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ラスト・エンジェル  作者: yukke
第1章 天使の羽根
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お着替えタイム

 一通り買い物を終え、夕飯も買い揃えた。

因みに、今日はクリーミーコロッケだ。クリームではなく、クリーミーだ。その理由は、食卓に出たら分かる。

母さんは割と料理が得意で、色々作ってくれる。このコロッケも手作りするという。

そして、車に揺られながら俺は大量の紙袋と睨めっこしていた。


「これ、着ないといけないのか……」


 俺はボソッと、母さんに聞こえないようにつぶやいたつもりだったが。


「当たり前でしょ、そのために買ったのよ?」


 聞こえてやがった。どんな地獄耳してるんだ。

俺はため息をつき、こらからの事を考え憂いていた。



  ショッピングモールは、家からだと車で30分かかる。

つまり病院から出たら、家とは反対方向にモールがあるのだ。

辺りは、すっかり日が暮れており学校帰りの子供達が各々の家に向かい、家では夕飯の匂いが子供達を出迎えていた。

俺達は、家のガレージに着き車を降り玄関に向かう。

家には灯りがついているので、望がいるんだろうな。


「望、もう帰ってんのか? 部活はどうしたんだ」


「あなたに、天使の羽根が生えたっていえば部活免除できるでしょうけど、多分守の方でしょう」


 あ、ブタを完全に忘れていた。とっくに売ったものかと……

そういう民謡あったよな。あれは仔牛だがな。


「何をぶつぶつ言ってるの?」


「あっ、何でも無い」


 俺は慌てて玄関に向かい、家に入っていく。

今日は色々あって疲れた早く寝たい。

寝たら治ってないかな。そんな淡い期待を、胸に抱いていた。


 自分の部屋に戻り、母さんから手渡された紙袋をベッドに置き、中のものを取り出す。ついさっき母さんから。


「今のうち着てみて、女の子の格好に慣れなさい」


 と言われたので、どれにしようか並べてみたのだ。

ふむふむ、やっぱり可愛いのが多い。それだけ今の俺がそういうの似合うということか。

やっぱ、ミニスカートが多いな。


「あっ、これなら……」


 何かないかと探してる中に、短めのデニムのズボンを見つけた。しかし、これは短過ぎないだろうか。太もも辺りまでしかない。ホットパンツというやつか。

とにかく、スカートはまだ無理だ。これにしよう。


「上はこれで良いかな? 変かな?」


 そう言いながら、俺は花柄のブラウスを取り出したり、Tシャツを取り出したりした。

う~ん、その前に。ブラだ。

くそ、ダメだ男のプライドかこれだけはダメだという拒否反応が……


「アキにい? 大丈夫? 入るよ」


 ノックをしながら望が入ってきた。いつの間に帰ってきたのだろうか。


「あぁ、お帰り。早かったな」


「うん、アキにいのこと言って部活休んだの。ところでこの服って、買って貰ったの?」


 望がベッドに広げた服をまじまじと見てきた。


「へぇ、やっぱお母さんセンスあるね。今のアキにいなら似合いそうな服だけだね。しかも、ちゃんとスカート以外もあるからアキにいの事、考えてくれてるんだね」


「あっ……」


 意外な事を言われてびっくりした。確かに他にもレディース物のズボンが何着かあった。

あれだけ自分勝手に選びやがってと思ったら、ちゃんと俺の心情まで組んで選ぶとは……


「何、泣きそうな顔してんの?」


「うるさい!」


 見られる訳にはいかない、覗き込んできた望に対して俺はそっぽを向く。


「まぁ、服は良いとして~ブラだよね? 問題は」


 その通り。相変わらず勘が鋭い。


「じゃぁ、私が付けてあげるよ。付け方知らないでしょ? 教えてあげる」


 望は手をわきわきしながら、俺に迫ってきた。


「ちょっと待て、止めろ。目が怖い!」


「観念しなさ~い」


「止めろ~!! 男として、これだけは無理だ!!」


 何としてもこの貞操だけは守る。男としての貞操だけは。



 役10分後、見事に花柄の付いた可愛いらしいブラと、それとセットのショーツを着せられた俺の姿があった。


「うっ、うぅ。恥ずかしい……」


「何言ってんの、似合ってるよアキにい」


 女になって、力が弱くなったのか。簡単に望に力負けし、組み敷かれあっという間に服を脱がされてしまった。

因みに、今まで履いてた男物のパンツもな。ずり落ちないように、ジャージの紐で一緒に縛ってたから苦しかったがな。

どちらにせよ、裸にされたらもう逃げられない。渋々妹の言うとおりに、パンツを履き、ブラをつけた。

ブラの付け方には、少し手間取ったが何とかなった。


「うぅっ。でも、こうして見ると。ほんとに、俺女の子になっちまったんだな……」


「そうだね。でも可愛いから良いじゃん。後、私より年下っぽいよね? アキにいって呼ぶのも変だしなんて呼ぼう」


 何とも不吉な事を言うもんだ。


「止めろ、戻れるかもしれないんだぞ。せめて名前だけは……」


 すると、下から母さんが俺達を呼んだ。


「望~! 守~! “明奈(あきな)”~! ご飯よ~!」


「ちょっと待て~!! 何だその名前は!!」


 俺は慌てて、2階のリビングに駆け下りて行き怒鳴った。

俺の許可無く、名前を変更するな。


「あら、さっきお父さんと決めたのよ。その姿で晃はおかしいでしょう。だから、あなたは今から明奈よ。一文字変えただけで、女の子みたいな名前になるし、丁度良かったわね」


 丁度よくないわ、元の名前もあんた達が決めたんだろうが。


「元に戻れるかも分からないですしね。仮よ仮」


 こういう所は相変わらず強引だな。それで、俺は苦労してきたというのに。


「それよりも、似合ってるわね。ちゃんとサイズ合ってて良かったわ~でも、女の子がそんな格好でウロウロしちゃダメよ」


「あっ……」


 すっかり忘れていた。下着姿だった事を。


「ひっ、ひゃあぁぁぁぁ!」


 俺は、恥ずかしさのあまり顔を真っ赤にして部屋に駆け上がった。


「もう、ダメじゃない。明奈」


 にこにこしながら部屋の前で望がそう言った。ダメだ、望も俺を既に妹扱いしてきてる。


「今日は、人生最大の厄日だぁ……」


 恥ずかしいやら、情けないやら。

俺は、座りこんで手で顔を覆い泣いてしまった。

もう、限界だった。


「大丈夫、これから家族皆でアキにいを支えていくから」


 そう言いながら、望は後ろにつき両手を俺の肩にのせてきた。


「だって、私は……」


 そう言いかけて、望は口を閉じた。

何やら迷った表情をしていたが、すぐににこやかになり俺を立たせようとしてきた。


「さ、今度は服を着ないと。ご飯冷めちゃうよ」


「わかった」


 これ以上情けない事は無いよな。俺は、ゆっくり立ち上がり服を選び始めた。


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