連休2日目 ~ 避暑地へ ~
ゴールデンウィーク2日目。今年のゴールデンウィークは見事に土日も重なり7日間となっている。
平日が間に1日入っているが、学校が気をきかせて振り替え休日になっている。
初日は父さんの方に用事があり、1日ずれ込んだが俺達は今日から四泊五日の旅行である。
と言っても、避暑地になっている山の近くのコテージでのキャンプだがな。
この行事は毎年家族で行っているものである。
女になってしまう前は、肩身の狭い思いをしていたが今年は違う。思う存分、楽しんでやるさ。
「明奈~嬉しそうな顔してるね~?」
車の中で揺られながら、隣に座っている望が俺を見て言ってきた。
「ほえ? あ、あれ? 顔に出てた?」
俺は、必死に顔をぐにぐにして戻そうとする。
「まぁ、このキャンプ中くらいは嫌な事など忘れて楽しめば良い」
さすが父さん。じゃぁ、羽目を外して楽しむとしよう。ここ最近、環境の変化が激し過ぎてストレスが溜まっているかもしれないしな。
そして、車に揺られる事1時間半程、ようやく山の麓のコテージにたどり着いた。と言うか、俺は車の中で寝てしまっていたんだがな。
「よく、寝てたね~明奈」
「昨日のコンサートの疲れかな?」
車を降り、俺は両手を上げて伸びをする。
心地よい風が頬を撫で、山の近くに来たことを感じさせる。
近くには湖もあるため、カップルならボート等で良い雰囲気を作れるだろう。
「明奈、その服装で寒くない? 上羽織っといたら?」
ちょっと肌寒いかな。なんせ今日の俺は、動き安い様に半袖のロゴ入りTシャツにショートパンツだったからだ。
因みに、望の方は長袖のブラウスに膝までのフレアスカートである。
俺は、鞄から薄手の上着を取り出して羽織両親にコテージに向かった。
俺達の使うコテージは、少し広めのコテージである。
1階に広いホール1つと一部屋。ベッドが2つあるので両親はここにするらしい。そして、2階に二部屋。ということは俺達はここかな?
「明奈、一緒の部屋にする?」
「却下です」
「え~良いじゃん~」
こらこら、ここで駄々をこねるな。
どっちが姉だよ、全く……
「今は、女同士だから問題ないでしょ? 全部の部屋を使わないといけないわけではないんだから」
あ、母さんのフォローが入っちゃったか。やれやれ、こうなると言うとおりにしないと母さんは譲らないからな。
「しょうがないな~変なことしないでよね? 昨日みたいに」
「善処しま~す」
不安要素たっぷりの返答だな。ダイスで対策をと思ったが、自分に関係のある効果は記せないんだった。使い所が難しいものだな。
せいぜい出来るのは吊す程度、それは可哀想だしダメだな。
そして、俺達は部屋に荷物を置き母さんが作ってくれたお弁当を食べると、各々自由に過ごしていく。
「明奈、湖の方行かない?」
「えっ? 良いけど落ちないでよ?」
「ちょっと、私のがお姉さんだからね~落ちないよ~だ」
ほっぺを膨らまして、望がふてくされている。ほんとにこれじゃあどっちが妹だよ。
そう思いながら、俺は望と一緒に湖に向かう。
意外にも人は多く、湖には何隻かボートで楽しむカップルの姿も見受けられた。
「あ~あ、こんな事になるなら1回くらい、アキにいと一緒にボートに乗りたかったな~」
望が残念そうに言ってくるもんだから、俺は何だか気まずいよ。別に悪いことはしていないのにね。
そして、俺達は他愛ない会話をしながら湖のほとりを歩く。
「あっ、あの人も天使の羽根持ちだね~」
望が、羽根持ちを見かけるたびに言うもんだからハラハラするよ。
「望お姉ちゃん、あんまり外でそれは言わない方が……」
人が見ている所では完璧な妹を演じる。なかなか様になってきたし、言うほど嫌ではな……最近こんな考えばかりが頭に浮かんでくる。
「そう言えば、明奈は学校の人達に黒い羽根がバレたのに、メディアには知られていないみたいだね」
「一瞬だったし、皆動画撮れなかったと思うよ。そうなると口で言っても誰も信じないでしょ?」
望の疑問に、俺なりの解釈を交えた答えを言う。だいたい、皆自分の目で見ないとなかなか信じないものだからね。
「……っ、へぅ!!」
すると、俺はいきなり何かに躓き盛大に地面に顔面を打ちつける。いきなり、何がと思ったら履いているスニーカーの片方の靴紐がほどけ、踏んづけてしまったようだ。
「ふははは、久しぶりやな! どうや! 俺の力、思い知ったか!」
俺は、鼻をさすりながら起き上がり靴紐を結び直すと再び歩き出す。
「大丈夫? 気をつけてよね、明奈~」
「うん、分かってる。行こう」
さて、この辺りをブラブラしてお腹を減らして晩御飯に備えようか。
「おい!! 待て無視するなや!」
そう言えばこの近くには川も流れている。明日は釣りなんかもしたいね。
「ちょっ! おい、気づいてないわけないやろうが!」
今日の晩御飯はバーベキューかな? いや、それは最後の夜にしたいね~じゃ、無難にカレーかな?
「望お姉ちゃん、今日のご飯何だと思う?」
「カレーじゃないの? 多分」
「無視すな言うとるやろう!!!」
うるさいな、さっきからギャーギャーと。ついには目の前に立ちふさがっているよ。この全身黒タイツ男、いや悪魔だっけ? 見習いの。
さっきの靴紐もお前の仕業と分かっていたが、関わるのが面倒くさかった。
「この前は酷い目にあわしてくれたな、リベンジにやってきたで~」
黒タイツのバイキン悪魔が俺を指させてくる。やめろ、その指からバイキンが大量に飛び出してそう。
「って、あれからだいぶ時間たってるよ。何で今さら?」
俺は素朴な疑問をぶつけてみる。すると、バイキン悪魔は口ごもる様にボソボソ喋ってくる。
「いや、ほら。俺見習いやから。先輩や、上司の命令には逆らえんと言うか。呼び出されてはパシられて、また呼び出されては実験台にさせられたりやさかいに、時間取れずにいたんや……いや、別に愚痴ってるんちゃうで。俺かて、鬱憤晴らししたいねん!!」
こっちは良い迷惑だわ。しかし、こいつ悪魔と言うよりもストレス溜まったサラリーマンみたいだぞ。今の格好だって、忘年会で無理やり芸をやらされた若手社員みたいだしな。
「ねえ、明奈。何かいるの?」
俺が立ち止まって一点を凝視していたので、不思議に思った望が話しかけてきた。
「あぁ、この前の悪魔がね。鬱憤晴らしに来てるの」
「えっ? 何それ? 最低」
望が、嫌そうな顔して俺の見ている方を凝視する。俺だって嫌だわ、関わりたくないよこんな奴。
「はっ! 何とでも言えや! 俺は悪魔なんやで! そして、これはこの前の仕返しや!」
そう言って、バイキン悪魔はダイスを振った。
「あっ、ちょっ。何かルールあったんじゃ?」
「お前がこの前不意打ちしたからな。仕返しやって言ったやろう!」
この野郎。最低な奴だな。でも、ちょっと待てよこいつのダイスの効果って……
『目の前の天使、横になった空き缶を踏んですっころぶ』
カンカラカラカララ。
ダイスの目が出たと同時に、俺の目の前に空き缶が現れて転がってきた。
「さぁ、すっころべや!!」
「……」
「……」
「あ、あれ? お、おい。はよ踏めって」
これってさ、歩いてる時にやらないと意味ないよね。相も変わらずショボい。
俺は、にこやかな笑顔をバイキン悪魔に向ける。
「誰が、踏むか!!!」
スカーン!!!
「ぐはぁ!!」
そして俺は、思いきり空き缶を蹴飛ばして、バイキン悪魔の顔面にヒットさせた。
そのまま、バイキン悪魔は仰向けに倒れ動かなくなる。
そんなに強く蹴ったつもりは無いのにな。弱いなこの悪魔。
「行こ、望お姉ちゃん」
「あっ、うん。でも、周りの人が見てなくて良かったね」
確かに、空き缶が当たった音で皆振り向いたが、何が起こったかは分かっていなかったようだ。
俺は、そのままバイキン悪魔を踏んづけて、望と共に去っていく。




