皆で勉強会
翌日、俺達は部室を借り切って谷口先輩主催の勉強会を行っている。
そこには、もちろん理恵も同席している。
「すいません、部外者なのに場所を作ってもらったりして」
「あ~大丈夫大丈夫。橋田さんが困ってたからな、それについでにこいつの勉強も見なきゃならなかったし」
そう言うと、谷口先輩は隣に座っている吉川先輩を指さす。
そういえば吉川先輩達は受験生でしたね。
「そうそう、だから気にせずに場所使ったら良いよ~明奈の友達なら断る理由なんかないよ」
吉川先輩は、ケラケラと明るく笑っている。
それは、きっと朋美の隣に座っている山本先輩を気にしての事だろうね。
いじめは控えられているはずだが、クラスに居場所は無いんだろうし、暗い性格はそう簡単には直らないよね。
「亜希子、あなたね。人の心配している場合かしら? 中学の時から私が徹底して、勉強教えているにも関わらずになんでいつも赤点を取るのでしょう」
「あっ、いや。昌子そんな目で見ないでぇ」
神森先輩が、目を細めて吉川先輩を睨むとまるで子犬の様に縮こまり脅えだしている。
「特にあなたは、歴史が悲惨でしょうが。ちゃんと、それ覚えてるの?」
「わ、私だってちゃんとやっているわよ!」
吉川先輩が、頑張って言い返している。
けど、やっているかと言われたら微妙だと思う。だって、ずっと俺の羽根眺めてたもん。
視姦している様な目でね……。
「よし、亜希子。それなら超簡単な問題出すぞ?」
「ドンと向かうわよ!」
日本語おかしくないですか? 絶対テンパってるよね?
「よし、お前は中学生レベルも解けなかったが、ちゃんとやっているならもう分かるよな? 710年、なんと見事な?」
「大阪城?」
「……」
「……」
「語呂は良いと思ったんだけどなぁ」
吉川先輩、そういう事じゃないんですよ。
あり得なさすぎて、皆机に突っ伏しています。
でも、その中で山本先輩だけノーリアクションなのがよっぽどだけど、今は置いておこう。
「亜~希~子」
「ひぃぃぃ! 堪忍や~!」
「今日は徹夜でみっちりとお勉強してあげます!」
心中お察し……しませんけどね。自業自得です。
さて、こっちは2人の勉強を見てあげよう。
「でも、いくら私でも歴史はちょっと得意なんだよね」
朋美が得意気にしているけれど、だいたい予想はつくんですよ。
「だったら、朋美。聖徳太子って何した人?」
「えっ、えっと……」
目が泳いでいるよ、朋美さん。
そんなことだろうと思いましたよ。
「朋美が得意なのは、戦国時代だけでしょ?」
「はぅっ!! ちょっと明奈ちゃん! それは言っちゃ……」
「大丈夫、皆気づいてないし」
そう腐女子で歴史が好きって言う人は、だいたい戦国時代か幕末が得意なだけです。偏っているのです。
「でも私的には、イケメンがイチャラブするよりも美少女天使のお二人がイチャラブしてくれたほうが……ぎゃん!」
今の言葉からして吉川先輩は知っていた様です。
でも最後の余計な言葉により、神森先輩のげんこつが上から振りおろされました。
「真面目にやらないと、二日間連続の徹夜で勉強するわよ!」
「ふぇぇ~ん。翔~助けて~!」
「お前が悪い」
「もががが、ひょんな~」
谷口先輩が泣きついてくる吉川先輩の口を、片手で縦に掴んでいる。
吉川先輩の顔が変顔のごとく変化していて面白いな。
3人は幼馴染みだし、あれくらいのスキンシップは日常茶飯事なんだな。
俺は、ちょっと羨ましく思い3人を眺めていた。
そんな感じで、初日の勉強会は終わり帰路についているのだけれども。
「しかし、君のお友達の2人もなかなかのレベルだったな」
「あはは。でも、おかげで助かりました」
家が近いからなのか、当然の様に谷口先輩も俺の隣にいる。
「一緒に帰ろうか」とか言わずに普通に居るの。
世の女性のほとんどはこれで落ちるのだろうね。
「でも、吉川先輩は今までずっと赤点ばっかりなのですか?」
「それだとさすがに留年するだろ? だから、遂にあいつは最終手段を使いやがった」
「最終手段?」
「カンニング」
「ダメじゃないですか?!」
それやったらダメなやつでしょ。
そして、止めないのですか。あなた達は。
「いや、そうなんだがな。俺達もすぐにバレると思ったんだ。そして、キツいお説教でも受ければ良いと思っていたんだ。だけどあいつはバレなかったんだ。それからというもの、あいつのカンニングの腕は日に日に上がっていってな、もう誰も止められなくなったんだ」
ある意味凄いんですけど。普通バレるし、絶対にやったらダメだよ。
「でも、さすがにもう受験生ですしね。それは通用しないでしょうね」
「あぁ、だから昌子の奴が必死になってんだよ。昔からあいつは世話焼きでな」
それは、山本先輩の件でだいたい分かっているよ。超がつくほどのお人好しです。
「君も、教えるの割と上手だったぞ。例えが上手くて分かりやすいうえに、くだいて説明していたのはよかったな」
「ふぇっ?! そ、そうですか? ありがとうございます」
まさか、ほめられるとは思っていなかったね。
これでも男だった時は、大学入試まではやっているから高校1年生レベルなら、まだ何とかなりそうかな。
その後はヤバいかもしれないけれどね。
「後、人に教えながらの方が理解力が上がるからな。君の為にもなると思うぞ」
「あ~確かにそうですね。2人に教えなきゃいけないから、前よりも真剣にに勉強していますね」
「“前よりも”?」
「あ~! 中学の時ですよ。中学の時はあんまり勉強していなくて」
セーフ、セーフ。変な所を突っ込まれたときには焦ったよ。
でも、人間って割と咄嗟でも誤魔化す事が出来るんだね。
「でも、今日見た感じではそんなに勉強出来なさそうには見えなかったな。だからテストも大丈夫だろう」
「そう、ですか。先輩に言われると、何だか自信が出て来ました」
「そうか。それなら良かった」
そう言うと、谷口先輩は俺ににっこりと微笑んだ。
その笑顔、やっぱりイケメンだと違うよね。素敵な笑顔です。
「どうした? 橋田さん」
「はわっ?! 何でも無いです!」
危ない危ない、見とれていましたよ。
谷口先輩相手だと、調子狂うな。
そして気づいたら自分の家に着いていた。
もちろん、谷口先輩は俺の家までついてきてくれている。
自然とこういう事が出来る人の周りには、人も自然と集まって来るんだな。見習わないとね。
「あの、今日はありがとうございました」
俺は、そう言うと深々と頭を下げた。
そうしておかないと、何だか申し訳ないからね。
「良いって、俺も好きでやってることだしな。後、少しでも長く君と一緒に居たかったからな」
「ふにゃっ?!」
谷口先輩がそう言いながら、頭を撫でてくるもんだから変な声が出てしまった。
「あ、あの。先輩。さすがにそれはビックリしました」
「あぁ、悪いな。つい普段通りに接してしまった」
普段通りですか。今までのは狙っていなくて素でやっていたと。
「じゃ、また明日な」
そう言いながら、谷口先輩は昨日と同じ様に手を振りながら去っていく。
「あっ、はい! また明日!」
昨日は呆然としていて返事出来なかったし、今日も危うくそうなるところだったけれど。何とか返事を返せた。
そして、俺は小さくなっていく谷口先輩の姿をずっと眺めてたいた。
「乙女ね~明奈」
「望お姉ちゃん、いつ帰ってたんですか?」
いつの間にか、望お姉ちゃんが後ろに立っています。
母さんも母さんだけど、望お姉ちゃんも望お姉ちゃんだ。
なんで何も言わずに見ているの?
「いや~好きな人に頭なでなでされるなんて羨ましいね~」
そんなところから見ていたんですか。
俺が家に帰ってすぐに、望お姉ちゃんも帰っていたのですか。
「好きな人じゃないです!」
「じゃぁ、嫌いなの?」
変なことを聞いてくる。女性はなんで色恋沙汰の話が好きなんだろう。
「いや、嫌いではないですけど」
「やっぱり、好きなんだ」
「そういうのじゃないの! 素敵だとは思うけれど。好きとか嫌いとか、そういうのじゃな~い!」
「わ~い、明奈が怒った~」
「望お姉ちゃんも、受験生でしょ? 人の事よりも勉強して下さい!」
「はいは~い」
そう言うと、望お姉ちゃんはスタコラと家に入り自分の部屋と向かっていく。
あんまり油断出来ないね。これは。
さて、明日もあの2人に教えなきゃいけないからね、ご飯の前に復習でもしておきますか。
そして、俺も家に入ると真っ先に自分の部屋へと向かった。




