家族会議
その日の夜、夕飯を食べ終わった俺達はリビングのテーブルに全員揃っていた。
「事情は母さんから聞いた。あき……な、聞く限りそのダイスはかなり危なそうだな」
今、晃って言いかけたよね。まぁ、しょうがないけど。まだ1日しかたってないしな。
「とりあえず、無闇に使い何らかのリスクを負うと不味いだろう」
オヤジの言うことは最もではあるな。俺はオヤジの言うことに耳をかたむけ、頷いた。
「いいか? そのダイスは人助けの時にのみ使え。いいな?」
「えっ? それだけでいいの?」
あまりにも緩い制限で驚いた。
「ちょっと、あなた。いいの? そんな程度で」
母さんが驚いた顔をしていた。もっとキツい制限を頭に浮かべてたんだろうな。
「良いも何も、明奈しか取り出し出来ないんだろうが。俺達が保管出来るなら、もっと制限もかけられるが」
「それは、そうですけど。そうだ、ちょっと明奈ダイス出してみて」
「え? 良いけど」
母さんは何を考えてるんだろうか。深く考えないでおくか。
俺は指を鳴らしてダイスを出現させた。
「ほぉ、これがそうか」
オヤジがダイスをまじまじと見つめてきた。
「明奈、それ使わずにそのまま消すこと出来るかしら?」
「えっ? う~ん、どうかな?」
確かに、使わずに消すことは出来るのかな。
そう思いながら、俺はダイスに意識を集中させ消えろと念じて見た。
しかし、驚いた事にダイスは消えなかった。
「うんうん。ならこのまま私達が保管して置けば」
あっ、出すんじゃなかった。そういうことか。
やばい、母さんがダイスに手をその前に取らねば。
しかし、母さんがダイスに手をかけた瞬間。バチっという音と共に、火花が散った。
「きゃっ!!」
「お母さん、大丈夫?!」
望がいきなりの出来事に心配そうに駆け寄った。というか、俺にも何が起きたか分からず、きょとんとしてしまった。
「ふむふむ、なるほど。つまり明奈ちゃんにしか触れないということか~これはなかなか良いアイテムですなぁ」
ブタがダイスを眺めて言ってきた。しかし、こいつの生命力はなかなかのものだな。
「ふぅ、なら尚更明奈にしか取り扱えないものになる。制限をかけるのは難しいな」
幸い、母さんは怪我はしていなかった。よかった。
というか、消せないということは、これを消すにはダイスを振るしか……
俺は、無言でじっと家族を見つめた。
数十分後。テーブルの上にはオヤジの晩酌のアイテム目白押しになっていた。
因みに、ブタや母さん望にも恩恵があるようにダイスの面をセットしたが。全て父さんに恩恵のある面ばかりが出た。
もう、今では手に入らない幻の名酒『ごっつぁんです』から、酒のつまみには最高の品々が揃っていた。お父さんいつもご苦労さまですってね。
「うん、なんだ。こういう使い方なら有りではないか? 母さんよ」
「いや、まぁそうですけど……」
これは完全に母さんの負けだな。オヤジはかなり上機嫌で酔っぱらっていた。
最初いきなりえげつないのをやりすぎたのが良くないよな。
こういう食べ物を出すという軽い効果なら、ダイスも5回は振れる事が分かった。
「しょうがないわね、人に害を与える効果は守だけにしときなさい」
「ひぇ?! 何で僕はいいの~!!」
ブタが、この世の終わりの様な顔をして母さんを見つめていた。情けないな。
「冗談よ。でも、明奈に何かしてみなさい。とんでもないことになるからね」
「き……気をつけます」
ブタが縮こまってる。更に、情けなく見えてきた。
「さて、明奈。次はお前の体だが、もう元には戻れない事は確定か?」
「うん、ほぼ確実かな。だって、大天使の仕業なんだし人間が敵うわけないよ。多分、他の天使の羽根が生えた人達も治らないと思う」
俺は、オヤジの顔を真剣に見つめて答えたのに。オヤジの顔はすっかりできあがっており、真っ赤だった。
このクソオヤジ。
「で、お前は覚悟を決めたと言うのか?」
「うん、直ぐには無理だろうけど。ちょっとずつね」
そう、男に戻れないなら女になりきるしかない。でも、心は男なんだよな。この違和感をどうすればいいだろうか。
「そうか、お前がそう決めたなら父さん達は何も言わん。お前達も良いな?」
「私はあなたの言うことに反対はしないわ」
「分かったよ、お父さん」
「はいはい~」
何だろう、オヤジってこういう時は頼りになるな。今まで考えたことなかった。
「なら、今日役所の方にも行ってきて正解だったな」
「え? どういうこと?」
俺は首を傾げた。役所ってまさかだけど。
「元に戻れる可能性が低いなら、お前の戸籍を女に変更しなければならん。あと、歳もな」
やっぱりね。そうか、戸籍も変えたら正真正銘俺は女だ。
「それと、もう一度高校生からやり直せ」
「なっ? なんで?」
俺はびっくりして聞き返した。しかし、普通に考えたら何もおかしくはないか、どう見ても15歳くらいの女の子だ。この姿で働くとか無理だ。
「お前がバイトしていた、コンビニもどうせクビにすると言っていたからな」
あ、とどめを刺されたよ。俺の、この性格が社会に受け入れられないと言うことか。
俺はがっくりとうなだれた。
「やはり、良い機会だな。覚悟したなら、その性格も直すよう努力するんだ」
「わ、わかったよ。オヤジ」
「明奈。そこはお父さんでしょ? やると決めたなら、家の中でもしっかりと女の子しなさいね。そして、あなたが一番年下になるのよ」
げっ、しまった。と言うことは。
俺はゆっくりと、望と守を交互に見つめた。
2人ともにこにこしやがって。
「そう、望のことは望お姉ちゃんで、守のことは守お兄ちゃんね。わかった?」
「そ、そんな。直ぐには」
俺は引きつった顔で母さんを見た。
「そうね、ゆっくりで良いけど。学校に行き直すなら、それまでにはしっかりしないとね」
そうか、これから俺の試練が始まるのか。
と思っていたら、急に体がむずむずしだした。
「えっ? なんだ?! なんだこれ?」
「あ、明奈!!」
「おい、どうした! 明奈! なんだその姿は?」
なんだ、なんか服がだぼだぼに。
あれ、視線まで下がってる。オヤジと母さんそんな背が高くなかったぞ。
「明奈、まさか力を使いすぎた事でそんなことに?」
望の声が震えてる。なんだ、俺はいったいどうしたんだ。
すると、望がリビングにあった手鏡を取ってきた。そこには思いがけない光景があった。
だぼだぼになった服に包まれ、明らかにさっきよりも更に5歳若く、10歳くらいの小学生の少女になった俺の姿があった。
「なんだこれぇ~~!!」
あの天使次会ったら、容赦しない。




