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ラスト・エンジェル  作者: yukke
第7章 今日の後に今日なし ~ 3日間の出来事 ~
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まるで女の子

 私は、期待と不安が入り混じった様な、複雑な表情をしている美奈ちゃんを、朋美ちゃんの部屋の机に座らせた。

もちろん、その机の上にはくしと鏡と、ちょっとしたアクセサリーが置いてある。


 よく、少女漫画とかではドレッサーとか書いているみたいだけれど、朋美ちゃんはそれよりもゲーム等にお金を使っちゃうので、置いていないのです。


「さて、と。あっ、そうだ。朋美ちゃんは、この子の羽根の手入れの方お願いしていい?」


「分かった、任せといて」


「じゃぁ、ちょっとだけジッとしていてね」


「う、うん」


 私の言葉に、美奈ちゃんはコクリと頷いた。

よし、先ずはボサボサの髪をくしでといてと。

やっぱりまだ子供だからサラサラしているね。羨ましいな。

簡単に髪が整うからね、これなら少し髪型を作ってあげても良いかな?

いや、まだこの歳でそれは良いかな。


 私が、そうやって髪をときながら思案している間、朋美ちゃんは優しくゆっくりと、濡らした手で羽根の手入れをしてあげている。


 鳥の羽なんかは特別な油がないと、羽毛が綺麗に整わないけれど。

私達のは鳥の羽ではない見たいで、羽根を濡らすくらいで簡単に整うことが出来るの。

後は、割と簡単に自然乾燥するから、ドライヤーで乾かす必要もない。


「ねぇ、美奈ちゃんは大きくなったら何になりたい?」


 美奈ちゃんの緊張を解すためにも、私は簡単な内容の話をする。

学校ネタは今はダメからね、無難な所ではこれくらいかな?


「えっ? う~んとね。笑わない?」


「んっ? 笑わないよ」


 私は、にっこりと笑ってそう返す。

あっ、枝毛がある。この歳で枝毛ておか……。あぁ、髪の毛引っ張られて裂けたのかな?


「あのね……えとね」


「ん~?」


 私は、気付かれないように笑顔のままで、美奈ちゃんの答えが来るのを待っている。

机の上の手鏡に私の笑顔が映っているからか、美奈ちゃんは手鏡を見ようとしない。恥ずかしがっている?


「わ、私大きくなったら。お、お姉ちゃんみたいになりたい」


「え? 私?」


 そう聞き返したら、美奈ちゃんは小さく頷く。

あれぇ、すごくハードルが低いような。


「えぇ? 私なんか、全然だよ~」


 でも、私のその言葉に美奈ちゃんは首を横に振る。

あぁ、ちょっと。せっかく直した髪がまたボサボサになるよ。


「お姉ちゃんに会うまでは、アイドルになりたかったんだけどね。でも、アイドルはいじめられたりしないでしょ。美奈はいじめられたから、もう無理なんだ。だから私、まずはお姉ちゃんみたいに綺麗な女の子になりたい」


 あらら、アイドルの方がよっぽど目指しがいあると思うのにな。

それに、この子の中にあるアイドルに対しての偏見って言うのかな? それが強いね。


「そっか。でもね、アイドルの人達もいじめられたりしているんだよ」


「嘘?!」


 私の言葉に、美奈ちゃんがものすごく驚いている。

どれだけ、凄い人達の集まりだと思っていたんだろう。

確かに、誰でもなれるわけではないけれども、彼女達にだって色々あるんだからね。


「それに、私の様になりたいなら。もう叶っちゃったよ」


 そう言うと、私は頭をポンポンと撫でてあげる。

すると美奈ちゃんは、片目を瞑った後に鏡を覗き込む。


「えっ? これ、私?!」


 朋美ちゃんの方も、丁度羽根の手入れが終わったようです。

肩までの黒髪セミロングは、くしで綺麗にといてあげたので、さらさらと流れる様に綺麗な髪をなびかせ、前髪は目をしっかり出すように分けてあげた。

たったこれだけでも、さっきと全然違うからね。

後は、頭にリボンの付いたカチューシャを付けてあげる。


 すると、美奈ちゃんの目がキラキラと輝き出している。

美奈ちゃんは素材は良いんだからね、しっかりとオシャレをすればある程度のレベルにはなるんだよ。


 しかも、朋美ちゃんが手入れをしてくれて、傷がほとんど見えなくなった綺麗な羽根とも相まって、かなり可愛い天使の女の子が鏡に映っている。


「……お、お姉ちゃん達。ありがとう」


「ふふ、どういたしまして。ね? 私以上の、可愛い天使の女の子になれたでしょ?」


「ううん、まだお姉ちゃんの方が綺麗だよ」


 私の言葉を否定するように、美奈ちゃんは首を横に振る。

そして、さっきと同じキラキラとした目を私に向ける。


「私、やっぱりお姉ちゃんみたいになりたい! その黒い羽根の方が綺麗だもん!」


 あっ、そう言うことか。私みたいにって、私のこの黒い羽根の方が良いということなんだね。


「う~ん、私のこの羽根の事は内緒にして欲しいかな? 世界で私だけだと思うから」


「えっ、ほんとに?! う、うん! 分かった!」


 キラキラした目がもっと輝いているよ。

だいぶ元気になってきてくれているようで良かったな。


「後、これも上げるね。学校に行くときは、これで前髪を留めたらいいよ」


 私はそう言うと今日買ってきた物の中から、星型の髪留めを取り出して、美奈ちゃんに手渡した。カチューシャも私が買った物だけどね。体が小さくなった時の、オシャレに使えるかなと思って買ったけれど、美奈ちゃんの方が似合いそうだったからね。


「えっ? 良いの?」


「うん、美奈ちゃんに上げるね」


「ありがとう!」


 美奈ちゃんは、嬉しそうに髪留めを受け取りお礼を言ってきた。

そうやって笑っている方がいじめられないと思うよ。

完全に安心は出来ないけれどね。


 ただその様子を朋美ちゃんが、ずっと口を情けなく開け広げて眺めている。


「ちょっと、どうしたの? 朋美ちゃん」


「明奈ちゃん、女の子みたい」


「それどういう意味?」


 何だか失礼な言葉が飛び出したから、笑顔のまま語尾を強めて怒りを出してみました。


「あっ、ご、ごめん! そうじゃなくて、より一層女の子っぽくて、何かあったのかな~って思ってさ」


 成る程。やっぱり、今の私は今までの私とは違っているみたいだね。

でも困ったな。前の私がどんな様子だったのか分からないし、怪しまれないようになんて、ちょっと無理かもしれない。


「ふ~ん、お姉ちゃん。いつもと違うの?」


 美奈ちゃんが、不思議そうに首を傾げている。

あぁ、この子には何の事か分からないもんね。


「そうそう。この明奈お姉ちゃんね、いつもはあんまりオシャレとかしていなかったのにね。今は、オシャレの事にこんなに一生懸命だからさ、ちょっと変だな~って」


 前の私ってそんなのだったの……。恥ずかしいなぁ。

そんなに男っぽい感じだったのね。

 

「そんなの、決まってるじゃん。明奈お姉ちゃんは、恋しているんだよ!」


 美奈ちゃんが、自信満々にそんなことを言ってくる。

恋したら女性は変わるってよく言うけれども、私は多分違うと思う。


「あ~! そっか、なるほど!」


 でも、どうやら朋美ちゃんは納得したようです。

朋美ちゃんは単純だなぁ。





 その後、数十分美奈ちゃんとお喋りしていると、お隣の人が帰ってきたらしく。美奈ちゃんを迎えにきた。

美奈ちゃんの変わりぶりに驚いており、私達にペコペコと必死にお礼をしていた。


「それにしても明奈ちゃん、ほんとに好きな人できたの?」


「ん? もぉ、美奈ちゃんの言葉信じちゃうの?」


「だって、そう言われたら納得だもん」


 う~ん、困ったな。

そう思っていたら、丁度家族からメールが来て、宝条さんが家に来たことを教えてくれた。


「あっ、ごめん! 今日家族と外食するんだった。今日は帰るね~また、明日!」


「あっ、もう! 明奈ちゃんったら~」


 朋美ちゃんのそんな声を聞きながら、私は足足早に朋美ちゃんの家を後にした。

ごめんね朋美ちゃん。私も、まだこの事態を整理しきれていないんだよ。

落ち着いたら、ちゃんと説明してあげないといけないよね。

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