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ラスト・エンジェル  作者: yukke
第2章 二度目の高校生
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過ぎゆく春休み

 俺は、リビングのテーブルで不機嫌な顔でトーストにかじりついた。

この流れ、昨日もやったよな。

もちろん、今日もトーストはこんがりと焼きすぎかと思うくらいに焼かれていた。


「ごめんって、明奈ちゃん~機嫌直してよ~」


「ダメです。さすがにあれはダメです、許せません」


 望は、がっくりと肩を落としうなだれた。

あれから俺は、1時間望の責めに耐え続けてましたよ。

望が目を覚ましたとき、俺は肩で息をし涎を垂らし、頬を紅潮させていた。

それに気づいた望が慌てて俺の心配をするものの、俺の口から自分がやったことだと聞かされて、顔をトマトの様に真っ赤にさせ自分の部屋に駆け込んだ。


「良いな~僕もその中に混ざりたかったな~」


 ブタがポテチを頬張りながら、羨ましそうに俺達を眺めていた。

というか、それがお前の朝飯か。朝から何を食ってるんだ。


「守、朝はせめてしっかりしたご飯を食べなさい」


「ふっふ、抜かりはないですよお母さん。見よ! ノンフライのポテチだ~!!」


 ブタが、自信満々にポテチの袋を見せてきた。


「望、ハリセン頂戴」


「3種類あるけど、どれがいい? 鉄板付きと、スパイク付きと、特注の鉛で出来たハリセン」


 ちょっと待って、最後何て言いいました。とっても危ない物だったような気がするが。


「じゃぁ、鉛の方で」


「母さん、そっち選んじゃダメ~!!」


 この親、息子を殺す気か。朝からえげつないことをするな。

というか、その間にブタが慌てふためいて部屋に走って行ったぞ。


「全く、冗談が通じない子ね」


「いや、目が本気だったよ……」


 俺は、母さんに注意をしといた。どこまでが本気でどこまでが冗談なのか、分からん親だしな。


「ふぅ、やれやれ。ようやく何とかなりそうだ」


 そう言いながら、父さんが1回の書斎から上がってきた。


「あれ? オヤ……お父さん何してたの?」


 危ない危ない。オヤジと言いそうになったが、母さんが瞬時にこっちを見てきたので、慌てて訂正したよ。


「はは、いきなり呼び方を変えるのは難しいだろうが。母さんもあまり無理やりは止めておいてやれ」


 中身が男である為、意識しないと女の子の言葉使いにならずに苦戦するな。咄嗟に言葉を発するとこうなる。


「さて、明奈。ようやく、高校への入学手続きが終わった。母さん、制服のサイズを向こうに伝えないといけないから、教えてくれんか?」


「はいはい、分かりましたよ」


 ちょっと待て、何かおかしいぞ。

あぁ、そうだ。アレをしてないぞ。


「あ、待って。入学試験とかは?」


 そう、高校入り直しとか言うがそう簡単ではない。


「あぁ、それは心配するな。明奈、お前が通っていて望も今通っている高校にしたんだ。そこには、父さんの恩師が理事長をしていてな、校長なんかは父さんの後輩なんだぞ」


 オヤジはいったいどんな人脈を持ってんだ。素直に感心していた。


「あと、役所には俺の同級生もいる。戸籍も何とかしてもらうように頼んだ。お前は、何の心配もせず人生をやり直していけば良い」


 濃い人脈を持った親がいて助かりました。ほんとオヤジには感謝しても仕切れない。何故、男の時にもこうやって助けてくれなかったのだろうか、考えても今はもう関係ないか。


「父さんの人脈は凄いでしょう、それに部長にまでなってるしね。絶対にこの人は、将来絶対出世魚になると思ったのよ~」


 すると、それを聞いた望がとんでもないことを口走った。


「え? お父さんって魚じゃないよね?」


「……」


 その瞬間、全員無言になった。

そして、テレビからバラエティ番組の笑い声が聞こえてきた。

テレビさん、タイミング良すぎるよ。


「えっ? えっ? 私、やっちゃった?」


 望は、たまにマジボケしてくる。本人も多少自覚はしてるらしいが、直せないと嘆いていたな。


「望、たとえよ。まぁ、望の言うこともあながち間違いではないけどね」


「うぅぅ~」


 望は、顔を赤らめて俯いてしまった。

しかし、望がテレビに目を向けた次の瞬間。


「あ!! 『スター・エンジェルズ』が出てる!!」


「へぶぅ!!」


 望が、俺の頭を押さえつけてテレビに飛びついた。

そりゃ、テレビは俺の方向にあるからってこの仕打ちは酷いぞ望。


「大丈夫、明奈?」


「ひたい」


 母さん、心配してくれてありがとう。でも、鼻打ってしまいました。

俺は、涙目になりながら顔を上げた。


「やれやれ、望はあのアイドル達の事になると周りが見えなくなるからね」


『スター・エンジェルズ』は、今人気のアイドルグループだ。

メンバー4人全員が、『天使の羽根症候群』にかかっているのだ。

名前も芸名だが、天使の名前を使っている。


 実は、天使の羽根が生えた人達への偏見や差別を無くしていったのは、このアイドル達のおかげと言っても過言ではなかった。

政府に必死に働きかけ、CMなどの広報活動を行ってきた。その甲斐あってか、今は差別や偏見が無くなってきたのだ。

天使の羽根が生えた人達にとって、この人達は命の恩人に近い存在であろう。


「はぁ~やっぱ、ミカエルが1番かっこいいな~」


 ミカエルって言ったが、夢で会ったあのミカエルじゃないと思う。

姿が見えなかったから、確証はないがな。


「そう言えばさ~明奈ちゃんが会った天使もミカエルだったよね? もしかして、この人とか?」


「ん~分かんない。姿が見えなかったからな~」


 望はテレビに向かったままだ。そして、スタジオで生演奏が始まった。

それに合わせて望も口ずさんでいた。


「なんだ、望はそういう奴らがタイプなのか?」


 オヤジが、トーストを食べながら望に向かって言ってきた。


「違うよ、好きなアイドルと好みのタイプは違うよ~こういう人と付き合いたいとか、そういう想いじゃないから」


「そ、そうか。それなら良いんだ」


 なんか、オヤジがホッとしてやがる。父親とはそういうもんなのかね。

いつの日か娘が彼氏を連れてやってくる。娘が貰われていく感覚というのは、父親にならないと分からないね。

俺は、ココアを飲みながらそんなことを考えていた。


「そう言えば、娘が2人になったからお父さんは不安が2倍になってるわね。明奈もいつか彼氏連れてやってくるのじゃないかってね」


「ブーーー!!! ゲホ、ゲホ。何を言い出すの!! 母さん!」


 ココアを吹き出したが、咄嗟に横を向いたので母さんにはかかってない、セーフ。

というか、何言い出すんだ。この人は。


「だって、あなたも女の子になるんならいつかそうなるでしょ?」


「そんなのまだ先の話です!」


 俺は、雑巾を持ってきて自分で噴き出してしまったココアの処理をした。

まだ、女の子にも慣れてないんだよ。というか、心は男なんだ男に惚れてたまるか。

あれ、でもそれでは女の子になりきれない。

あれ、あれ。どうしたら。

あぁ、頭がぐるぐるとおかしな事に。


「お母さん、気が早いよ。まだまだ明奈はこれからなんだよ」


 ようやくアイドル達の登場が終わり、望はテレビから離れてテーブルに戻った。


「そうね。でも2人とも、ちゃんとした人ならお母さん結婚は賛成だからね」


「なら~ん!!」


 オヤジが声を張り上げ反対してきた。

これは長くなりそうと思い、俺は足早に部屋に戻った。


 その日の夜には、俺は元の高校生の女の子に戻っていた。

どうやら、24時間で元の状態に戻るらしかった。









 そして、数週間後。

俺の元に、高校の制服が届いた。俺が通っていた高校だから、女子の制服がどんなのかは知っている。望も毎日着てるしな。

だが、まさか自分が着る事になるとは夢にも思わなかった。


「わぁ、明奈似合ってるよ~」


「そ、そう?」


 俺は、リビングで高校の女子の制服に身を包み、両腕を伸ばしサイズが合ってるかを確認し、クルッと回転して皆に披露した。

それを見て、望が両手を合わせて感激していた。


「サイズは合ってるようね~」


 母さんが、俺の着てる制服に手をやり、変な所はないかと確認してきてくれた。


「ブゴブゴ」


 リビングに居る、本物のブタも俺の近くまで来て俺を見上げていた。

というか、パンツ見んなブタ。


「ブギィィイイ!」


 俺は、本物のブタを足で踏みつぶした。

もちろん、このブタは人間である時は守という名前を持っている。


 そう、ダイスで1週間本物のブタにしてやったのだ。

ほんとなら玉なしに、つまり女にしたかったのだが、うまくその面が出ずに、本物のブタにしてしまった。

何回か、望が間違えたって言って丸焼きにしようとしていたけど、本気の目をしていたので母さんがさすがに怒っていた。


「そういえば、病院どうする? この前は結局原因不明と言われて、異常があったらすぐに来てくださいと言われただけだったけど」


「原因分かったから、病院はいいや」


 母さんも、俺のこの言葉に心配そうにすることもなく、優しく「そう」とだけ言ってくれた。


 さて、今度の高校生活は前に出来なかった事をやってみようか。

友達付き合いというやつをね。

父さんを見てて、人脈は大切なのだと今更理解したよ。

上手くいくかは分からないが、俺なりに前向きに頑張って見ようと思う。

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