動き出す者
「終わった~!!」
終了のチャイムが鳴ると同時に理恵が叫ぶ。
叫びたい気持ちも分かるけれども、うるさいですよ。
「理恵ちゃん、よっぽど終わらせたかったのね~」
「当たり前だろ、朋美。後は赤点が無ければ万々歳よ」
「まぁ、2人ともよっぽど赤点が嫌だったのか、かなり頑張ってたもんね」
後ろから答案用紙が回収される中、俺は2人にそう言った。
実際、夜遅くまで頑張って勉強していたようだし、俺の家で勉強会を何回もやった。
そのおかげで、俺も理解力が深まったのかな。かなり自信がある。
返ってくる時がちょっとだけ楽しみになっている。
この学校は順位を張り出す事はしないから、恥ずかしい思いをする必要はなかった。
「よ~し!! 今日も部活は休みだから、2人とも遊びに行くぞ~!」
「お~!!」
朋美も遊びたい様で、元気よく返事をしている。
でも、俺も勉強ばっかで息が詰まりそうだったしご褒美はいるよね。
そして、テストは午前中だったので3人で一緒に外で昼食をとり、ゲームセンターにやって来た。
「よ~し! そして、この後はカラオケ行くぞ!」
理恵は、もの凄くハイテンションになっている。
しかし、ゲームセンターに来るのも久しぶりだね。色々と新しいゲームが出ていて面白そうだ。
「よし、朋美か明奈。どっちかこれで勝負するぞ!」
そう言うと、理恵はリズムに合わせて太鼓を叩くゲームの所へ向かう。
人気のゲームだね。主に高校生や中学生がやることが多いからね。
いつもは人がいっぱいだけど今日は空いている。
「あっ、ごめん。私はやったことが無いから勝負にならないかも」
「じゃぁ、私が相手するよ理恵ちゃん」
「おっ、よっしゃ。朋美、かかってこい!」
やれやれ。入学当初から比べると、朋美はだいぶ明るくなったね。
そして、2人はお金を入れてゲームを始める。
すると、なんと一番難しいレベルを選択しているではないか。
そんなに上手いの? 2人とも。
そんな俺の心配をよそに、ゲームがスタートすると2人はとんでもないスピードで太鼓を叩いていく。
もはやプロレベル。この2人何回か最高得点を出していそう。
「おぉ! やるねぇ朋美」
「ふっふ~ん、ゲームと名の付く物に私は負けるわけにはいかないの!」
なんの使命を背負ってるんですか、朋美は。
しかし、あまりの上手さに人が集まってきたよ。
朋美に羽根が付いているから、珍しがれて集まっているのもあるだろうね。動画撮られてるもん。大丈夫かな?
確かに、『天使の羽根症候群』は全国で増えているとは言うものの、確認さらているだけでも約1万5000人程度。
日本人口がおよそ1億2000万人の現在、羽根が生えている人は単純に1万人に1人という計算になります。
つまり、まだまだかなりの少数であるため奇異な目で見られる事は、日常茶飯事です。それなのに、俺の通っている高校には俺が知っているだけでも3人も羽根持ちが居るのは多いというわけ。
と、そんなことを考えていた時。
スコーン!!
「ふぎゃっ?!」
何と、朋美が握っていたバチがすっぽ抜けて俺の額に命中した。
「きゃ~!! 明奈ちゃん、大丈夫?!」
「いたたた。大丈夫だよ」
俺は、額をさすりながら朋美に返事をする。
しかし、何でいきなりバチが? ちゃんと持っておいてよね。
「よっしゃ~朋美、この勝負もらっ……」
理恵がそう言うと最後のマークが現れる。そして、勢いよく両手のバチで同時に太鼓を叩いた瞬間。
バキッ! スカーン!
「たわぁぁ?!」
不自然なくらいに弾かれたバチが、両方とも理恵の額に命中した。
もちろんカウントはされなかった。それでも、クリアになっているから凄いんだけどパーフェクトにはならなかった。
「あ~もう!! 何なの、いきなり!」
理恵が大変ご立腹です。
しかし、この不自然さどこかで感じたような。
「はっはっ!! どうや! 久々の不幸をくらった気分は!」
いや、たまたま運が悪かっただけだね。
最近、目の前ですっころぶ人が多いしそういう時期なのかな?
「いやだから、俺の仕業や言うねん! 俺達の上司ソロモンの悪魔達が動き出したんや! 俺達もこっちでこき使われとんねん!」
後は、電車を乗り過ごす人も良く見るし。いや、これはよくある不幸だし。後、なんか外の男子トイレからたまにだけど悲鳴が聞こえる。「チャックが~!」ってね。
何かを挟んだような悲痛な叫びもあって、何だか可哀想に思えるくらいにね。
「だから、それも……!」
後、晩ごはんがね朝はカレーと言っていたのに魚になっていたりね。
朝パンを焼こうとしたら、トーストのタイマーが壊れていて焦げちゃったり。
「だから……無視すなや~」
ついには泣き出したか。最近、ちょこちょこ周りや俺に微妙な不幸が起こるし、もしやとは思っていたけど考えないようにしていたんだよね。面倒くさいから。
でも、この精神攻撃を前に少しは懲りたかな?
「どうせ俺達なんかな、下っ端も下っ端よ。朝から晩まで、上司にこき使われ安月給で働かされる。それにいつまでたっても昇格せ~へん」
あっ、いじけだした。
床に座り込んでのの字を書いている。
じゃぁ、もう行って良いかな?
「あの、いけ好かんクソ公爵のせいでもう心身共にボロボロやねん! ちょっとはストレス解消を……っておらんし!! こら~! 何処行った~?!」
「全く、君は相変わらず仕事が出来ないんだね。そして、クソ公爵とは僕の事かな?」
「あっ、ダ、ダンタリオンさん。何で、ここに? いや。ちゃいまねん。これは……その。あっ、ゆ、許してくださ~い! ひぃぃぃいいい!」
「ご苦労様です……」
「明奈ちゃん、どうかしたの? あっ、ほら。このゲーム一緒にやろ?」
危ない危ない。朋美に聞かれる所だった。
しかし、ギリギリ聞き取れたけれども、ダンタリオンが来ているのか。
厄介な事にならなきゃいいけれども。
「明奈ちゃんでも、これなら出来るでしょう? ほら、クイズゲーム」
「あ~確かにこれなら。って、これ登録しなきゃいけないんじゃ?」
「まぁ、そうした方が色んな事が出来るけれど。普通にクイズを楽しむだけなら、登録する必要はないよ」
俺の質問に、理恵が答えてくれた。
確かに、登録したらクイズの解答率やアバターみたいものが設定出来るみたいだね。あとランキングも登録できるのか。
うん、普通にクイズするだけなら登録は要らなさそう。
「よし、3人でやるぞ!」
「理恵、やる気満々だね。へぇ、4人まで競争形式で出来るんだ。すごいねこれ」
「私、これも結構得意だよ~」
朋美が自信満々だ。というか、その知識を勉強の方にも回してくれないかな?
「へぇ、皆自信満々だね。じゃ、僕も参加させてもらおう」
突然、俺の横から聞き覚えのある声が聞こえる。
「えっ? 多田先輩……!」
朋美が声を上げる。部室での事件を知っているからか少し怖がっている。無理もない。
というか、こんな堂々と来られるとは思わなかった。
毎回そうだけども、余程の自信があるようです。
そして俺は、皆に聞こえない様にダンタリオンに話かける。
「いったい、何のつもり? ダンタ……いえ、多田先輩」
「ふっ、何。単純に君の実力を知りたいだけさ。このゲームで君をどうこうするつもりはないよ」
後ろに、顔をパンパンに腫らしたバイキン悪魔を連れていたら信用できませんよ。
俺は、目を細めて多田先輩をじぃっと睨む。
「あっはっは。後ろのは気にするな。所詮小物だからね、こいつらが君をどうこう出来るとは思えないしね。それに、君は僕自身の手で潰したいからね」
俺はあまりの殺気に、体が後ろに引いてしまった。
「まぁまぁ、2人とも。どうせだから一緒にやって貰おうよ。2年生だって、全員が悪いわけじゃないだろう?」
理恵は、この人は2年生の悪事を扇動している方ですよ。
そう言ったところで2人には分からないだろうし、秘密裏にこいつを倒さないといけないね。
「ありがとう。まぁ、これはお遊びだしね。気軽にやろうよ。これから始まるゲームの前哨戦としてね」
やはり、この人は何かを企んでいる。
しょうがない。相手が俺の実力を見るというのなら、俺もこいつがどういう性格なのかを見させてもらおうかな。
「よっしゃ、ゲームスタート!」
何も知らない理恵は、皆がお金を入れたのを確認し高らかに宣言する。
しかし、ちょっと待ってよ。理恵さん、あなたの知識でこのゲーム出来るの?




