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ラスト・エンジェル  作者: yukke
第4章 ゴールデンウィーク
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連休3日目 ~ 初デート?! ~

 コテージに戻った俺は、サッとシャワーを浴びようやく一息つく。

その間俺は、谷口先輩に羽根が有るか無いか気になっていた。

そして、ワンピースに着替え薄手のカーディガンを羽織りホールに出ると、両親も起きてきた。

日頃の疲れからか遅かったね。そして、望が色々と事情を説明してくれている。お

その後、遅めの朝食をとるためコテージの近くのレストランへと向かった。


「でも、明奈。話しを聞く限りだとその悪魔、かなりうっとうしくない?」


「うん、何とか出来ないかな……目の敵にされていて面倒くさいよ」


 俺は、苦笑いして答えた。とにかく、色々あってお腹が空いたよ、早くバイキング形式のレストランで好きな物食べまくりたい。




 そして、レストランに着くと時間帯のせいも有り少し空いていた。ラッキーだな、取られる心配もないしのんびり出来そうだ。

その後、各々が料理を取ってきてテーブルについた。


「そうそう、この後釣りしたりハイキングしたりと色々出来るけども、2人とも何がいい?」


 食事をする前に、母さんが今日の予定を立ててくる。


「う~んせっかくの連休だから、疲れる事はあんまりしたくないかな~」


 望がそう言ってくる。同感ですね。と言うことは、家から持ってきた野外で遊べる道具で何かするのもありだよね。


「父さんは、釣りがしたいかな」


 釣りなら1人で出来るでしょう? チラチラこっちを見ないで。


「朝食を食べ終わってからでも良いわね?」


 長くなりそうだったので、母さんが一旦止めて朝食にする事にした。




 そして、30分後。

俺達は、食事を終えるとこの後どうするかの論議に入る。しかし、なかなか妥協点が見つからなかった。と言うか、来る前に決めとけよ。


 すると、入り口から入ってきた4人の人達が突然俺達の元にやって来る。


「やぁ、また会ったね~体は大丈夫かい?」


 わざとらしいぞミカエル。何の用だ?


「えっと、どちら様?」


 当然の事だな、いきなり見知らぬ人がテーブルに来たらそうなるね。

で、すかさず望が説明している。


「それはそれは、どうもありがとうございます」


 社交辞令の様に、母さんが頭を下げそして父さんも頭を下げている。大人はこれがあるから大変だよね。

あ、谷口先輩と目があった。とりあえず会釈しとくか……ってあれ? あからさまに視線そらされたぞ。何で??


「はっは~ん」


 望さん、目が光ってますよ。何か、良からぬ事を企んでそうな目だぞそれは。

そして、4人は俺達の隣のテーブルに座った。

俺達は続けて論議に入る。


「みんな格好いいね~でも、その内の1人が谷口君か~あの人達は谷口君の友達なんだっけ?」


「うん、そうみたいだよ」


 しばらくして、望が唐突に言ってくる。望は、谷口先輩とはクラスが違う為、話したことは無いらしい。

だが、その4人が『スター・エンジェルズ』だとは望は思いも寄るまい。さっきから喋りたくてウズウズしている。でも、我慢だ。

4人に迷惑をかけてしまいそうだからな。 




「あっ、ごめん橋田さん。ちょっと良いかな?」


 論議も終了し、席を立つと。谷口先輩が、俺に手招きしてきた。


「えっ? 何ですか?」


 とりあえず家族を先に行かせて、俺は谷口先輩の所に駆け寄る。

そこは、他の3人がいるテーブルより少し離れた所。そこで、谷口先輩が俺に耳打ちしてきた。


「この後、暇だったらちょっと俺と散歩に行かないか?」


「えっ?」


 いきなり何を言うんだこの人は?


「へぇ~谷口君って積極的なんだね。ほらほら、私達の事は気にせずに、行ってきなよ~明奈」


「ちょっ?! お姉ちゃんいつの間に!」


 望が後ろからにやにやしている。ついでに、谷口先輩の友達の3人もにやにやしている。

と言うか、ミカエルお前の仕業だろ! わざと、俺達の朝食の時間に合わせやがったな。

そして、おそらく同じ学校に通っている人の方が誘いやすいだろうからって、煽ったな!


「それじゃ、邪魔者は消えるからごゆっくり~」


 望はにこにこしながら両親の元に行き、両親に何か言って外に連れ出していく。

父さんがなんか渋い顔をしているところを見ると、ろくでもないことを言ったのは容易に想像できる。

くそっ……後でどう言い訳しよう。



「じゃぁ、僕達も邪魔だろうからコテージに戻っておくね~」


 そう言って、ミカエルが残りの2人を連れて外に出て行く。

そのすれ違いざまに残り2人が変な事を言ってきた。


「別に、翔君1択じゃないからね」


「そうだ、俺達もお前を狙っているんだ。最初は翔に譲るが、次は俺達にも付き合って貰うからな」


 そう言ってミカエルと共に出て行く。

とりあえず、右から左に聞き流そうとしたんだが……脳にこべりついている。ええい、消えろ消えろ。今のはセリフは、イケメンが去り際に言う社交辞令のセリフみたいなものだ。

あ、ダメだ自分でもパニックになっているのが分かるぐらい、頭がごちゃごちゃになってしまっている。


「全く、あいつ等は……ごめんな、橋田さん。あいつ等の事は気にしないでくれ」


 頭を掻きながら、谷口先輩がそう言ってくる。

2人きりにされちゃ断りにくいぞ。くそ、やられた。


「悪いな、なんか無理やりっぽくなっちまって」


「あっ、いえ。別に谷口先輩のせいではないので」


「そうか、良かった。じゃ、行こうか」


 そう言って谷口先輩が俺の手を取り、外に向かう。

というか、いきなり手を繋がれた。待て待て。ちょっと待て。いきなり手を繋ぐか、普通。

俺が驚いていると、谷口先輩が慌てて手を離して来た。


「あっ、ごめんな。いきなり手を繋ぐとかびっくりしたよな」


「いえ、別に嫌では無かったので大丈夫ですよ」


 そう言って、俺は谷口先輩に笑顔を向ける。

その前に、少し待とうか。俺は今、何を言った? 嫌では無かった? それは確かだったんだが、中身は男だぞ男に手を握られたら嫌に決まっているはずだが何故?


「そうか、良かった」


 そう言って、再び谷口先輩は俺の手を取ってきた。冷静に考えようか、この人絶対俺に気がある。どうして? 何で俺?

俺がパニックになっている間に、谷口先輩は俺を連れてレストランを出ると、湖に向かっていく。




 湖の周りには柵がしてあり、その周りを道がぐるりと湖の周りを描くように続いている。基本的にこの辺りは、小さい子供がいる家族連れか、カップルくらいしか歩いていない。

中には、水鳥に餌を上げているご年配の方とか、湖の上を、ボートでゆったりした時間を過ごしているカップルも見受けられる。

周りから見れば、俺達も今はカップルに見えるのだろうな。

そう思うと、急に恥ずかしくなってきたな。


「そう言えば、橋田さんって彼氏がいたり、好きな人がいたりするの?」


 谷口先輩が俺の顔を見ながら、話しかけてくる。


「えっ? いえ、居ませんよ」


 そりゃ、中身は男だからな。ただ最近は分からなくなってきた。体が女に慣れてくると、今度は思考まで女にシフトしていくのだろうか?


「でも、何でそんなことを?」


「いや、橋田さんって美人だし、羽根も他の人と違って黒いのにめちゃくちゃ綺麗だからな。2年生以外は、皆狙っているんだ。だから、何かアプローチされているうちに、気になっちゃってる人が出来てないかなって思ってな」


 そんなに人気かな? 確かに、羽根を晒してからはめちゃくちゃ視線は感じるよ。


「う~ん。でも私は今は、恋愛とかそう言うのはちょっと考えていないですね」


「そっか」


 なんだ、その嬉しそうな悲しそうな微妙な表情は。

でも、この際だから俺も気になっている事を聞いてみるか。


「でも、谷口先輩も羽根生えてますよね?」


 俺がそう言った瞬間、谷口先輩は足を止めあからさまに驚いた表情をしていた。そして、目を閉じ何か考え事をしていると思ったら、目を開き真剣な眼差しで俺を見つめている。

かまをかけてみたが、ビンゴだったようだ。


「ちょっと、ボートに乗らないか?」


 谷口先輩は、急に笑顔を作りボート乗り場を指さしてきた。

俺でも、その笑顔が作ってる笑顔なのが分かるくらいに不自然だった。

俺は、無言で頷き谷口先輩についていく。

余程聞かれたくないうえに見られたくないのかな?


 ボート乗り場に着くと、係の人に案内されて俺達はボートに乗り込む。オールを漕ぐのはもちろん谷口先輩である。

そして、ゆっくりと風の具合も見ながらボートは中央に集まっているカップルを避け、ボートの数が少ない所にやってくる。


「ここら辺で良いかな?」


 そう言って谷口先輩は、オールを水につけたままボートを止めた。


「橋田さん、羽根見せてくれないかな?」


「あっ、はい。分かりました」


 そう言われて、俺は黒い羽根を出す。谷口先輩は、それをまじまじと絵画でも見るような目で見ている。

そんな目で見られたら何か恥ずかしくなってくる。


「やっぱり、綺麗だよ橋田さん。そんな君に俺も惹かれているだよ」


「あ、ありがとうございます」


 今絶対俺の顔赤くなっているな。イケメンに真正面からそんなこと言われたらそうなるわ。


「俺の、こんな羽根よりもね」


 そう言って、背中に手を回すとモゾモゾし出す。そして、包帯かさらしのような物を服の中から出すと、上手く隠している服の穴から羽根が現れた。右側だけ。


「えっ、片方だけ?」


 俺は、驚いて声を出してしまった。


「醜いだろ? 俺の両親がな、気持ち悪いからって。普通の人に戻してあげると言って、むしったんだよ」


「……」


 俺は、無言になってしまった。


「はは、嫌だよなこんなの。でも、何で俺に羽根があるって分かったんだ?」


「あぁ、だって友達って言っていた3人は『スター・エンジェルズ』の方々ですよね? だとしたら谷口先輩もでしょ?」


 俺のその言葉に、谷口先輩は更に驚愕している。


「なっ、何で分かったんだ?!」


「だって、『天使の羽根症候群』の人達がそんなに集まる事なんて殆ど無いですから。後は、勘です」


 俺は、そう言ってにっこりと微笑む。ほんとはミカエルと知り合いです、とは言えない。笑顔で誤魔化すしか無い。


「そうか、なるほど」


 あ、納得されたようだ。良かった。


「あ、この事は学校の人や部活の奴らには……」


「分かってますよ、言いませんよ。でも、谷口先輩。アイドルとして活動している時は、両方羽根がありましたよね?」


「あぁ、ライブに来たら分かると思うけど。片方は、作り物の羽根さ。ライブでファンの皆が付けているやつだよ」


 なるほど、簡単な事だった。でも、人前に見せるのが嫌なのにアイドルなんて良くやるよね。


「他の2人も、俺と同じ様に羽根があるからって事で、酷い扱いを受けているよ。だから、あの2人の誘いも受けてもらえると助かるかな。2人とも、君の羽根を近くで見たいって言っていたからな」


「な、何で?」


「それは、2人に直接聞いたら良いよ。少なくとも俺は、君の羽根のおかげで少し救われているんだ。そんな綺麗な羽根を見ていると、前向きな君を見ていると、もっと頑張らないとってな」


 そう言って、谷口先輩は俺に微笑んできた。

その笑顔、破壊力抜群ですよ。俺は、顔が完全にトマトの様に真っ赤になっているのが自分でも分かった。



 その後は、何だか普通のカップルっぽく穏やかな時間が流れていった。

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