絶対に見つける
私は急いで家に向かっている。
ミカエルさんの連絡先を聞いていなかったのは痛かった。
何で聞いていないの私は。
とにかく、谷口先輩ならミカエルさんの連絡先を知っているはず。でも、この前貰った連絡先のメモを家の机に置きっぱなしなの。
だから、なんで登録していないの私は。
すると、私の後ろから知った声が聞こえる。
「やぁ、そんな険しい表情で急いでるなんて、誰かを探しているのかい?」
私は、咄嗟にその声のする方を振り向く。
するとそこには、ミカエルさんが笑顔で立っている。
こんな緊急事態になんで笑顔なの?!
「ミ、ミカエルさん!! 丁度よかった!」
私は、その姿を見た瞬間足を止めようとする。
でも、それより前にミカエルさんが何か言ってくる。
「あ、前、前」
「きゃんっ?!」
思いっきり、曲がり角の手前の電柱にぶつかっちゃった。
もっと早くに声をかけてよ。
「うぅ、電柱め。なんでこんな所にいるの!」
「いや、電柱は悪くないでしょ。君が悪いんでしょ」
「私は、急には止まれない」
「止まろうよ」
絶対笑顔だったのは、これを予想していたからだ。
というか、ミカエルさんと漫才している場合じゃない。
「そんなことより、ミカエルさん。力を貸して! 私の2人の友達が、ソロモンの悪魔に連れ去られたのかも知れないの!」
すると、ミカエルさんが意外な事を言ってきた。
「あぁ、僕もその為に君を探していたんだよ。今回、君の力が必須になりそうだからね」
「えっ?!」
「とりあえず、事態は一刻を争うんだ。行きながらに詳しく説明するよ。とにかく彼女達は、別の国に飛ばされたんだ。意識阻害の結界を張るから、羽根で飛んでいくよ」
そういえば、ミカエルさんは眼鏡を付けていなかった。
更に、真剣な顔つきになっており。いつもふざけているミカエルさんでも、これはそれだけ緊急事態という事なのでしょう。だったら急がないと。
「ねぇ、ミカエルさん。ちょっと待って。私こんなスピードで飛ぶの初めてなの!」
別の国と言うので予想はしていた。けれど、見渡す限りの大海原。そこを私達は、飛行機よりも早い速度で飛んでいた。
時速と言われても分からないもん。
多分だけれど、飛行機よりは早いかなぐらいです。
「でも、ほんとに急がないと。彼女等の命が危ないんだ」
それを聞いたら、なおさら急ぎたい。けれど、体がついていかない。
もっと、飛ぶ練習をしておけば良かった。
夜中に、こっそりと屋根に上がる程度にしていたからね。
見つかると大変ということもあるから、もっと人目に付きにくい山とかに行って練習しようかなぁ。
でも、今は取りあえず2人が飛ばされた国まで辿りつかなければ。
「はぁ、はぁ……」
必死に、羽根で風の受け方を調節し、たまに羽ばたき速度を調節する。
鳥さんは、毎日こんな事をやっているなんて感心しちゃうな。
「う~ん、やっぱり無理してもだから。少しだけ休憩しよう。この調子だと、後1時間で着きそうだよ」
わぁ、ほんとに飛行機よりも速い速度で飛んでいたんだね。
すると、ミカエルさんが海からちょっとだけ出ている、黒っぽい岩の様な所に降り立つ。
ほんの少し休憩するだけでも、全然違うからね。
でも、出来るだけ早く出発したいかな。だんだん薄暗くなってきたもん。
そんな事を考えながら、私もミカエルさんと同じ所に降りた。
だけど、ちょっとおかしい。こんな大海原にポツンと存在している岩だから、濡れているのは良いけれども。
「なんかここ。普通の岩じゃないのですか?」
不信に思った私は、ミカエルさんに質問するけれども、ミカエルさんは答えなかった。なんだか、にやにや笑っているのが気になる。
というか、動いてるよね? これ。
後、ミカエルさんの背後に小さな穴が見えるんだけど。
すると、いきなりその穴から潮が吹き出す。
「うきゃぁぁああ!!」
私は、そう叫ぶと咄嗟に飛び上がった。
だって、これクジラさんじゃん!!
「どうしたの? 休まないのかい?」
「いや、だって。それクジラさんだよ!」
私は、そう言ってクジラさんを指さした。
体の色からして、シロナガスクジラではないけれども、そこそこの大きさのクジラさんだった。
「クジラは息つぎの為に海面に上がるからさ、しばらくは大丈夫だよ~」
「潜ったり、出たりを繰り返したりだけどね」
すると、クジラさんは息をそこそこ吸ったのか。今度は海に潜りはじめた。
「あっ! ミカエルさん!」
「だいじょうブクブクブク……」
すると、またクジラさんは海面に上がってくる。
「ほら、こうやってすぐに上がってくるから」
あ、また潜った。
「しばらく背中に乗ってもオボボボ……」
「遊んでる場合じゃないでしょう!!」
何やってんの、この人はいったい。
真剣な時にまで遊ぶなんて。1度、脳を輪切りしてみたい。
あっ、でも。この人はもう思念対で、今の体も借り物だったよね。
あれ? じゃぁ。脳はその体の人の物?
「……」
深く考えたら、頭が痛くなってきそうです。
脳は、ミカエルさんの物としておきましょう。
「ふう、だいぶ涼しめたね。これから行く国は暑いからね~」
でも、私は目を細めてミカエルさんを睨みつける。
眼鏡を取っているのに、こんな事をするなんて。この人、素もおちゃらけた人なんだね。
私は、無言でミカエルさんが向かっていた方向に飛んでいく。
「わぁ! 待ってってば。君1人じゃ危ないし、意識阻害の結界から出ちゃうよ!」
「おちゃらけた人なんか、信用できませ~ん! ついてこないで下さい!」
そう言って、私は出来る限りの速度を出して、ミカエルさんから離れようとする。
「こらこら、待ちなさい! 僕が悪かったから!」
さすがミカエルさん。速いです。全然、距離を作れない。
必死に羽ばたいて速度を出し、気流に乗る。
でも、ミカエルさんも同じ気流に乗るから、追いつかれるんだよね。
そうこうしているうちに、遠くに陸地が見えてきた。
でも、緑は無さそうな感じです。
「おやおや、君が頑張るから早めに着いたね。良かった良かった」
まさか、これを狙っていたの?
まぁ、良いです。早く着いたのならね。
辺りはまだ暗くなっていないから、夜になる前に着けたと言うことだね。
家族には、事情を説明して出てきたけれど。やっぱり、あんまり夜遅くというのは心配されるからね。
そして、私達の眼下には陸地が広がりだす。
でも、見た限りでは砂漠が多い気がする。そして、今飛んで向かっている方向からして目的地は恐らく。
「だいたい、予想は出来たかな? これから向かう国は、中東のある国だよ。そこは内戦の多い場所でもあるからね。だから一刻を争うんだよ」
そんな所に2人は飛ばされたの。だとしたらもう……。
私が絶望的な顔をしていたから、ミカエルさんが心配させない様に、声をかけてきてくれた。
「大丈夫とは言い難いけれど、ソロモンの悪魔も近くに居るはずだし。利用する為にさらったのなら、見殺しにするような事はしないはず。それでもどんな言い訳をしたとしても、現地の人を留めておける時間は限られている。だから、急ぐ必要があったんだよ」
だったら、クジラさんで遊ばないで下さいよ。
私はそう訴える様に、また目を細めて睨みつける。
「あっ、ちょっと。その目やめて」
「自覚はあるようですね。なら、次やったら眼鏡割ります」
私のその言葉に、ミカエルさんは冷や汗を流している。いい気味ですよ。
でも、今はミカエルさんよりも2人を助け出す事を考えないとね。
絶対に見つけて、助けるからね。待っていて2人とも。
私は、意を決して羽ばたく羽根に力を入れて、更に速度を上げていく。




