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ラスト・エンジェル  作者: yukke
第1章 天使の羽根
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騒々しい食卓

 俺は、部屋の中で唸っている。

頭の中では、自分の体と言い聞かせても。やはり、女子の裸には違いない。


「落ち着け、落ち着け……」


 何度も何度も自分に言い聞かしていると。扉が開き望が入ってきた。


「何時までも降りてこないし、何してるのかと思ったら。何唸ってるの?」


「いや、ノックしろよ」


「したよ? アキにい気づいてなかったの?」


 考えこんでいて気づいていなかった。不覚、これが殺し屋なら俺は死んでいる。

よし、頭は冗談を飛ばせられるくらいには冷静だな。


「何? 着替えに戸惑ってんの? アキにいって、もしかして純情?」


「何か言ったか?」


 俺は望に向かって語尾を強めて言う。


「そんな可愛い声と、可愛い顔で睨まれても怖くないけど」


 くそ、何でこんな体になってしまったんだ。

俺は、肩を落としてうなだれている。すると。


「しょうがないなぁ、私が着替えさせてあげるよ」


「はぁ?! おまっ、何言ってんだ!」


 せっかく冷静になっていたのに、また頭がパニックになった。


「あ、私買ったはいいけど、あまり着てない服あるしそれ着る?」


 目をキラキラ輝かせて何を言い出すんだ。


「いや、遠慮する。ジャージでいい」


 そう言いながら、俺はタンスを探り黒のジャージを引っ張り出した。


「え~じゃぁ、せめて下着……は駄目か、大きさが違うや」


 くっ、なんだこの敗北感は。いや、気のせい気のせい。精神まで女にはなってない。女の体になったからって、すぐに精神までは変わらないはずだ。


「もういいよ、自分で着替えるし下に降りといて」


「ちぇっ、わかった~」


 ちょっと待てなんだその舌打ちは、何をしようとしてたんだ。

とにかく、俺は深呼吸をしパジャマを脱ぐ。


「……お~なかなか良い体つきだな~」


 俺は、自分の体を眺めてみとれてしまった。

男なら、この体つきの女は1度ものにしてみたいんじゃないだろうか。


「だぁ!! 何考えてんだ俺は!」


 首を横に振り、冷静さを取り戻す。しかし、髪長過ぎだな。バザバサとめんどうくさいな。

そして、ジャージのズボンをはいて、上も着ようとするが何かに引っかかている。


「げっ……羽根の事忘れていた」


 そう背中の羽根に引っかかったのだ。


「他の人みたいに、背中に穴を空けないと駄目なのか?」


 他に天使の羽根が生えてる人達には、最初から穴が空いている服を着ている。そして、様々な背中の羽根を生かした服が、デザイナーから発表されていた。


「めんどいなぁ、かと言ってこのまま服の中に羽根入れようとしても、羽根にも感覚があるからなのか気持ち悪いしな~」


 どうしようかと、額に手を当て部屋をぐるぐる回る。

いかん、このままではチーズになっちまう。そんな子供の頃によんだ、童話が頭に浮かんだ。


「せめて、一旦縮むなり消えたりしてくれないかな~って、他の人達はそんなこと出来ないしな」


 羽根の生えた人達を見ていてわかったが、どうやら『天使の羽根症候群』の羽根は縮めたりする事も、大きくする事も出来ない。当然飛ぶ事も出来ないのだ。不便極まりない。


 しかし、どうもさっきから背中が軽いような。

背中に手を回し、羽根の確認をしてみたが。そこには何も生えてなかった。よし、一旦冷静になれ。服を着ないとな。とりあえずもそもそと服を着て、そして大きく息を吸い込んで、せ~の。


「わあぁぁぁぁぁ?!!!」


 はい、本日二度目の絶叫をあげ、走り出すもんだから階段から2階に転げ落ちたよ。

今度のは盛大に足を踏み外し、転げ落ちましたよ。でも、普通怪我するのにその体には打撲どころか痛みすらなかった。


「アキにいどうしたの?!」


「晃! 大丈夫??」


 母さんと望がリビングから声を張り上げ、駆けつけてくる。後ろから、オヤジも驚いた顔で覗きこんでいる。


「は、はは……羽根が、羽根が消えたぁ?!」


「何言ってんの? アキにい大丈夫? 症状が出た人の羽根は消えないんだよ? アキにいのも、ちゃと生え……てなぁい?!」


 望は俺の背中を見て驚愕している。


「嘘でしょう? どうなってんの晃の体は……男性には戻ってないし、頭がおかしくなりそうよ」


 それはこちらの台詞です。当の本人が驚いてますよ。消えて欲しいと念じれば消えるなんて。


「そういう所を医者に診てもらうんだろうが。いいから早く朝飯食え、とっとと病院に行くぞ」


 オヤジは冷静な口調で、新聞を広げ俺達に言ってくる。


「オヤジはすごいな、こんな状況でもパニックにならずにいつも通りとは」


 俺が珍しく感心してると、望がオヤジに指を指して俺に耳打ちしてくる。


「そうでもないよ。見て? 新聞上下逆だし。トーストに、父さんの嫌いなマヨネーズたっぷりかけてるしね。多分、マーガリンかジャムと思ってるんだろうね」


 誰よりも冷静じゃなかったのはオヤジかよ。

それでもいつも通りに振る舞おうとしてるのはさすがだが、やはり無理があったようだな。

俺はゆっくりとオヤジに近づき声をかける。


「何してるんですか? “お父様”」


 その俺の言葉に、オヤジは体をビクッとさせ目をパチクリしていた。

そりゃ、俺がこんな言葉使いをするとは思わんだろう。

俺もそうだ、言ってて鳥肌が立ってくる。

だが、それくらい衝撃的だったのかようやくオヤジは、自分のあり得ない行動にやっと気がつく。


「はぁ、何をやってるんだ俺は。俺が一番しっかりせねばと思っているのに、この有様とは」


「いや、仕方ないよ。俺自身もまだ受け止めきれないんだしな」


「はは、その声でその言葉使いは違和感あるな」


 オヤジは苦笑いしている。それにつられ、俺も肩をすかし苦笑いした。


「父さん、そのトースト私貰うし新しいの焼いたら?」


「望、こんな大量のマヨネーズかかったトースト食べるのか?」


「だって、勿体ないもん。マヨネーズ大好きだしね私は」


 望はニコニコしながらオヤジの前のトーストを取る。

そういや、望はマヨラーだったな。なのにその体型を維持するとは、こいつの体はどうなってるんだ。


「ふふ、お父様か……ある意味ご令嬢みたいなその言葉萌えですな」


 床で寝そべってるブタが言葉を発した。こいつ、今ので起きやがったのか。しかも、その瞬間おぞましいことを口走りやがって。


「てめぇはまだ寝てろ!」


 俺は、ブタの後頭部を踏んづけグリグリしてやったが、ちょっと待て……これは。


「あぁ、その小さいな足に踏まれる感触。良いかも……」


「ひいぃぃぃぃ!! やっぱりいぃぃぃ!!」


 またしても足先から、全身に悪寒が走った。

俺は慌てて足を退けようとするが、ブタが俺の足を掴んできた。


「あぁ、やめないでください。もっと踏んでください~」


 ブタが顔を上げ懇願してくる。ブタの恍惚な顔を見て、更に悪寒が走る。


「やめ、離せ。ブタぁぁああ!」


 足をグイグイ引っ張るものの、やはり女の体なので力はブタに負ける。

俺が苦戦していると。



 スパーン!!!! ブスッ



 あれ? 最後何か刺さったような音が……

ブタが悲鳴も上げずに倒れたぞ。


「望? 何したの?」


「え? さっきと同じハリセンでひっぱたいたよ?」


 そう言って見せてきたハリセンには、さっきの鉄板ではなくスパイクのような針が取り付けられていた。


「いや、殺傷力そっちのほうが……」


「え? より痛い方が良いのかなって思って」


 ニコニコしながら返す望が怖くなってきた。

素か、わざとなのか。よく分からない怖さがあった。


「ほら、早く朝ご飯食べちゃいなさい」


 両親は、いつも通りの光景に少し冷静になっている。

突っ込もうよ、そこは。と思ったが、望のいつも通りの態度に家族が少し救われているのもまた事実であった。

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