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ラスト・エンジェル  作者: yukke
第3章 暴かれる正体
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皆の前で

「おはよう~明奈~朝は大変だったみたいね~」


「おはよう、まぁね……」


 篠原さんが挨拶し、朝のことについて聞かれた。俺は口をひくつかせて返したよ、思い出したくないしな。

まぁ、朝の事は見たことない芸人が変なコントしてたってくらいの認識で済んだ。

俺の出すダイスは、掌に隠せる程の大きさしかないため、遠目では皆からは何をしているかは分からない。

でも、その後もっと周りには気をつけた方が良いと望に言われた。


「ねぇねぇ!! 2人とも聞いて!!」


 そんな中、西澤さんがいつもとは考えられないほどのハイテンションで話しかけてくる。

同一人物とは思えないよ、そのテンション。


「実はね、ダメ元である懸賞に応募したの! そしたらね当選してた~!!」


「お~よかったじゃん~何の懸賞?」


 篠原さんは、興味なさげに答えてるね。ちゃんと聞いてあげなよ。


「ふふふ、ジャ~~ン!! 何と、ゴールデンウィークにこの街でやる『スター・エンジャルズ』のコンサートのチケット!! それが当たりました~!!」


 あのアイドルのコンサートのチケットか、望が好きだったっけ。

というか、この反応まさか……聞いてみるか。


「朋美、あなた『スター・エンジャルズ』好きなんだ?」


「うん!! だって、あの人達だけが私の癒しなんだから~」


 あぁ、このうっとりした顔。どっかで見たと思ったら望も同じような顔してたね。


「こんな、朋美初めて見たわ。あんたはそっちの方が絶対良いよ。可愛いんだし」


 同感です、篠原さん。


「そ、そうかな? でね、実はねどうしてもチケット当てたくて、いくつかチケットが当たる他の懸賞にも応募したの」


 あれ、その流れもしかして。2枚当たったとか、そう言うのかな。


「2枚当たっちゃって……2人のどっちか一緒に来てくれたらな~って」


 あらら、予想どおり。そして、別に申し訳なさそうな顔しなくても良いのに。


「ん~でも、私はそのアイドルは別に好きでもないからな~というか、朋美はどちらかというと明奈を誘いたいんだろ? バレバレだよ~」


 そうだね、さっきから西澤さんキラキラした視線で俺を見てるんだよね。断りづらいわ。


「えぇっ?! そ、そんなに私態度に出てた~?」


「出てた出てたしっかりね~まぁ、私の事は気にするな~どうせゴールデンウィークなんて部活三昧だよ」


 そういや、篠原さんは運動部に入るって言ってたな。そりゃゴールデンウィークとか練習漬けだよね。


「じゃ、じゃぁ。明奈ちゃん、良い?」


「う、う~ん」


 うん、その上目遣いは健全な男子なら即落ちる。というか、俺も落ちそう。でも、俺は今は女だっての。

しかし、どうしよう俺も『スター・エンジャルズ』は別にファンって訳では無いしな、望なら即答だろうしな。

何なら、連休までに西澤さんと望を合わせて『スター・エンジャルズ』論でも交わしてもらおうかな。そしたら、そのチケットは望と一緒にってなるだろうね。

何て事を頭で考えてたら、篠原さんが肩を叩いてきた。


「行ってやりなよ。明奈をまず最初の親友にしたいらしいからな」


「ちょ、ちょっと。理恵ちゃん!」


 西澤さん焦って顔真っ赤に。好きな男子をデートに誘う感じになってませんか。

しかし、こうなっては更に断りづらいな。しょうがない。


「わ、分かった。私もファンでは無いけど、そこまで言われたらね」


「う、うん! ありがとう!」


 というか、コンサートもだけどその間に色々とショッピングしたいわけですか。

多分、この子にとっては最大の勇気を振り絞っての事だろう。

無下には出来ないよね、これは。


 すると、クラスの中が急にざわめきだした。


「えっ? あれ、危なくない? 何してんの?」


「ちょっと、あれ2年の……」


「自殺?」


 最後の言葉に、急いで皆の視線の先を見てみる。すると、そこには南校舎の屋上のフェンスの外側から、今にも飛び降りそうな女子が見えた。

背中には羽根が生えてるって事は、『天使の羽根症候群』の子か。

クラスの皆が窓を開け、止めようとするが。

周りからはとんでもない声が聞こえてきた。


「と~べ!」


「と~べ!」


「と~べ!」


 俺は耳を疑った。それはクラスの皆も一緒だったようで、皆唖然としている。西澤さんなんて愕然としている。

そして、声の主達は2階に集中している。

3階からは望の叫び声も聞こえるが、コールにかき消され何を言っているのか分からなかった。


 勿論、この事態に先生もとっくに動いてるだろうが。

如何せん間に合わないだろう。どうする、どうする。

俺は必死に頭を回し、解決策を考える。

ダイスか、しかし面を作る時間あるのか。そう考えてる時間も惜しい。

とりあえず、俺はダイスを出そうとする。周りは飛び降りの方に視線がいってるし、大丈夫だ。しかし、遅かった。


「あ~~!!」


 クラスメイトの1人が叫び声を上げたので、再び窓の外を見ると。

その女子は、ゆっくりと体を前に倒している。

やばい。ダイスを出してる余裕すらない。


「くそっ!!」


 俺は、咄嗟に駆け出し窓枠に足をかける。

こんな事で正体が、とか考えてられない。一瞬ためらった自分に活を入れ直し。意を決して黒い羽根を出現させる。


「え? 明奈?」


「明奈ちゃん?!」


 篠原さんや、西澤さん、そしてクラスメイトの皆も驚きの声を上げている。

だが、そんなことを気にしてる場合じゃない。

俺は、大きく羽根を広げて羽ばたき窓から飛び出し、落ちていく女子に向かい飛んでいく。望の驚愕の声が聞こえた気もするが、それも気にしてられない。

人間、必死になると何でも出来るんだな。昨日の夜はしっかり飛べなかったのに、今はちゃんと飛べてるよ。

そして、何とか地面に衝突する前にその女子をキャッチし、体勢を立て直してまっすぐに中庭に降りていく。勿論、お姫様抱っこですよ。


「ふぅ、間に合った……」


「えっ、えっ。あ……あなたは?」


 意識はあったようで、飛び降りた本人も何が起きたか分からずにキョトンとしている。


「これ以外助ける方法無かったので」


「えっ、あなたその羽根?」


 俺は、ゆっくりと彼女を地面に下ろすと羽根を消して、苦笑いを浮かべそっと離れる。

なんせ、後ろから先生達が駆け寄ってるしね。

とりあえず俺は、ダッシュで教室へと戻っていく。




 あぁ、絶対に軽蔑の眼差しを向けられるだろうな。

せっかく上手く行きそうだったのに。何もかも今のでパーだ。

望にも怒れるだろうな。

俺は、大きなため息をつきゆっくりと教室のドアを開く。

すると、クラスメイト達が一斉に駆け寄ってきて俺の周りを取り込んでくる。囲んでるのは主に女子だが。


「ねっねっ、今飛んだ? 飛んだよね! 橋田さん」


「すごい綺麗だったよ!! なんで隠してたの~?」


 クラスメイト達の意外な質問ばかりが飛んできていて、俺はキョトンとしてしまう。


「えっ? えっ? 飛んだ方なの? 羽根は? 黒かったんだよ?」


 俺は、ビックリしてつい聞き返してしまった。だって羽根より、飛んだ方ですか。


「何言ってんの、西澤さんも居るのに今さらそれくらいで驚かないって~」


「で、でも普通じゃないでしょう?」


「ん~? 新たな症状か何かかな~って感じだよね。だって、羽根が生える原因も分かってないんだよ、色んな症状あってもおかしくないでしょう?」


 そうか、俺は『天使の羽根症候群』の原因であろうウイルスの話は聞いてるが、一般には発表されてないから皆は知らないんだ。


「明奈ちゃんも羽根生えてたんだね」


 西澤さんが近寄りにっこりと微笑んでくる。あぁ、その笑顔「もう一生親友だね」って顔してる。


「だから、最初あんなに必死に私を助けてくれたんだね」


「えっと、いや……その」


 なんて言おうか迷っていると、篠原さんまで近寄り俺の背中をひっぱたいてきた。


「いった~い!! 何すんの?!」


「明奈、あんたあんなに綺麗な羽根隠してるなんてなんか許せない。あんな綺麗なの見せつけられてさ、羽根生えてる人に偏見持ってた私がバカみたいに見えるじゃん」


 何かわからんけど、皆怖がってないのはまだ『天使の羽根症候群』だと思ってるからだろう。違う、違うんだよね。


「ねぇ、明奈ちゃん。もう一回じっくり見せてくれる? 明奈ちゃんの羽根」


「え? う、うん」


 俺は、西澤さんにそう言われて再度羽根を出す。


「うわぁ~やっぱり綺麗~」


「ほんと、怖いくらい綺麗だね~」


 クラスの皆が各々感想を言ってきた。

悪い気がしないのは何故だろう。

顔が綻んできた。待て待て、まだこれからなんだよ試練は。

すると、突然篠原さんが羽根を触ってきた。


「お~手触りめっちゃ最高だよ、朋美のと全然違う~」


「ひぁっ?!」


「えっ? ほんとに?」


 ちょっ、西澤さんまで。止めろ止めろ。


「ちょっ、待って……まっ」


 クラスメイト達が、わらわらとも俺の羽根に集まり一斉に触ってくる。


「にゃあぁぁぁ!! 待って待って、ちょっ……ストッ~プ!!」


 俺にとっては地獄なんだよ。これは。


「えっ? どうしたの明奈?」


「はっ……羽根は、はぁ、はぁ。私のは皆と違って敏感なんだから、あんまり触らないでぇ」


「何これ可愛いんだけど」


 クラス一同一斉に何を言ったんだ。今、不吉な言葉が聞こえたぞ。

うん、待て全員目がおかしい。

やめろ、このパターンはもしかして……


「待って。皆目が怖いから、後男子が鼻の下伸びてるから」


 すると、聞いてなかったのか篠原さんがガシッと羽根を掴んで来た。


「あんっ」


 ちょっと、待て。今俺の口から何が出た。

慌てて口を塞ぐが、もう皆釘付けじゃないか。

男子全員、鼻血出してる。下が血の海になってるわ。


「明奈~可愛すぎるあんたが悪い~」


 ちょっと待て、そんな意地悪な顔をするな皆何考えてんだ。


「そ~りゃ、悶えろ~!!」


「んん~~っ!!」


 全員、めちゃめちゃに激しくいじってくるから悶絶どころでは無かった。口を押さえて耐えろ耐えるんだ、これから始まる試練に比べたらこれくらい。

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