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ラスト・エンジェル  作者: yukke
第1章 天使の羽根
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診察

 朝食を食べ終えて、俺達は病院へ向かう準備をしている。

望は、ついさっき学校に向かった。「アキにいが心配だから私も病院一緒に行く」と言っていたが、オヤジに却下された。

そして、渋々学校に向かった。


「これ、新しい症状として調べられるのかな……」


 俺は不安からか少し愚痴ってしまった。


「心配しなくてもいいわよ、死ぬような病気じゃないんだから」


 そう言って母さんが安心させようとしてきたが、それでもこんな症状は聞いたことがない。


「おい、そろそら行くぞ。早くしないとあそこの総合病院はすぐに混むからな」


 オヤジに急かされ俺達は車に乗り込んだ。

病院へは、家から車で20分くらいのところにある。

その総合病院には、この『天使の羽根症候群』別名『AWS(Angel Wing Syndrome)』と呼ばれているのだが、これの名付け親であり、この症状の第一人者である医師が在籍しているのだ。


「そういや、薬とか出るのかな」


 俺は不安そうにつぶやいた。


「あなた自分には関係無いことは一切興味ないのねニュースでさんざんやってるでしょう? 未だに治療の術が無いって。現状維持で、様子を見るしかないって」


「嘘だろう……治んないのかよ」


 俺は、がっくりとうなだれた。ショックが大きい。治らないのか俺は。


「お前のは症状が違う。どうなるかは今のところわからんだろう。治るかもしれないしな」


 オヤジ、フォローのつもりなのだろうが、あまりフォローになってない。もっと酷いことを言われる可能性もあるって事だ。



 しばらくして、四車線の大通りに面した大きな病院が見えてきた。温暖化対策か、患者の治療の為か病院の奥には大きな庭があり、木々も植えてある。


 入り口近くの駐車場に止め、車を降り入り口に向かう

その医師がいるのは内科なので、そこに受診することになる。

入り口から中に入ると、受け付けとロビーになるが季節の変わり目からなのか、人でごった返しになっていた。

その中に、何人か真っ白な羽根が生えた奴もいた。


「相変わらず、綺麗なもんだな」


 俺は感心して見とれていた。

しかし、チラチラと視線が気になるな。羽根は今消してるし、いったい何なんだ。


「そりゃ、あなたそんな美少女なのにダボダボのジャージ姿はねぇ」


 母さんが、俺を見て注意してきた。しかし、これ以外に服ないしな。


「帰りに服でも見繕いましょうか」


 あまり、可愛い系はご遠慮願いたい。

だからと言って、男っぽいのはこの体じゃ変だよな。


「へぶぅっ?!」


 俺がそうやって悩んでいたら、何かにつまずいて盛大に転んでしまった。そして、何とも情けない声が出てしまう。

というか、何につまずいたのかと思いきや自分で自分の靴を踏んでしまっていた。


「ひたたたた……」


 鼻を打ってしまいヒリヒリする。かっこ悪すぎる、泣きたい。

あ、でも今涙を出しても転んだせいにしたら。いや、恥ずかしいから止めとこう。


「あら、靴も買わなきゃいけないわね。大丈夫?」


 そう言いながら、母さんは俺に手をさしのべてくる。


「いいよ、そんな子供じゃないし大丈夫」


 そう言いながら起き上がり、階段で2階に上がって行く。

2階に着くと、内科の窓口に向かいオヤジが今日来た内容をかいつまんで話していた。俺達は、その前の大量に並ぶ長いソファーに腰掛けた。

周りはマスクをしている人が多く、咳もちらほら聞こえてくる。


 俺は、正直病院は嫌いだ。治療がとかじゃない。ここに来たら、風邪じゃなくても風邪をうつされたりしそうだからだ。

マスクをしている人達は別にいいが、中にはマスクをしてない奴もいる。そんな奴は何故か遠慮無しに咳をしてくる。勘弁してほしいものだ。


「晃、看護師の人がこっち見てるわよ。羽根出しといた方が良いんじゃないの?」


 母さんの声に気づき、前を向くと看護師が怪しげににこっちを見ていた。

やれやれ仕方ない。というか、どうやって出すんだろう。消えた時と同じように念じればいいのかな。やってみるか。

俺は、「生えろ生えろ」と念じてみた。すると。

バサッという何かが広がる音が聞こえ、背中が引っ張られる感覚に襲われた。

どうやら、成功したな。やはり、念じれば出たり消えたりするのか、便利だな。


 しかし、俺が羽根を出した瞬間周りがざわめき出した。


「何だあれ? 急に羽根が生えた?!」


「うわ。真っ黒だ、どうなってんの? あれは」


「天使の羽根の人?」


 しまった。周りの目を気にせず出してしまった。

こんな奴は初めてだろうからそりゃ一斉に視線はこっちに来るし、怪しまれるわな。

あれ、看護師の奴。あごはずれたのか、ずっと口があんぐりしてますよ。

俺達は、しばらく周りの視線を気にしながら待った。


「やっぱり珍しいのかしらね。皆見てくるわね」


 それはそうでしょうとも、こんな症状を持った奴は初めてだからな。すると。


「橋田さ~ん、橋田晃さ~ん」


 俺の名前が呼ばれ、診察室に入る。

もちろん両親も一緒だ。

何を言われるのだろうか、俺は非常に緊張していた。


 診察室の中では、少し体格の良い白衣を着た医師が座っており、カルテを書いている。

俺はその前に座るように促されたので、医師の前のイスに座った。


「お待たせしました。今日はどんな事で来られましたか?」


 流れ作業みたいなものだ。医者は、最初はほぼ必ずこれを言う。

後ろで、両親が必死に説明していたが。俺に症状が現れているんだから、俺が言った方が良いと思ったので、自分で俺の身に起こったことを説明した。

ひと通り話を聞き終わった医師が口を開く。


「ふむ、まず聞いた事の無い症状の目白押しですね。そもそも男性だったのに、女性に。羽根も生えたが、真っ黒……と。う~む」


 医者の言葉が止まり、唸りながらあごに手を当て考え込んでいる。


「晃が、ここでアレルギー検査をしたり、治療を受けていたりとしているのでその時のカルテが残っていれば多少判断が付くと思うのですが」


 母さんが不安を感じたのか、黙ってしまった医者に対しそう言ってきた。

なるほど、それならば医学的にも俺が晃だと証明されるわけだ。


「わかりました。では、血液検査からしていきましょう」


 そう言いながら、医師は看護師に指示を出した。

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