと待って、この体でか?」
「当たり前じゃない。何言ってるの?」
母さんがキッチンから、洗い物をしながら言ってきた。
「いや、その。まだ慣れてないし。しばらくは……」
「ダメ。入らなきゃダメだよ、恥ずかしいなら私も一緒に入ってあげる」
望が俺の腕を引っ張りながら言ってきた。
「わぁ、待て待て! 何でお前と一緒に入らないといけないんだ」
「女の子の体の洗い方は男とは違うんだよ。だから私が教えてあげるって言ってんの」
望ってこんなに世話焼きだったか? もうちょい物静かだったぞ。俺がこんな体になってしまってからというもの、家族が少しずつおかしくなってないか?
「あら、だったらお母さんが一緒に入って上げようか?」
母さんが洗い物を済ませ、エプロンで手を拭きながらリビングにやってきた。
「そっちの方が嫌です」
「じゃ、私とだね~」
望は再び、手を引っ張りだした。
腕ちぎれるから。やめてくださいな。
「1人で入るから! 1人で出来るもん!」
あ、しまった。某教育テレビの子供番組の有名セリフ言ってしまった。恥ずかしい。
「ダメ、絶対適当に洗うでしょう」
だが、望は力を緩めなかった。ほんと、そのうちに腕ちぎれるよ。
「全く、男らしく覚悟して望と入ってこい」
ソファーの方に座りながら、晩酌してるオヤジが俺らを見てあきれた顔で言ってきた。
「今は女だも~ん!」
「こんなところで女アピールするな!」
全く、男でいて欲しいのか女になって欲しいのかどっちだ。
そう思ってる間に、ずるずると望が俺を引っ張り階段に行き、1階の脱衣所に向かっていた。
「あ、あれ?」
母さんが手を降って見送っていた。はい、もう分かりましたよ覚悟しますよ。
「はいはい、とっとと脱いじゃって」
「いや、でもまだ恥ずかしい」
「もう、しょうがないなぁ!」
しびれを切らしたのか、望が俺の服に手をかけてテキパキと脱がしていく。
「あっ、待ってまだ心の準備が、もがが……ちょっ、髪」
髪が服に引っかかってるよ。痛い痛い。
「あ、ごめんごめん。長い髪って結構めんどくさいんだね」
望が服を戻し言ってきた。
「む~、悪かったな」
ふくれっ面で望を睨んだ。
「あ、そうだ。ねぇ、アキにい羽根出して?」
「お前、名前」
「えへへ、まだ明奈とか言い慣れないや、二人っきりの時はアキにいって呼ばせて?」
しょうがない、妹だな。まぁ、そういうところが可愛らしいんだよ。兄離れ出来ないというか。
「わかったよ」
そう言いながら、俺は羽根を出した。
「ふわぁ~やっぱ綺麗だね~未だに信じられなかったけど、こうしてみると本物なんだね~」
望がマジマジと見てきた。これは、なんとなく気恥ずかしいな。
「もう、いいか?」
「あ、待って。羽根も洗わないとじゃない? 私の友達にも天使の羽根の人いるけど、洗ってるって言ってたよ」
「何? そうなのか?」
知らなかったな。天使の羽根の奴らは人しれない苦労が有るのだな。
「あれ? 今気づいたけど、アキにい服の背中に羽根の穴空いて無かったけど、よかったの?」
「あっ……羽根消してたし、母さん忘れてたのかも」
でも、ちょっと待て。今服きた状態だよな。羽根生えたよな。
俺と望は、真剣な顔で睨めっこした。どうやら、望も気づいたようだ。
俺は、鏡の前に立ち振り向いて後ろ姿を鏡に映し出すと。羽根は服をすり抜けて生えていた。
「うわあぁぁぁぁあ?!」
「きゃあぁぁぁぁあ?!」
本日3度目の絶叫です。望と一緒にな。
慌ててリビングに駆け上がる。
「どうしたの? 2人とも?」
母さんが、リビングのテーブルでテレビを見ながらお茶をすすってたようだが、口のまわりからポタポタと滴が落ちてるのを見ると、吹き出したな。というかそれどころではない。
「は、羽根。羽根がぁ……服を」
俺があわ食ったように慌てて話してると、母さんが近づいてきた。
「あっ、羽根忘れてたわ。もしかして、服やぶれて……ないわね。え? どうなってるの?」
「俺が聞きたいよ」
とりあえず、原因など分かるわけもなく脱衣所に戻り、ぼ~っとしてるところを望にひんむかれ。風呂に入れられた。
「あ~さっきはびっくりした。アキにいのこの羽根はどうなってるの?」
「ほんとに、俺が知りたいくらいだよ」
望が俺の体を洗いながら言ってきた。
その間にも、望は洗い方を指導してきていた。
女の体って、洗うのでさえひと苦労何だな。特に俺は柔肌らしく、気をつけろと言ってきた。
髪も、女用のシャンプーを使い丁寧に洗う。
「そうそう、アキにい上手だね」
隣で望が体を洗いながら言ってきた。
うっかり隣を見ないようにはしているのだが。妹がやたらとひっついてくる。そんなに狭い風呂場ではないのに。
「ねぇ、アキにい羽根洗ったげるよ」
「え? いや、それも自分でやるよ」
なんでも望の世話になるわけにはと思ったが、その隙に望が俺の後ろに回り、羽根をガシッと掴んできた。
「うひゃい?!!」
くすぐったいやらぞわぞわするやらで、変な声が出た。
「あ、ごめん。痛かった?」
「いや、そうじゃなくてくすぐったいから。その羽根敏感何だしもうちょっと優しく」
後ろを振り向いて望に訴えるが、望の目は光っていた。面白いおもちゃを見つけたようにキラーンと光っていた。
「え~? 友達の触ってみたけどそんな敏感じゃなかったよ~? それに、ここまで手触りも良くなかったし。アキにいの羽根って特別何だね~」
望はそう言いながら、上下にこすりながら洗ってきた。ちょっと強すぎるぞ。望さん。
「あっ、ひゃぁ。ダメ……っ。ちょっ、待ってのぞ……み」
「わあ~悶えてるアキにい可愛い~」
「やめっ、やめて……望。許してっ、はぅっ」
やばいやばい。ブタじゃないけど、変な扉開いちまうぞ。
「ぶひぃぶひぃ」
そうこうやって、鼻息荒く。あれ?
「全くもう……」
そう言って、望は手を伸ばし浴室の湯沸かし器の呼び出しボタンを押した。
俺は後ろを向くと、浴室のすりガラスに横にデカいシルエットが浮かび上がっていた。ま……さか。
しかし、次の瞬間。浴室の扉が開いた音がすると、そのシルエットに向いもうひとつのがたいのいいシルエットが現れた。
オヤジかな?
すると、デカいシルエットにゲンコツをかまし、倒れたのを確認して引きずり出して行った。
オヤジありがとう。
「ブタには気をつけないと」
「そうだね」
安心して前をむき直そうとしたら、後ろの望の裸を見てしまった。
「あ、悪い!」
慌てて前を向いたが、望は気にしてない様子で言ってきた。
「え~別に、女同士だし良いよ」
そして、再び羽根を洗い出してきた。今度は優しくだが、何だか手つきが怪しいぞ。
さっきのようなくすぐったさはないものの、ぞわぞわ感というか。
そう、足の裏をやんわりと指を広げられてくすぐられるような、そんな感覚だった。
「ひぁっ、まって。まだ、続けるのっ……か。あぅっ」
「当たり前じゃん、丁寧に洗わないと。せっかくの綺麗な羽根なんだよ~」
絶対楽しんでるぞ、こいつ。もうこいつとは風呂入らんぞ。
俺はそう決意しながら、望の責めに耐え続けた。
拝啓、お父様お母様。今日、俺は変態の扉の前に立たされました。