連休3日目 ~ 自分の気持ち ~
夕方、俺はコテージに戻ると部屋のベッドに腰掛けてぼ~っとしていた。
理由は簡単。自分の行動が信じられなかったからだ。
「あ~何故だ。何故なんだ、楽しいと思ってしまうなんて。デートだぞ、あれは完全に~」
俺は頭を抱えて、突っ伏した。
あり得ない、自分の気持ちが分からない。谷口先輩に同情したから? 違う。確かに信じられない悲しみを背負っていたのはびっくりしたが、谷口先輩は同情して欲しかったわけではなかったからだ。
「むむむむ……やっぱり、精神も女の子になってきているとしか……」
それ以外考えられない。だが、男に戻れないんだぞ俺は。
覚悟したのでは無いのか? まだ抵抗を続けるのか俺の小さなプライドよ。
「俺は……私はどうしたいの?」
あぁぁぁ……頭がぐるぐるしてきた。一人称を変えてみても違和感がまだ残っている。
すると、その時。敏感な羽根に誰かが触れた。
「ふえっ?! ちょっ、望お姉ちゃん?」
「ありゃ、バレたか~ご飯出来てるのに、ずっと何を悩んでるの?」
望が、心配そうに覗き込んでくる。
望は可愛いよな。俺もこうなりたいのか? なれたらどんなに楽だろうか。
「はぁ……」
「ちょっと、どうしたの? ため息なんて」
「何でも無い。今降りるよ」
俺は、ベッドから立ち上がると部屋から出ようとした。しかし、望の一言で立ち止まってしまった。
「今日のデートが楽しかったから?」
まるで、俺の心を見透かしたかのような言葉に、心臓が飛び出るくらいに驚いたよ。
「ふふ、明奈は身も心も女の子になってきているね。寂しいけど、その方が楽しそうだよ」
「望……」
俺は、立ち止まったまま望の方を向けずにいた。
「ねぇ、今だけアキにいになってくれない?」
望が、そんな注文をしてきた。難しい事をさせるなよ全く。
「何? 望」
うん、まだ男のプライドが残ってるからか、割と簡単に切り替えられたな。
すると、望は意外な行動に出た。
俺を、振り向かせると自分の顔を近づけ、そして。
「んっ?!」
俺の唇に、柔らかな望の唇が当たる。
いや、何をしているんだ?! とにかく離さなければ……って結構力強い。
違う、俺が弱くなっているんだ。
「んぅ~!!」
それでも少しは抵抗しなければと思い、必死に腕を突っ張るも頭を掴まれてるので意味が無かった。
「ぷぁ……」
「はぁ、はぁ……何やってんだ望!」
ファーストキスが、妹とか考えられん。ほんとに、暴走し過ぎだぞ最近の望は。
「てへへ、しちゃった」
妹が、はにかみながら俺を見つめている。俺は、それどころじゃなかった。望の柔らかな唇の感触がまだ残っており、頭は若干パニックになっていた。
「何で、こんな事を?!」
「だって、アキにいが男のプライド残っているのは、私がまだアキにいの事諦めきれてないからだと思って。一緒にいるだけでも幸せって、そう言い聞かせても全然諦めきれないんだよ」
望の目からは、大粒の涙がこぼれ落ちている。これでも、望は望で真剣に悩んでいたんだな。
「だから、これで最後にしようって。私のファーストキスあげれば、諦めつくかと思ったんだ」
「望……」
俺は望に近付くと、望に近付くと頭を撫でた。
「ごめんね、告白なんてしなければ良かったよね?」
「そんなこと無い。望が原因じゃないよ。そんなに思い詰めるな」
それでも、望は泣き止まずにいたので抱きしめ……たけど。身長が……
「あはは、身長私とあんまり変わらないんだよ? でも、ありがとう。アキにい」
望はそう言うと、俺から離れ涙を拭った。
「もう、大丈夫だから。私はアキにいから卒業するよ」
そう言って、屈託のない笑顔を見せてくる。吹っ切れたわけでは無いだろうが。それでも、最初から兄妹である以上叶うはずの無い恋なのだ。これでよかったのだろう。
いい加減に俺も受け入れなければな。女になりつつある自分を。
「ありがとう、望。俺もいい加減、受け入れるよ」
「うん、それが良いよ。私の事は気にしないで、最初から叶うはずのない恋だったんだから」
望も分かってはいたんだな。だけど、人を好きになるのに理屈はない。好きになってしまったものは仕方ないのだから。
「それで話しは終わったかしら?」
いつの間にか、母さんが部屋の入り口に立っていた。
「わぁ!! か、母さん?! いつの間に?」
「望がキスしたところからよ」
それだいぶ初期ですよ。お母様。
身内にこういうのを見られるのは、恥ずかしったらありゃしない。
望なんか顔真っ赤にして俯いてしまった。
「一応母さんは、あなた達の決めたことに口出しはしないわ。さっ、ご飯にしましょう」
そう言いながら母さんは降りていった。
「行こっか、望お姉ちゃん」
「うん」
そして、俺達は母さんに続いて1階に降りて行く。
今日も気合いの入った母さんご自慢のご飯を食べ終え、俺は広い風呂に入っている。
羽根をパタつかせながら、今日の事が頭の中でぐるぐると回っている。
受け入れられるのか?
いや、受け入れなければならないのだ。
俺は、立ち上がると風呂から上がり鏡の立つ。
そこに映し出される、少女。
俺は今まで必要以上に、鏡で自分の姿を見ていなかった。やはり、無意識に避けていたようである。女になりつつある自分を受け入れたくないと思う、男のプライドが。
だが、それを捨てる為に敢えて俺は鏡に映る自分の姿をじっくりと見ていた。
色白で、洗うときに丁寧に洗わないといけない肌。
腰までの長さがあり、いつも洗うのに苦労する髪。
小振りで、手のひらに収まるくらいの胸。
細くて、今にも折れそうな脚。
そして、その上には無毛でつるつるの女の部分。トイレ等常に拭かなければいけない面倒くささに生理になると、ここから大量の血が出て正直無ければ良いのにと毎回思っていた。
そして、見ていたら吸い込まれそうになるくらいの綺麗な漆黒の羽根。
とにかく、この体全てが俺なんた。橋田明奈の体何だと。
必死に言い聞かせる。それでも、何だか足りなかった。
その時、ふとあることを思い立つ。
良いのか、俺。多分アレはやってしまったら、後戻り出来そうに無いぞ。
いや、だからこそやるんだろ。アレを……
30分後、俺はコテージの2階の部屋に戻ると、さっそうと布団の中に潜る。
「ちょっと、どうしたの? 明奈」
ベッドの上で、スマホを眺めメッセを確認していた望が聞いてくるが、言えるわけがない。
やってしまった……
いや、おかげで何かが吹っ切れた気がするから、良かったんだけどね。
女の子の体って、男とは全然感覚が違っていて悪くなかった。
そんなことを呆然としながら考えていると、望が布団の中に潜りこんできた。
「明奈、どうしたの? 何か顔赤いよ? 大丈夫?」
「大丈夫だから、ほっといて……」
俺は、望とは反対の方に体を向ける。そして、早く寝てしまおうと思った。なんだか疲れたからな。
「まさか、明奈。女の子になりきる為にア……」
「それ以上は言わないで」
後悔先に立たずとはよく言うが、これは正にその通りであった。
吹っ切る為とは言え……俺は、俺は……
俺が頭を抱えていると、望が後ろから抱きしめてくる。
ちょっと望さん、羽根が邪魔ではないですか?
「スンスン……やっぱり良い匂いだね。明奈の羽根は」
「……っ、ありがとう」
軽く匂ぐ程度だったので、ゾクゾクとくすぐったかったけど何とか耐えられた。さすがにこの状況で悶えさせるなんて事はしなかった。ちゃんと空気は読んでくれている。
「大丈夫だよ、明奈。今日は何もしないから」
「出来たら、毎日そうして欲しいんだけど」
「うっ……善処します」
全く、しょうが無いな。後ろから抱きしめられていたら、朝起きる時にまた悶絶する事になりそうだし。
そう考えて俺はクルッと向きを変えて、望と向き合う形になると今度は俺から抱きしめる。
「えっ、ちょっと。明奈?!」
「望、ごめんな」
俺はそう言いながら、望の頭を撫でて上げた。すると、望は目を細めてトロンとした表情で俺を見つめている。
「もう、ズルいよ明奈……」
ふふ、今までからかってくれた罰です。今だけは、せめてこの連休の間は仲の良い兄妹でいてあげよう。
だけど、これで最後にする。
家に帰ったら仲の良い姉妹になろう。
俺は、そう決意し望に伝える。
「望、もう。晃はこの連休で最後にするよ。良い?」
望は、無言で頷いた。また泣いているのか、涙が頬を伝っている。
1日2日では切り替えられ無いだろう。だから、連休の間に気持ちの整理をしよう。
女になろう。
そして、俺達は抱き合いながら眠りについた。




