連休1日目 ~ 天使のアイドル ~
食事を終えた俺達は、店から出てコンサート会場に向かう。
「結構美味しかったね、口コミ通りでよかった~1度行ってみたかったんだ」
西澤さんが満足そうな顔で言ってきた。
「うん、美味しかったね。こうなると謎のメニューの方が気になるね」
「ふふ、また来よっか?」
地雷踏んじゃったかな? 俺の言葉に西澤さんが目をキラキラさせている。
俺達は、そのまま他愛ない会話を続けコンサート会場に着いた。
そして、想像以上に人でごった返えししていることに俺は驚いた。
「うっわ、凄い人!!」
さすが、天下の『スター・エンジェルズ』というわけか。
そして、もう一つ気になることが。
「ねぇ、朋美。皆天使の羽根が付いてるけど?」
「あっ、それ殆どの人は作り物だよ。ここでは皆天使の羽根を付けて、差別も何も無く楽しめるんだよ」
なるほど、天使の羽根の偏見を無くそうと活動している、アイドルらしい考えだよな。
「あっ。そ、そう言えば明奈ちゃんはどうする? 羽根皆と違うし、大変なことになるよね」
そうだな、1人だけ黒いと目立ちまくるし。偏見無くそうとしているのに、新たな偏見が生まれそうだな。
「えっと、じゃぁ私も作り物の羽根付けとくよ」
「分かった。それなら、受け付けの近くに貸し出し所があるから」
そう言って、西澤さんが俺の手を引っ張る。うん、ちょっとひっぱり過ぎだよ。
すると、混んでるせいもあり途中で人にぶつかってしまった。
「あっ、すいません!」
俺は、慌てて謝った。すると、相手はなんかおずおずしている。しかも帽子を目深にかぶり、マスクもしてサングラスもしている。怪しさMAXだぞ。
「あ、いえ。こちらこそよそ見してました。でわ」
そう言ってそそくさと去ろうとしている。だが、この声聞き覚えがあるぞ。すると、その人物をじっと見ていた西澤さんが声を上げる。
「今の声、もしかして理恵ちゃん?」
すると、その人物はあからさに驚いており焦り始めた。
「な、何ですか? 人違いですよ。私は篠原じゃないですよ」
「自分から苗字名乗ってどうするの? 理恵」
「あっ……」
あまりにもお粗末過ぎたので即突っ込んであげました。挙動不審過ぎでもあるしね。
「やっぱり!! 理恵ちゃん?! どうしたのこんな所で~」
篠原さんは、観念して変装を解いた。というか、その変装は入場出来ないと思うよ。警備員の人に、両脇抱えられて引きずられていくだけだよ。
「あ~もう、2人がいるから警戒していたのに~何よこの人混み~」
篠原さんが、頭を掻きむしりなから文句を言っている。しょうがないだろう、今1番売れているアイドルなんだし。
「でも、なんで理恵ちゃんが? ファンじゃなかったんじゃ」
西澤さんが当然の疑問を口にした。俺も思ったよ、あと部活どうしたんだろう。
「いや、あの時は恥ずかしくて嘘ついちゃって。実は入学式の時に朋美に突っかかってから、『天使の羽根症候群』の事調べてたの。そしたら、私の両親と姉貴の偏見が酷すぎただけで、なんでも無いことがわかってさ」
篠原さんは、恥ずかしそうに話しを続ける。
「それで『スター・エンジェルズ』の事もその時に知ってさ、あまりにも綺麗で格好良くて、その日の内にファンになりました」
はい、以上が被告人の証言ですね。いや、違う。篠原さんがそんな風な感じで白状してきたもんだから。しかし、入学式で西澤さんにつっかかった手前、言いづらかったんだろうね。
でも、こうしてバレた以上どうなるかは分かるでしょう。
ほら、西澤さんの目がキラキラしている。
「もう、入学式でのことなんて気にしなくても良いのに。言ってよ~理恵ちゃん~私嬉しいんだから。そうだ! 今度CD貸してあげるね」
「あっ、ありがとう。朋美」
良かったね、第2の親友が出来ましたね。
「明奈ちゃんにも貸して、って妹さんが持ってるんだっけ? 明奈ちゃんの妹さんとも話してみたいな~」
あぁ、西澤さんのテンションが最高潮ですよ。
「あのさ、朋美ってこんな性格だっけ?」
篠原さんが耳打ちしてくる。気持ちは分かるよ、俺も同じ様な感じで西澤さんに連れ回されてるので、まるで犬の様にね。
「何してるの~2人とも羽根付けて行くよ~」
「やれやれ、しょうがないな。行こっか明奈」
そして、俺達は西澤さんに続いてコンサート会場の入り口に向かう。
「ふふ、2人とも白い羽根似合ってるね」
西澤さんがにこやかな笑顔で俺達の背中を見ている。
ちゃんと、白い羽根つけましたよ。皆そうだからね。
「しっかし、付けてみると分かるけど。結構邪魔になるよねこれ」
篠原さんは、背中の羽根を見ながら言ってくる。そりゃ、ずっと付いていたら邪魔だろうな。俺は好きな様に出し入れできるから、その辺りの苦労までは分からなかった。
「確かに、最初は邪魔だったけど今はちょっとずつ慣れてきたかな。あっ、あそこ。1番見やすい場所が空いてる!」
そう言って西澤さんが走り出す。俺達も走って追いかける。
「しっかし、アリーナ席なんて良い場所よく当たったわね。私は、親戚が行けなくなったからって貰ったよ。まぁ、渡された時号泣されてよっぽどの価値なのは分かったけどさ」
その光景が目に浮かぶ。俺が、朝出かけるときに見た望の号泣姿と一緒だろうな。望も内心は行きたかったはずだからな。夜中俺のかばんに忍び込もうとするくらいに。
「運がよかったね~こんな場所滅多に空いてないからさ~」
確かに、ステージを見るにはバッチリだな。近すぎず遠すぎず、めちゃくちゃ見やすい位置だった。
こんな所、普通は空かないぞ。何かしらの力を……いや、気のせいだな。
それにしても、周りは女性ばっか。男性アイドルグループだししょうがないけどね。女で良かった……ったなんて思ってない思ってないぞ。
俺は、頭を横に振り思考をかき消した。
そして、しばらくして。
開演時間がやって来た。それと同時にライトが調整され、ステージが目立つ様に照らされる。
その後、皆お待ちかねの人達が登場する。
「皆!! ようこそ!! 今日は俺達のライブに来てくれてありがとう~!!」
「きゃぁぁぁああああ!!!!」
『スター・エンジェルズ』の登場と共に、観客が沸いた。
というか、耳が!! 鼓膜破れる!
俺は咄嗟に両手で耳を塞ぐ。
しかし、それでもこの歓声を防ぐことは出来なかった。だって地響き起こしてるもん。何このエネルギー。
「ちょっ、凄い歓声だね。り……」
「きゃぁぁあ!! ウリエル様~!」
篠原さ~~ん!! マジですか?! あなたマジですか?
今日は、2人の意外な素顔が目白押しですよ。
なる程あなたはウリエル押しか。西澤さんは……
「ラファエル様ぁぁああ!! 今日も素敵ぃぃいいい!!」
ダメだ、もう別人だ。目が熱心な信徒になっています。そして、君はラファエル押しか。
別に俺は『スター・エンジェルズ』を嫌ってるわけではないよ。ただ、ここまでとは思わなかったから、ちょっと驚いています。
挨拶の時も度々歓声が上がり、いよいよ曲がスタートすると周りの熱気が更に膨れ上がり、まるで真夏の様な蒸し暑さに包まれる。
ヤバい、これで2時間近くかよ。そりゃ真夏のコンサートで、熱中症の人が大量に出るのも頷ける。
そうか、俺もこの中に混じれば良いんだろうね。今度、望にCDでも借りようかな? そしたら、こんなコンサートでも皆に混じってしまえば熱気も歓声も気にならないだろう
でも、今は耐えるしかなかった。