3人の元同級生
翌日、新入生の初々しい顔ぶれが揃う校舎の中で様々な挨拶が飛び交う。
俺も、教室に入ると色んな人から朝の挨拶をされた。
正直、男の時はこんな事あり得なかった。
「あ、おはよう。橋田さん」
「おはよう。西澤さん」
席に着くなり、前の西澤さんがにっこりと挨拶してきてくれた。
「あ、そ……そうだ。羽根、じゃ、邪魔だったら言ってね。その、こうやって多少は、下げたり出来るから」
そういって彼女は、羽根を上下に動かして見せた。
「わっ! 凄い動かせたんだ~」
それを見ていたクラスメイト達が、一斉に駆け寄ってきた。
確かに、多少上下に動かせられるとは俺も思わなかった。
あ、もしかして肩甲骨動かしてるのかな。
「えっ、あ、その。う、うん一応。肩甲骨を動かせば」
やっぱり、肩甲骨でしたか。それにしても器用なものだ。
俺は、感心して眺めていた。
「ほらほら、皆~席につけ~HR始めるぞ」
担任の柳田が入ってきた。質問タイムは終了とばかりに、皆渋々席についた。
そしてHRが終了後、再び西澤さんの所に……と俺の所にまで来た。なぜだ。
「ね~ね~橋田さん。美容の為に何かしてる事ってあるの?」
何故そんなことを俺に聞くのだろうか。
「えっと、特に何もしてないよ」
俺は、硬い笑顔で答えた。こういうのは苦手だ。
中身がまだそこまで女では無いからな。ん、いや女の子になりたいわけでは無い。断じて。
「え~!! 何もしていないのに、こんな肌すべすべのもち肌で、髪サラサラなわけ~?! 羨ましい~!」
だから、やめろ。髪を触るな、腕を触るな。
女子って皆こうなのかな。
すると、授業開始のチャイムが鳴り、先生が入ってきた。
「はい、皆さん席に着いて下さい。授業始めますよ」
入ってきた先生は、艶があり腰までのストレートロングの黒髪。眼鏡をかけた美人先生が入ってきた。
男子はその大きな胸に釘付けになり、「おぉっ」という声が上がっていた。
「私は、今日からこのクラスの数学を担当します、鷹西沙耶と言います。1年間よろしく」
相変わらず、真面目だな。というか、担任に続き数学の先生まで元同級生か、やばい。下手な事は出来ない。
「先生~! 質問良いですか?」
1人の男子生徒が、手を上げて言ってきた。
「どうぞ。初めて会うから、今日は質問だけで明日からやる授業の中身を少し説明するだけにしとくわね」
俺は、初めてじゃありません。
なんて表情は出せない。初対面のふりをしなければ。
もちろん、担任の柳田の時も気をつけてるが、実はこの鷹西さんはカンが鋭い。望以上にな。
「先生は、結婚していたり彼氏さんが居てたりするんですか~?」
はい、来た。男子お決まりのこの質問。
次は胸のサイズ聞いてくるぞ。
「そう言う方は、居ないわね。前の学校でもよく聞かれていたから、この際言っておきますけど。私は貴方達のような、親に扶養されてる間の人には興味がありませんから」
うん、やっぱり鷹西さんは教師という雰囲気をしっかり醸し出してるな。
男子からは「え~っ」と言う声が上がっていた。
可能性を期待していたようだな。冷静に考えろ、教師と生徒はダメだろう。
「じゃ、先生! 胸のサイズっていくつですか~?」
ほら、来た。最低だな、男子は。思春期真っ盛りとは言え、節度が有るだろう。
「男子最低~!!」
女子達が、全員でブーイングしてきた。そうそう最低だな。
「うるさい~! これは男のロマンなんだぞ!」
男子達が、猛反発してきた。いや、全く理解出来ないね。男子の気持ちは。って、ちょっと待て……これでは完全に女の思考じゃないか。
うぬあぁぁ。違う違う違う違う。俺は紳士であってそういう思考ではない。違うぞおぉぉ。
俺は、頭を抱えぐねぐねと変に悶えていた。
「どうしたの? 橋田さん?」
「ふぇ?! いや、何でも無いよ」
危ない、絶対変な人だと思ってた。
ところで、さっきから鷹西さんが静かだな。
あ、顔真っ赤にして口パクパクしてる。金魚みたいに。
やっぱり、こういう事の耐性はまだ出来てないようだな。
その後、クラスの女子達の総攻撃により、男子達は沈静化し鷹西さんはなんとか最初の授業をやり終えた。
「全く、男子って何でこう品が無いのかしら。朋美ちゃんも、あんまり男子に羽根触らせない方が良いよ」
授業が終わり休み時間中に、隣の女子が俺達に話しかけてきた。
「えっ、あ、今名前……」
「あっ、ごめん。いきなり馴れ馴れしかった?」
「ううん、そんなこと無いです」
西澤さんは、うれしそうに返していた。
やれやれ、なんとかこの子はクラスに馴染めそうだな。
「じゃ、改めてよろしくね。私は、篠原理恵。理恵って名前で呼んでくれたらいいよ~」
短髪の髪に活発な性格、胸は……本人の自尊心を傷つけそうなので、止めておこう。
所謂、スポーツ少女だな。なのに、最初西澤さんに向かってあんな事言えるとは、ある意味素直なんだろうな。
「橋田さんも、名前で呼んで良い?」
「え? あっ、うん。良いよ」
この子は俺まで標的入ってたか。まぁ、友達を増やすのは俺の目標の1つだ、頑張ろう。
「ありがとう、朋美ちゃん、明奈ちゃん。特に、朋美ちゃん羽根の事はほんとにごめんね」
「あ、ううん。もう、良いよ。慣れてるから」
ぎこちない笑顔を見せる彼女に、篠原さんはクスクス笑っていた。
そして、次の授業のチャイムがなった。
昼休み、俺はハンカチで手を拭きながら出てきた。
ちょっと危なかった為に、急いでいた。男子トイレに目がいっていた自分に気づき、首を振り女子トイレに駆け込んだ。
「これに慣れるのは何時になるやら。そう言えば、また月の中頃にはアノ日が来るんだっけ。はぁ……」
大きなため息でもつきたくなる、軽く考えていた。女の子の日を。
もう、下手な病気よりもよっぽど質が悪い。
とりあえず、薬は俺に合っていたようで先月は何とか乗り切れた。
そんなことを考えていたら、階段の上からヒソヒソ声が聞こえてきた。
「あれ、そう言えばこっちは……」
そう、この北校舎の階段の上は屋上に繋がっているが、扉は常時閉められ鍵がかかっているのだが、何と強めに回すと簡単に開いてしまう。要は壊れていたのだ。
でも、そんなことを知っているのは俺とあいつらしか居ない。
俺は、気になって階段を上った。
すると、しばらくすると、ガキンと言う音と共に扉が開く音がした。
「はは、やっぱここは変わらずかよ。直せよな~いい加減」
この声は柳田か。
「だったら、ちゃんと主任に報告しなければね」
「ちょっと、沙耶ちゃ~ん。俺達の秘密の場所が無くなっちゃうだろう~」
「あなたが直せって言ったでしょ、英二」
「まぁまぁ、他の奴らは知らないんだし。良いじゃ無いか、鷹西、英二」
武は、相変わらず柳田と鷹西のなだめ役か。
熱血漢な世話好きのこいつらしいな。
「あ~久々だな、ここ」
柳田が伸びをして言ってきた。まぁ、10年以上ぶりだからな。
俺は、扉の影で3人の話を盗み聞きした。
いや、気になったかじゃなく。俺の事がバレてないかだよ。
「ここにはあいつも居たよな。晃が」
「そうね、武は晃の事ずっと気にしてたわね」
俺は、自分の名前が出てきて正直心臓が飛び跳ねてしまったよ。口から出そうだ。
「俺は、あいつの事は嫌いだったね。なんか上から目線で胸くそ悪かったわ」
それは俺もだ柳田。俺が、外面良い人間を嫌っていたのは少なからずこいつの影響もある。
裏表激しいんだ。こいつは。
「英二、そう言うな。あいつはあいつで苦しんでいたんだぞ」
「はっ! どこが?!」
あぁ、こいつの声だけシャットアウト出来ないかな。
「でも、そのせいよね? うつ病になっちゃったなんて」
あ、そういや。俺が出かけてる時に家に来たんだっけ。
母さん、そういう言い訳したのか。まぁ、確かにそれなら会えないという理由にはなるか。
「忙しかっとはいえ、もう少しあいつに気を配ってやればよかった」
藤本は、俯きながら暗い顔をした。
いや、うつ病じゃないよ。
もっと別の言えない理由ってやつです。だから、そんなに落ち込まれたら胸が痛い。
「ま、俺は清々するわ」
「あなた1度刺されたら? 今も、何股してるの?」
鷹西さんは、柳田をギロリと睨んだ。ちょっと待て、昔から女たらしだとは思ってたが、パワーアップしてるのか。
「えっと……5股かな?」
柳田が指を折りながら言ってきた。その瞬間。
ゴスっと言う音が響いた。どうやら鷹西さんが柳田にチョップを決めたらしい。
「痛いなぁ! 何すんだ!」
「女の敵」
鷹西さんは柳田を蔑んだめで見ていた。あの目も健在か。
そして、藤本がまた「まぁまぁ」となだめていた。
「それより、晃にもう1人妹が居たとはね~」
「あぁ、そういえば俺の受け持つクラスの中にいたね。明奈ちゃんだっけ? あれは、絶世の美少女だよな。将来も絶対に美人だ」
「あなた、生徒にまで手を出す気? 主任に報告してクビにしないと」
鷹西さんは再び柳田に冷たい視線を送った。
「待て待て! あんな乳臭いガキ共なんか相手にするかよ! 大人の魅力を持ってる人のが良いんだよ~俺は~」
変わらない、こいつは何にも変わらない。
「でも、兄妹だからなのかしら、晃に雰囲気が似すぎてないかしら」
ちょっと待て、カンが鋭いにも程があるよ。鷹西さん。
「鷹西は昔から、カンが良いからな。でも、さすがに今回はそのカンは外れだ。いくらあいつの事が好きだからって、敏感過ぎるぞ」
「ちょっ! 武、何言ってんの!!」
ちょっと待てマジかよ、聞いちゃいけない事を聞いてしまった。
鷹西さん、またしても顔真っ赤だ。
「沙耶ちゃん、俺達に色々相談していたときのように素直になったら~? 今のあいつうつ病でふさぎ込んでるなら、沙耶ちゃんが心の支えになれば良いじゃん~」
うん、余計なプランは言わなくて宜しい。というか、これ以上ここに居たらやばそうだな。
俺は気づかれないように、ゆっくりその場を後にした。
教室に戻ると、西澤さんが心配そうに見てきた。
「明奈ちゃん、大丈夫? 体調悪いの?」
「あ、ううん。違うよ、大丈夫だよ。ありがとう、朋美」
俺は、手を横に振り心配無いという素振りし、席に着いた。
とりあえず、あの3人は要注意だな。
そして、午後の授業の開始のチャイムが鳴った。




