決意の中で
こういう時は、時間が過ぎるのが早いと思う。
車の中で、何を言おうか錯誤していると、もう学校に着いてしまいそうなの。
後ろの席に座っている、藤本先生と柳田先生は、最初こそ色々うるさく言ってきたけれど、どっちにしても学校に着けば、全てが分かるんだと思ったのか今は静かです。
そして、遂に学校の校門前にたどり着いた。
もちろん、後ろを走っていた両親の車もたどり着く。
学校の外は意外と凄かった。報道陣がね。
あ~あ、全国の人達にまで私は自分の正体を明かすことになるのかな?
それより、こんな事態なのにミカエルさんはどうしたのでしょう?
全然出てこない。
「報道陣がいっぱいね」
「節度のねぇ奴等だ。下がらせるか?」
鷹西先生と柳田先生が、唸りながら報道陣をどうしようか悩んでいる。
多分、柳田先生も薄々気づいているんだろうね。
「橋田。全てが終わったら、色々話して欲しい。“あの場所”で待っていてくれ」
その言葉に私はゆっくりと頷いた。
藤本先生も、多分気づいている。だから、あの場所で話をしたいんだろうね。
「大丈夫? 明奈?」
「明奈、父さん達も一緒に……」
母さんが言う中、父さんが続けて言ってくるけれど、私はその途中で首振り、父さんの言葉を遮る。
「お父さん。大丈夫、私1人で行く方が良いと思う。危ないかもしれないからね」
私は、両親にそう言うと校門へと向かう。
すると、もちろんだけれど警察官が私を止めてくる。
「待ちなさい、ここから先は……」
「橋田晃の事について、その妹が話をしに来た。とだけ、伝えて」
私のその言葉に、警察官が目を丸くして驚いている。
そして、慌てて無線でどこかに連絡している。
どうやら、上の人に指示を仰いで貰うつもりなのでしょう。
「はっ、はい。わ、わかりました! 許可が出た、私も一緒に行かせて貰うがいいか?」
「うん。後、ついでに後ろの人達もいいかな?」
皆、心配なのは分かるけれども、着いて来こられるなんて思わなかったよ。
いや、私の正体を知りたい人もいるからしょうがないけれどもね。
「む、しかし……」
警察官は、もちろん安全性を考え中に入らせる事はしないと思う。
でも、鷹西先生が真剣な顔つきで警察官に向かって言い放つ。
「何かあったら、私が取りますので通して貰えませんか? 捕らわれた生徒の安全を確保するのも、教師の務めですから!」
「沙耶ちゃんは、相変わらずくそ真面目だな」
「英二、お前はちょっと黙ってろ」
ふふ、この3人は相変わらずだなぁ。
何だか、3人のやりとりを見て少しだけ懐かしい思いをした。
警察官の人は、鷹西先生の熱意に負け特例として通す事にしたみたいです。
そして、家族を含む元同級生3人と綾子とでゾロゾロと校庭へと向かう。
もちろん、学生達は学校の外で見守っている。
でも、ソロモンの悪魔は私を社会的に抹殺するためなのか、報道陣を校庭の中に入れており、ズラリと校庭を囲む様にしている。
谷口先輩にも、バレちゃうなぁ。嫌われるだろうなぁ。
こんな時に、谷口先輩の事が頭に浮かぶなんてね。
そして、私はゆっくりと真ん中へと進んでいく。
家族達は、安全の為報道陣の所で立ち止まっている。
私は、想像していたとおりの悪魔が真ん中に居たので、驚きも何もなかったよ。
ソロモン72柱の序列18位。ルシファーの側近、バティン。
相変わらず屈強な体に軍服を来て、腕組みをし仁王立ちしている。
でも、今回はその肩にはサルまで乗っている。
そしてそのサルは、私に目をやるとにやりと不気味な笑みを浮かべる。
まさか、こいつも……。
「バティンよ、こいつか?」
「そうだグシオン。そして、良く来たな。かの国では世話になった」
そう言うと、バティンはスマイル100%の笑顔を私に向けてくる。
まただよ。この人、愛想ばっかり振りまいて逆に不気味です。
「あなた達の言うとおりに来たよ」
もちろん、周りの報道陣の人達は私の言葉の意味を理解していない。
だって、橋田晃と言う名前からして如何にも男性であろう人物を、ここに連れてこいと言ってきた犯人に対して、今目の前に居るのはどう見ても女子である私だから。
報道陣は、もしかして私がそういう名前なのかと思っている様です。
無くはないからね。
「なら、覚悟は出来たと言うのか?」
バティンの肩に乗ったサルが私に話しかける。
日本で見受けられるサルでは無い、その体は細くて腕も骨みたいに細いのです。
でも、顔は邪悪そうな人間に近い顔をしている。
「あなたも、ソロモンの悪魔?」
とりあえず、先に私はそいつの正体を探る事にした。
「あぁ、そうだ。俺はグシオン。ソロモン72柱の序列11位の大公爵である」
そんな、上位に位置する悪魔が2体か……。
ちょっと、ヤバいかもしれないよこれは。
「俺は、過去、現在、未来の知識を有していて、秘密の物事も知ることができるのさ。もう一つの能力は、制限されていて使えんがな。それさえ使えれば、お前など一発で悪魔側に誘導出来るのだがな」
そんな、素晴らしい能力を持っているのですか。
結界を張ってくれた人にちょっとだけ感謝だね。
さてと、さすがに周りの人も焦れてきているかな。
「さて、我々は橋田晃と言う男性を連れて来いと言ったんだがな」
バティンは、笑顔のままそう言ってくる。わざわざ、男性の部分を強調させて。
その笑顔、止めてくれないかな……。
そして、私は大きく深呼吸をする。それでも、高鳴る心臓を落ち着かせる事が出来ない。
私は意を決し、目をつり上げて2体の悪魔を睨みつける。
「とっくに知っているくせに。私が、橋田晃だということを」
その瞬間、周りが静まり返る。それは、とんでもない事実を聞いた時の、人々の反応に違いなかった。
でも、何だか不思議だった。
皆に正体がバレるのが嫌だった。
常に気を張っていた。バレない様にと。そして、親友と言ってくれる人に隠し事をしているという罪の意識。
それら全てを解放した時って、こんなにも清々しくなるんだ。
気が楽になるんだ。そんな思いが私の中に溢れていた。
「はは、マジかよ。お前、元々男だったのかよ! キ……」
「茶番は止めて。ソロモンの悪魔グシオン! そして、バティン!」
私は、グシオンの言葉を止める様にそう叫んだ。
サルが喋っている時点で、皆普通じゃないのは分かっているはず。
バティン達も、自分の正体がバレても良いんだろうね。
そうなってでも、私を汚したいようです
だけど、もう遅いよ。
決意をした私は、もう誰にも汚されない。
「私は元々、橋田晃と言う男性で28年、自堕落に生きてきたわ。でも、今の私は橋田明奈15歳の天使の女の子よ!」
私は、一旦隠していた羽根を瞬時に出現させると、皆に見える様に大きく広げて見せる。
そう、真っ黒なその羽根を。
皆、一様に同じ顔をしているのはちょっと面白いかな。
後、パシャパシャとカメラのシャッター音も聞こえてくる。
明日の新聞の一面は、私の姿がでかでかと載りそう。
でもここまでの事態なのに、なんでミカエルさんは出てこないんだろう。
「これはこれは、ここまで堂々と開き直られるとは思わなかったよ。でもね、君は詰んでいるよ。何故なら、いつもいつも助けてくれるミカエル君は、俺が滅したからな」
「今、何て言ったの?」
私は、バティンから放たれた言葉に耳を疑い再び聞き直す。
「だから、ミカエルは俺が滅したよ。必死に存在を残そうと、思念体を作ったとは言え、その状態で俺達から逃れる術はないからな」
だから、ミカエルはこんな事態になっても来てくれなかったんだね。
でも、私は何故だか悲しくはなかった。
私の中に、ミカエルの転生したウイルスが居るからかな?
「そう、だったら尚更あなた達を野放しには出来ないわね」
そして、私は校舎に目を向けると、心配そうな目を向ける理恵と朋美の姿があった。
大丈夫、皆が居てくれている。私の正体が何であれ、私は皆の幸せな生活を邪魔をする悪魔が許せない。
私は、悪魔達を再び睨むと手のひらを広げてダイスを出そうとする。
だけど、ダイスは出なかった。
「あ、あれ?」
さすがにちょっと焦るよ。ダイスが無いと、私は何も出来ないってば。
「ほぅ。これはこれは、幸先が良いな。あのダイスは、ミカエルから授かった物だろう? ならば、ミカエルが消えたらそのダイスも使えなくなるのは、当然だろうな」
バティンが自慢気にしながら、私に近づいてて来る。
殺すことは無いと思いたい。私を悪魔側に引きずり込みたいはず。
でも、そもそも悪魔達はお互いにそんなに協力的ではない。
だから、ルシファーを復活させようとするかな? 恐らく、自分がその地位に座ろうとするはず。
あっ、ということは。これはピンチかも。
「これが、最後だ。俺達の仲間になれ。そうすれば、お前の大切な友達は返してやろう。まぁ、向こうは既に友達とは思っていないだろうがな。ずっと友達が隠してきた事、それが男だったという事はさすがにショックだろうしな」
そんなことは、もう私には効かないよ。
たとえ、そうだとしても私は友達を助けるんだ。
すると、急に頭に声が響いてくる。
それは、いつもいつも耳にしているあのミカエルの声だった。
『さぁ、チュートリアルは終わりだよ。ここから先は、君の力で切り開いていくんだ』
その瞬間、私の中から何かが湧き上がってくる。
ううん、中じゃない。私の体全体から、暖かく優しい力と、冷たく冷酷な力が溢れ出してくる。
「な、なんだ! 貴様のその姿は!!」
私は、自分の容姿なんて確認の仕様が無い。
でも、何か変化はしているんだと思う。グシオンの慌てた顔を見るとね。
何だろう。もう、何も怖くない。だって、ソロモンの悪魔達を滅する力が、私の中に目覚めた感覚がする。
「これからあなた達に天罰を与えてあげる」




