お着替えタイム
一通り買い物を終え、夕飯も買い揃えた。
因みに、今日はクリーミーコロッケだ。クリームではなく、クリーミーだ。その理由は、食卓に出たら分かる。
母さんは割と料理が得意で、色々作ってくれる。このコロッケも手作りするという。
そして、車に揺られながら俺は大量の紙袋と睨めっこしていた。
「これ、着ないといけないのか……」
俺はボソッと、母さんに聞こえないようにつぶやいたつもりだったが。
「当たり前でしょ、そのために買ったのよ?」
聞こえてやがった。どんな地獄耳してるんだ。
俺はため息をつき、こらからの事を考え憂いていた。
ショッピングモールは、家からだと車で30分かかる。
つまり病院から出たら、家とは反対方向にモールがあるのだ。
辺りは、すっかり日が暮れており学校帰りの子供達が各々の家に向かい、家では夕飯の匂いが子供達を出迎えていた。
俺達は、家のガレージに着き車を降り玄関に向かう。
家には灯りがついているので、望がいるんだろうな。
「望、もう帰ってんのか? 部活はどうしたんだ」
「あなたに、天使の羽根が生えたっていえば部活免除できるでしょうけど、多分守の方でしょう」
あ、ブタを完全に忘れていた。とっくに売ったものかと……
そういう民謡あったよな。あれは仔牛だがな。
「何をぶつぶつ言ってるの?」
「あっ、何でも無い」
俺は慌てて玄関に向かい、家に入っていく。
今日は色々あって疲れた早く寝たい。
寝たら治ってないかな。そんな淡い期待を、胸に抱いていた。
自分の部屋に戻り、母さんから手渡された紙袋をベッドに置き、中のものを取り出す。ついさっき母さんから。
「今のうち着てみて、女の子の格好に慣れなさい」
と言われたので、どれにしようか並べてみたのだ。
ふむふむ、やっぱり可愛いのが多い。それだけ今の俺がそういうの似合うということか。
やっぱ、ミニスカートが多いな。
「あっ、これなら……」
何かないかと探してる中に、短めのデニムのズボンを見つけた。しかし、これは短過ぎないだろうか。太もも辺りまでしかない。ホットパンツというやつか。
とにかく、スカートはまだ無理だ。これにしよう。
「上はこれで良いかな? 変かな?」
そう言いながら、俺は花柄のブラウスを取り出したり、Tシャツを取り出したりした。
う~ん、その前に。ブラだ。
くそ、ダメだ男のプライドかこれだけはダメだという拒否反応が……
「アキにい? 大丈夫? 入るよ」
ノックをしながら望が入ってきた。いつの間に帰ってきたのだろうか。
「あぁ、お帰り。早かったな」
「うん、アキにいのこと言って部活休んだの。ところでこの服って、買って貰ったの?」
望がベッドに広げた服をまじまじと見てきた。
「へぇ、やっぱお母さんセンスあるね。今のアキにいなら似合いそうな服だけだね。しかも、ちゃんとスカート以外もあるからアキにいの事、考えてくれてるんだね」
「あっ……」
意外な事を言われてびっくりした。確かに他にもレディース物のズボンが何着かあった。
あれだけ自分勝手に選びやがってと思ったら、ちゃんと俺の心情まで組んで選ぶとは……
「何、泣きそうな顔してんの?」
「うるさい!」
見られる訳にはいかない、覗き込んできた望に対して俺はそっぽを向く。
「まぁ、服は良いとして~ブラだよね? 問題は」
その通り。相変わらず勘が鋭い。
「じゃぁ、私が付けてあげるよ。付け方知らないでしょ? 教えてあげる」
望は手をわきわきしながら、俺に迫ってきた。
「ちょっと待て、止めろ。目が怖い!」
「観念しなさ~い」
「止めろ~!! 男として、これだけは無理だ!!」
何としてもこの貞操だけは守る。男としての貞操だけは。
役10分後、見事に花柄の付いた可愛いらしいブラと、それとセットのショーツを着せられた俺の姿があった。
「うっ、うぅ。恥ずかしい……」
「何言ってんの、似合ってるよアキにい」
女になって、力が弱くなったのか。簡単に望に力負けし、組み敷かれあっという間に服を脱がされてしまった。
因みに、今まで履いてた男物のパンツもな。ずり落ちないように、ジャージの紐で一緒に縛ってたから苦しかったがな。
どちらにせよ、裸にされたらもう逃げられない。渋々妹の言うとおりに、パンツを履き、ブラをつけた。
ブラの付け方には、少し手間取ったが何とかなった。
「うぅっ。でも、こうして見ると。ほんとに、俺女の子になっちまったんだな……」
「そうだね。でも可愛いから良いじゃん。後、私より年下っぽいよね? アキにいって呼ぶのも変だしなんて呼ぼう」
何とも不吉な事を言うもんだ。
「止めろ、戻れるかもしれないんだぞ。せめて名前だけは……」
すると、下から母さんが俺達を呼んだ。
「望~! 守~! “明奈”~! ご飯よ~!」
「ちょっと待て~!! 何だその名前は!!」
俺は慌てて、2階のリビングに駆け下りて行き怒鳴った。
俺の許可無く、名前を変更するな。
「あら、さっきお父さんと決めたのよ。その姿で晃はおかしいでしょう。だから、あなたは今から明奈よ。一文字変えただけで、女の子みたいな名前になるし、丁度良かったわね」
丁度よくないわ、元の名前もあんた達が決めたんだろうが。
「元に戻れるかも分からないですしね。仮よ仮」
こういう所は相変わらず強引だな。それで、俺は苦労してきたというのに。
「それよりも、似合ってるわね。ちゃんとサイズ合ってて良かったわ~でも、女の子がそんな格好でウロウロしちゃダメよ」
「あっ……」
すっかり忘れていた。下着姿だった事を。
「ひっ、ひゃあぁぁぁぁ!」
俺は、恥ずかしさのあまり顔を真っ赤にして部屋に駆け上がった。
「もう、ダメじゃない。明奈」
にこにこしながら部屋の前で望がそう言った。ダメだ、望も俺を既に妹扱いしてきてる。
「今日は、人生最大の厄日だぁ……」
恥ずかしいやら、情けないやら。
俺は、座りこんで手で顔を覆い泣いてしまった。
もう、限界だった。
「大丈夫、これから家族皆でアキにいを支えていくから」
そう言いながら、望は後ろにつき両手を俺の肩にのせてきた。
「だって、私は……」
そう言いかけて、望は口を閉じた。
何やら迷った表情をしていたが、すぐににこやかになり俺を立たせようとしてきた。
「さ、今度は服を着ないと。ご飯冷めちゃうよ」
「わかった」
これ以上情けない事は無いよな。俺は、ゆっくり立ち上がり服を選び始めた。