皆の頭脳は?
「あ~う~、すっかり忘れていましたよ。中間テスト!!」
俺は、授業を受けながら心の中でそう叫んでいた。
そうなのです今週から中間テストです。
すっかり忘れていました。いや、ちゃんとノートは取っていますよ。
理解しているかと言われたら微妙ですが。
とにかく、悪魔対策は後にして勉強に集中しましょう。
「明奈~! 勉強教えて!」
そして休み時間になり、理恵が俺に泣きついてくる。
部活動一筋の彼女のことだから、勉強していないのは分かっていたけど何故俺だ?
「私も、赤点取らないようにってギリギリの事しているの。それに、教えてもらうなら……」
「ならあたしより出来るよね!!」
「いや、どれだけ勉強出来ないのよ理恵。でもそれなら尚更朋美の方が、勉強できそ……」
そう言いながら、俺が朋美の方を向くと。
教科書を広げて、目を爛々と輝かせている朋美の姿がありました。
あなたもですか……。
「ご、ごめんなさい。どうしても今やってるゲームが、今しか出来ない期間限定のクエストが出ていて。それに集中してしまって」
そう言えば、この子隠れゲーマーだった。
照れながらそう言われても自業自得ですよ。気持ちは分かるけれど、ちゃんとわきまえないとね。
「はぁ、全く。しょうがないなぁ。赤点を回避する方法くらいは教えるからさ」
「おっ! さすが明奈様分かってる~!」
「ありがとう、明奈ちゃん~」
俺は、神様じゃないよ理恵。拝まないで。
「良い? 重要だと思われる所は、先生が二度三度繰り返し説明してるのよ、それは絶対に出るわ。だから、そこを何カ所かおさえておけば、最悪赤点ギリギリの点数は取れるの。私のノートにそれが書いているから、暗記しときなさい!」
「えっと、先生~! このXて何?」
「……っ!!」
イスからずり落ちちゃったよ。そこからですか?! 理恵さん!
「ちょっと! 中学でもやったでしょ?」
「ふっ、スポーツ特待生で入ったこの私を舐めるなよ」
「威張ることじゃないよ理恵! それでも、テストの点数悪かったら部活出来ないでしょう?!」
「そうなんだよ~! だから、助けてよ~明奈~」
だぁ~! 何で俺がそんなことを!!
「あ~このXって、要するにバイツ様でYがロウ君ですね。うふふ、解いていけば、2人の心が解けてそして……」
「朋美分かる言葉でお願い。でも、多分それゲームのキャラでしょ?」
そして、朋美に腐女子の疑いが浮上しました。
というか、確定かな? 涎垂らしてにやにやしてるしね。
「で、しかも解き方違うよ朋美……お願いだから、テストの答案にそれ書かないでね」
「はうぁ?! いや、あぅ。これは……」
あ~あ、答えの欄にキャラの名前を……やれやれ。この2人相当ですね。
そして放課後になると、俺は家の近くの図書館に来ている。
今週からテスト期間ですから、当然部活動は休みです。
なので、2人の為にと俺はここの図書館にやってきた。
とにかく、あの2人にはざっとで良いから、中学でやっていたことを復習させる必要がある。
中学の時の教科書なんかは既に処分しているため、図書館で借りなければならなかった。
「というか、何で私がこんな事を……いや、でも何かほっとけないしなぁ」
ぶつぶつ言いながらも、2人に勉強を教えると言ったんだから約束は守らないと。俺は、昔から約束を破ることだけは許せなかったからね。
「……後は、そうそうあそこの参考書分かりやすかったから、高校受験にも使ったっけ。たしか……ここの棚に」
あれ? この辺りにあったはず。
あっ! 上の方に移動させたな。男だった時はいざ知らず、今の女の背丈じゃ届かないぞあれは!
しょうがない、羽根を出して飛びあがろうかな。手を伸ばしても届きそうにないの。
意を決して、羽根を出そうとした時。
「こらこら、君の羽根は他の人とは違うんだから、外では極力使わない方が良いぞ」
後ろから、聞き覚えのある声が。
俺は、ゆっくりと後ろを向くと。そこには、谷口先輩の姿があった。
「あわっ! せ、先輩どうしてここに?!」
「ん? 俺の家もこの近くなのさ。それより、どれを取ろうとしてたんだ?」
「えっ、えと。あれです」
そう言うと、俺は棚の一番上にある参考書を指さす。
「あ~、これか。ほら」
そう言うと、谷口先輩はひょいっと軽々と取って見せた。
俺が男だった時でも、あの高さはそう簡単には取れなかったと思うよ。
この人身長180センチは絶対あるね。
「あ、ありがとうございます」
とりあえず、俺は礼を言って受け取った。
でも、何でか格好良く思えてドキドキしている自分がいる。
どうなってるんですか、これは?
「でも、それ中学の参考書だよな?」
「あっ! いや、これは。クラスの友達に勉強教えてって言われたんですけど、あまりにも壊滅的過ぎてこのレベルからやらないといけない人がいるのです」
「そんなに、酷いのか?!」
「はい、そうです。相当です。私も、そんなに頭良い方では無いので苦戦しています」
今現在、頭が痛くなる問題ですよ。
谷口先輩が同情の目を向けてくるのが、更に痛い。
「そうか、じゃあさ。俺も手伝ってやろうか? 友達の勉強教えるの」
「えっ?! でも、アイドルの仕事は?」
「ミカエルさん以外は、皆高校生さ。マネージャーもそこは分かっていて、ちゃんとスケジュールを組んでくれているから大丈夫だ。ついでに、君の勉強も見てあげられるからな」
それは、願ってもない申し出だけどね。
でも、この人にそこまで迷惑をかけるわけにもいかないんだけれど。
「まぁ、ほんとは君と2人っきりで勉強を教えてやりたいとこだかな」
普通の人なら恥ずかしくて言えない事を、さらっと言うねこの人は。
それもアイドルのなせる技なのかな。普通の女子なら今ので完全に落ちちゃうだろうね。
でも、俺1人では正直キツかったしここはお言葉に甘えようかな。
「あ~、えと。別に2人っきりでやるのは、いつでも出来るから。とりあえず、友達に勉強を教えるのを手伝って下さい」
「そうだな。君も、家が近くなんだよな? なら確かに、いつでも2人っきりになれるな」
ん? しまった。俺はまさかやっちゃったかな。
というか、何故普通に2人っきりで勉強するのを了承しているの?
「あっ、いや。しまった。えと、あの」
「そう言えば、お目当ての物はそれで全部かい?」
「えっ、あ……は、はい」
あ、あれ? 何で、さっきの2人っきりで勉強する事を了承したのを、訂正する事が出来なかったんだ。訂正したくなかった? え? あれ?
「じゃ、家に帰るんだろ? 送ってくよ」
「えっ?! でも、先輩の用事は?」
「あぁ、俺はもう見つけて貸し出ししたからな」
そう言いながら、谷口先輩は何やら難しそうな参考書をカバンから取り出し、見せてきた。
「もう受験だしな。国公立受けるつもりなんだ」
「ほぇ~さすがですね。私なんかじゃ全然手が届かないレベルの大学受けるんですね」
「あぁ、まぁな」
そう言った谷口先輩の顔は、少し寂しそうな表情をしていた気もするけれど、気のせいかな。
その後、図書館を出た俺達は宣言通り、先輩が俺を家まで送り届けてくれた。
「あ、ありがとうございます。その送って貰っちゃって」
「良いって、君の家がここなら俺の家なんて目と鼻の先だよ。そこの通りを渡ってちょっと行ったところだ」
そう言うと、谷口先輩は家に面した通りの真っ直ぐ指さしている。
恐らく、その先の大通りを渡った所に家があるんだね。
ほんとに目と鼻の先だわ。後、1つ思い出したことがある。
「あっ! タオル! 連休中、湖の近くの川に落ちた時に渡されたタオル、返さなきゃ。先輩、連休明けてから一度も部活に来ないんだもん、なかなか返せなくて」
「あぁ、良いよ良いよ。タオルくらい、あげるよ」
「えっ、いや。でも」
「まぁまぁ、ちょっとしたプレゼントだ。ほんとは、君にはもっと良いものをあげたいんだけどな」
格好つけてるってわけでも無さそう。
イケメンは、やっぱり性格違うね。俺もこんなイケメンだったら良かったな。って今更嘆いてもしょうがない、俺は今は女の子だしね。
ところで……。
「もっと、良い物?」
俺は、素直に疑問に思っていることを口にしてみた。
「これだよ」
「……っ!?」
そう言うと、谷口先輩は顔を近づけ俺のおでこにキスをしてきた。
いや、顔近かったからてっきり唇奪われるのかと。
「次は、君の唇を奪うからな。他の奴らに奪われる前にな」
すいません。望お姉ちゃんにとっくに奪われてますよ。
でも、男性からは初めてだったから俺はおでこを押さえて呆然としている。
「じゃ、また明日学校でな」
そう言うと、谷口先輩は手を振り去っていく。
ついでに、俺はまだ呆然としています。いきなりすぎてというよりも、おでこにキスをされたことにより、俺の心臓がドキドキしている。
な、何て事をしていくんだ。
「へぇ~、良い雰囲気だったじゃん。あ・き・なちゃん~」
「ふぇあ?! いつから見ていたんですかお母さん!」
突然、母さんが後ろから声をかけてくるからびっくりしてしまったよ。
どこまで見ていたの? まさか全部見ていたの?
「ん~? あなたが、『あっ! タオル!』って叫んだところね」
だから、それだいぶ初期ですからね。
とりあえず文句と訂正をしなきゃ!
「あっ、いや。あれは、無理やりというか何というか。それより、そんな所を扉の隙間からずっと見てないでよ!」
「あら、失礼ね。扉に付いている、来客を確認する穴から見ていただけよ」
「一緒です!!」
俺は、ふてくされながら家の中へと入っていく。
「あらあら、可愛いわね~」
そんな母親の言葉も、右から左へと聞き流しながら。




