連休6日目 ~ 家族の在り方 ~
俺達のコテージに着くと、俺はへとへとになりしゃがみ込んだ。
あの後、人目のつかない所に一旦降りてそこからは追いかけて来ないか後ろを振り向きながら走っていた。
小さなこの体はスタミナもそんなに無いので、コテージに帰り付いた瞬間この通りへばってしまいました。
「もう、私なんか持って飛ぶからだよ~」
「はぁ、はぁ。大丈夫だよ、お姉ちゃんそんなに重くなかったから」
「お世辞は要らないから、自分の体の事をもうちょっと考えなさい」
そう言って、お姉ちゃんは俺の頭を撫でてきた。
恥ずかしいです。でも、気持ちいいからなんか良いかな。
そして、俺達は昼食をとりながら両親にさっきの事を報告した。
「そう、守は自ら望んで向こうに行ったのね」
母さんが、真剣な顔で呟いている。
「許せないわね、黒毛和牛がご飯なんて。家族よりもそっちを取るなんて」
その通りですね。
全くもって許せないものです。
「仕方がない、向こうの機嫌を損ねるわけにもいけない。それに、守も成人なんだとやかく言うのは止めよう。自ら望んで行ったのなら尚更だ」
忘れてたけど、ブタお兄さんは成人してましたね。
それよりも父さんが震えている様な……
「俺も許せん、許せないぞ」
「えっ? 何が?」
いつもと違う父さんの様子に、望お姉ちゃんも落ち着きがない様子です。
「許せない、父さんだって。女王様に飼われてみた~い!!」
「……」
「……」
はい? イマナンテイイマシタ?
「父さんだって、父さんだって、あんな理想の女王様にならどんなことでもされたい~飼われたい!! あぁ、守の奴め許せん!」
「あ・な・た?」
「はっ?! あ、いや母さん……これは、ちょっと最近ストレスが……」
母さんの怒りがピークです。凄まじいオーラがビシビシと伝わってきます。
「そう。なら、久しぶりに私達の関係を確認しておきましょうか? あなた。いえ、醜いペットでしたっけ?」
「は、はい。女王様」
母さん、その目。宝条さんと一緒です。
そして、父さんはいつの間にか地面に正座しています。
「じゃぁ、帰る前に少しストレス解消しておきましょうか」
「は、はい……」
あぁ、父さんが引きずられていく。
この2人、俺達が産まれる前はそんな関係だったのか。
というか、子供達の前で何してんの?
でも、はっきり分かったことがある。父さん、母さん。俺達は間違いなくあなた達の子供です。
「ねぇ、明奈。何で、あの両親から守お兄ちゃんみたいなのが産まれたのか分かんなかったけど、今日分かったよ」
「同感です」
でも、それをまっすぐ顔の向きを変えずに真顔で言わないでよ。
ショックなのは分かるからさ。父親像というのが、壊れていっているのは分かるから。
何か、隣の部屋から鞭の音が聞こえてくるけどさ。
強く生きようよ、望お姉ちゃん。
「ねぇ、明奈。宝条さんの所に行って、女王道極めてもいいかな?」
「止めてださい。望お姉ちゃん、戻ってきて」
その後、帰りの車の中では気まずいムードが流れていたのは言うまでもなく。
「あ~やっぱり、森林に囲まれた場所で過ごすとリフレッシュされるわね~スッキリしたわ!」
家に帰り着くなり、母さんは第一声でそんなことを言ってくる。
でも、それって森林に囲まれていただけじゃ無いですよね?
久しぶりにハッスルしたからですよね?
母さんのこんな笑顔は初めて見た。
対して、父さんのこんな低姿勢な姿は初めて見た。
「ねぇ! 守お兄ちゃんの部屋ガラガラだよ!!」
自分の部屋に行っていた望お姉ちゃんが叫んできた。
まさか、もう完全に宝条さんの家に居座る気なのか?
俺達も急いで見に行くと、確かにブタお兄さん部屋はもぬけの殻になっていた。
「そこまで本気なのか守。幸せかもしれんが苦労するぞ」
「父さんのその言葉、誰よりも説得力あるね」
「ありがとう、明奈。これでも父さんの方が奴隷の先輩だからな」
これ以上、父親のイメージを壊さないでくれます?
何だかこの連休で非常に色々あったけど。家族の形は変わらないよね? ね?
でも、誰よりも変わってるのは俺だよね。
家族は隠していただけ。でも、全てをさらけ出した今の形こそが本当の家族の在り方なのかな……?
なんて、難しい事を考えていたら頭痛くなってきたよ。
「ごめん、疲れたから部屋で休むよ」
家族にそう言い、俺はそのまま自室に向かい扉をしめた。そろそろ体も戻りそうだしね。
「さっ、ベットで休も明奈」
「うん、その前に望お姉ちゃんは出てって下さい」
俺は再び部屋の扉を開けて、望お姉ちゃんを部屋から出すと扉を閉めて、鍵をかけた。
「もう~いじわる~!」
望お姉ちゃんも十分変ですから。
でも、それに順応しそうな自分がもっと怖い。
家族でまともなのは俺だけだ。しっかりしないと。
とりあえず、一眠りしてこれからの事を考えよう。
「明奈~ご飯よ~」
母さんの声がする。
「んん? もう? 早いな」
俺は、ベットから起きると。大きく伸びをした。
そして、体が戻っているのを確認する。
いつも、体が戻る時は裸になっているのだ。だって、服が破れますよ。伸縮自在な服じゃないんですよ?
恥ずかしいけど、戻る三十分前からずっと裸で居てます。
そして、さっきは裸で寝てました。
「明奈~早くしなさい~」
「分かった~」
俺は急いで水色の下着を着て、Tシャツとショートパンツをはくと、下に降りていく。
「あら、お邪魔しておりますわ」
すると、目の前のリビングのテーブルのイスにに宝条さんが座っていた。
階段から、ずり落ちてさらに1階まで落ちるとこだった。
「なっ、なっ。あなた何しに? というか、この場所どうやって?」
今、俺は絶対に鳩が豆鉄砲くらったような顔をしているはずです。
「あら、ここの家の場所はマルちゃんに聞きましたので」
単純な事だった。そして父さんは、縮こまってるし。母さんは、仕方なくお茶を出している。
というか、ご飯時に来るなよって思ったらまだ夕方じゃん。
「母さん。何で、私を起こしたの?」
俺は、母さんに文句を言う。
せめて、この人が帰ってからにして欲しかった。
「だって、この人があなたに用があるって言われたから。宝条さんが来てるって言ったら、あなた部屋に籠もっていたでしょう?」
その通りです。さすが、母親よくおわかりで。
「あら? 私が用があるのは小学生の妹さんの方ですが?」
宝条さんが、首を傾げて俺を見ている。
そうでした、この人とは小学生の姿でしか会っていないんだった。
「あっ、そっか。 明奈、羽根出してあげたら?」
あんまり、気乗りしないんだけど。この人の辞書には、諦めると言う文字が無さそうだしね。
渋々、俺は黒い羽根を出した。
「まぁ?! あなたも黒い羽根を?」
当然ながら宝条さんは、目を丸くして驚いている。
何だか、説明が面倒くさいぞ。でも、信じる信じないは別として話すしかないね。見られてるんだもん。
「まぁ?! でわ、あなたがあの時の小学生? そんな不思議な体なんて、初めて聞きましたわ」
それでも、さすが財閥のご令嬢。あまり慌てていない。驚いてはいるだろうけどね。
「でしたら、尚更ですわ。お願いです。私の友達になってくませんか? あなたのその羽根を見たときから、どうしてもお近づきになりたかったのです!」
「えっ? それだけ?」
つい聞き返してしまった。だって、もっと凄いことを要求されるかと思ったからね。
「明奈。頼む断らないでくれ」
父さん、俺の肩掴むの早い。どれだけ必死なの、会社の部長って色々責任があるんだろうね。
「いや、断るも何も。普通の友達なら別に良いけど」
「本当ですか?!」
宝条さんが、目をキラキラさせて俺に確認をとってきた。
あれ? この人友達居ないのかな?
「私、高校はこちらの街で過ごす事になりまして。今までは海外でしたから、日本には友達が居ないんです。ですから、財閥のご令嬢等は関係なく、普通の友人として接して下さいませ」
高校生でしたか。見た目俺達と同じくらいだろうなと思っていたが、実際あの女王っぷりを見たら分からなくなっちゃったんです。
でも、やっぱり高校生だったようです。
「あっ、はい。こちらこそよろしく」
そう言うと、宝条さんは俺の手をとってきた。
う~ん、近くで見たらやっぱり凄い美人。そして、ハーフだよねこの人。
バイリンガルなのかな? 英語で分からない事あったら教えてくれるかな?
とか、考えてる時点で俺も変わったなって思う。
今までの俺ではこんな事は考えなかったよ、絶対ね。
そして、宝条さんは俺とメアドを交換して上機嫌で帰っていった。
ほんとに、この為だけに来ていたのか。
後、ブタお兄さんの部屋の荷物は今朝使いの人に頼んで持っていったそうです。勝手に。
それを謝る為もあったらしいが、メインは俺とお近づきになりたかったんだろう。
そういうところを見ると、悪い人ではない……のかな?
でも、1つ言えるのは。厄介事が増えた。




