VS ダンタリオン ~ 人狼ゲーム ~ ①
あっという間に翌日の放課後になり、俺は5人のメンバーと共に体育館へと向かう。
正直、ほんとにあっという間なのです。その間の授業も、ほとんど頭に入らない程であり、昨日の夜家族に事情を説明し、万全を尽くすしかないと励まされても、生きた心地がしなかった。
「よくよく考えたら、あんな切れ者相手に、秘策なんて決まるかも怪しいもんだよね」
この対戦の日までの間に、色々考えてしまい。俺はすっかりと自信を無くしていた。
「そんなこと無いよ。私達がいるから!」
「そうですわよ、明奈! 大会の時みたいに、自信満々に戦えば良いのですよ!」
今日、朝からずっと皆が励ましてくれている。
そんなに、俺の顔は自信無く見えたのかな。
「ん、ありがとう。分かった、やるだけやってみる」
皆がこんなに励ましてくれているんだ、気をしっかり持ってやるだけやってみるか。
そして、体育館にたどり着くと入り口が開け放たれている。まるで、ぽっかりと口を開けて獲物を待っているような、そんな恐ろしい感じがする。
俺は、一瞬入り口の手前で足を止めてしまう。
体育館の中には、全校生徒が集まっているのではないかと思うほどに、先生や生徒が集まっていた。
「うっわ……。皆、暇なの?」
ついつい、そんな愚痴をこぼしてしまう。
「どうだろうな。ただ2年以外は皆、この学校のいじめはおかしいと感じていたんだろうな。そんな中で、こんな事が起きたんだ。やはり、普通じゃないと感じて皆集まったんだろ」
谷口先輩が、俺の後ろからそう言ってくるんだけれど、俺は今谷口先輩の顔をまともに見られません。
絶対に、顔真っ赤になっちゃって思考がめちゃくちゃになります。
ゲームが始まってしまえば、気にならなくなるはず。
それまでは、谷口先輩の顔を見たらダメ。うん。よし、大丈夫。
俺には心強い味方がいるんだから。
そして、俺達は体育館に入っていく。
「やぁ、逃げずに来たようだね」
体育館に入ると、真っ先に多田が俺達に向かって声をかけてきた。
大量の見学者達はざわついており、ソワソワと落ち着きが無い様子である。
多田の左右には、多田が選んだ2年生5人がこちらを見て、にやにやしながら立っている。
「さて、前置きはいいだろう。早速、ゲームを始めよう」
「その前に、どんなゲームで対戦するの?」
俺は先ず、対戦するのゲームの内容を知りたくてそう質問した。
なぜなら、中央にイスが円の様に置かれているからである。
何だろう、まさかイス取りゲームとか言わないだろうね。
でも、それならもっと円の大きさは小さいし、固める様にして置くはず。
これは、どちらかというと会議をするような感じの大きさである。
「ふっ、これから行うゲームは。ゲームの腕は関係ない。その知識と、精神力で戦うゲームだ」
「もったいぶらずに、教えなって」
理恵が腕を組み、イライラしながら聞き返している。
「人狼だ」
人狼……。少し前に有名になったゲームじゃないか。
でもね、何人か頭捻ってるよ!
「人狼って何?」
そう聞き返したのは、理恵だけど。他にも、宝条さんと谷口先輩も分かっていなさそうだった。
さすがに、朋美は分かっているみたいです。ゲーム名を聞いた瞬間、顔が険しくなり、しかしその後不思議そうに考え込む表情を見せる。
当然、俺も知ってはいるけれども。リアルではやったことがない。オンラインゲームでやったことはあるけれど、かなりカオスな事になっていた為、すぐに止めてしまった。
なので、ルール位は分かる。というわけで、俺が説明するとしよう。
「えっとね。長くなるけど、良いかな?」
その言葉に、ゲーム内容が分からない3人が頷く。
「簡単に言うとね。人狼側と村人側に分かれて、村人が自分達の中に紛れて正体を隠している人狼を見つけて、処刑していくゲームよ」
とりあえず、ここまでは3人ともウンウンと頷いている。
「で、人狼側は自分の正体がバレない様にして、毎晩村人達を殺していくの。村人側は、毎朝犠牲者が出る度に誰が人狼なのかを調べるの。そして、相談しながら怪しいと思った人物を夜になる前に処刑するの。だから動きとしては、朝にみんなで話合い誰が人狼なのかをピックアップするの。怪しまれた人は、何とか処刑されずにしないといけないわね。人狼は、ひたすらに怪しまれないように会話する必要があるわ」
「ふぇ、ちょっと待って難しくない? それ?」
理恵の頭から煙が見える。やっぱり理恵のおつむではキツいでしょうかね。
「その、怪しい人物ってのは会話だけで見つけないとダメなのか?」
お、さすがに谷口先輩はだいたい理解しているご様子。
俺の説明も大ざっぱなのに、よく分かるね。
「そこで、特殊な能力を持った役があるのよ」
「役ですか? お金持ちとかですか?」
発想がなかなかです。でも、確かスマホのアプリには富豪なんて役があったはず。
とりあえず、今回はそんな難しい役は使わないはず。簡単な役だけ、説明しておこう。
「まぁ、この役ってオリジナルで色々作れるのよ。このゲームって著作権ないからさ、皆好きな様に設定して遊べるのよ。でも、基本的な役はあるから、それは説明しておくね」
その言葉に、3人が耳を傾かせて真剣に聞き取ろうとしている。
「まず、『占い師』この人は夜の間に怪しいと思った人物を占えるわ。そして、朝にその結果出て、人狼なのか村人なのかが分かるの」
「あら、簡単ではないですか?! その人がどんどん占って人狼を探すだけですわね!」
宝条さんが、当たり前の事を言ってくるんだけれど、これはそう簡単なゲームじゃないんだよね。
「綾子ちゃん、最後まで役を聞いててね。役は誰がどの役なのかが分からないのよ、私が『占い師』ですって言っても、その人が人狼かもしれないのよ」
「あら、なるほど。ならば嘘が得意な人は有利なのね」
朋美、説明ありがとう。
嘘が得意だと、人狼が得意ってわけでもないんだよね。それだけ難しいんだよ、このゲームは。
「とにかく、他にも役があるからどんどん言うわね。次に『霊媒師』この人は、朝になるとその前日に処刑された人が、人狼か村人かを見ることが出来るの。そして、『騎士』この人は夜の間好きなプレイヤーを1人守れるわ。そして、後は『村人』ってわけ、これは何の能力も無く、ただひたすらに怪しい人物を探して処刑していくだけよ。処刑するのを誰にするかは、皆の投票で決まるの。今回の人数だと、村人側の役はこんなものかな?」
俺は、確認の為に多田に視線を送ると、その通りと言わんばかりにコクリと頷く。
「そして、次に人狼側の役ね。『人狼』は、簡単よ。この人数だと2人が人狼になるわね。そして、人狼は夜に殺す人物を決めるのよ。普通は、人狼同士はお互いが誰に入れたか、分かるようになっているけれども……」
そうリアルの場合、アプリを使う事が多いかな。
その場合、見えない様に回し合えば人狼同士で、お互い誰に入れたか分かるようになっていて、意思疎通が出来るが。今回はどうするんだろう?
「そうだな、今回は人狼の2人は意思疎通が出来ない設定にしておこう。つまり誰を殺すかの投票が別れた場合。ゲーム進行役の先生に、ランダムに決めてもらうことにする」
すると、多田がその様に説明してきた。
なるほど。相談する時間もあるし、ゲームの進行役は参加者以外がベストかな。
「じゃぁ、後は『狂人』だけど二重人格者とか、色んな呼び方があるけど、分かりやすい呼び方にするね。この役は人狼側。人狼を勝たせる事が目的なの。ただ特殊なのが、占い師に占われても、霊媒師に見られても、『村人』として出るのよね。だからかなり厄介な存在よ。とまぁ、役はこんなものよ。後は、勝利条件だけれども。村人側は、人狼を全滅させれば勝ち。人狼側は、生き残っている人狼の数と村人の数が一緒になれば勝ち。つまり、人狼が2人生き残っていて、村人が2人まで減れば人狼側の勝ち。分かった?」
とりあえず、理恵以外は何とか分かった様です。
ちょっと、理恵さんだけじっくりと別で説明してあげよう。
数分後、何とか理恵も理解出来たようです。
さて、これで準備は出来た。けれど、朋美が悩んでいた事が俺にも分かった。
「あのさぁ、多田……先輩。これ、どうやって敵対した私達の勝敗をつけるの? あなたも私も村人になったら、どうやって勝ち負けつけるのよ」
そう、このゲームは最初から敵対して戦う様なものではなくて、完全に敵味方はランダムである。
「あぁ、それは簡単だ。君の所属しているチームが勝てば、それで君の勝ちにしよう。君の所属しているチームが負けたら、私の勝ちだ」
なるほどね。それなら、何とか……ならないね。
俺が人狼側になったらすっごい不利だよ。
現に、このゲームは人狼側の勝率は限りなく低い。
というか、多田先輩も俺も人狼側になったら負け確定じゃないのかな?
あれ、これははめられたかな……。
しょうがないなぁ……。
少し、仕込んでおこう。
「さて、ルールが分かったら席に着いてくれ。そして、ここからは番号でお互いを呼び合ってもらう」
そして、俺達は席に着いていく。
すると、俺達の間を1つずつ開けて座らせ、その間に2年生を座らせている。
なるほど、俺が余計な事をしないようにか。
だけどもう遅いよ。
多田が1番。
その次に2番の朋美。
そして、3番は2年生。
次に4番の谷口先輩。
5番は2年生。
6番に俺。
7番は2年生。
8番は宝条さん
9番2年生。
最後10番が理恵か。
番号はざっとこんな感じで振り分けられた。
そして、多田がゲーム開始を宣言する。
「さぁ……ゲームを始めようか」




