表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

ある夏の怪談!

長谷川怪談!

作者: あきたけ

 

 五月雨が地面を濡らし、夜は植物の匂いを漂わせる季節となった。

「乾杯!!」

 林間学校では、夕飯の頃であった。

 長谷川栄一はせがわえいいちは隣の座敷に幽かな妖気を感じる。

 だがしかし、これは自分の思い込みだと思うことにした。せっかくの旅行、自分の霊感のせいでクラスの皆を怖がらせる訳にはいかない。

「栄一くん。怪談話しない?」

 話かけてきた少女の名を志保しほ)と言った。

「うん。今はいいや」

「えーっ怖い話しようよ♪」

「怖いからいいって」

「えーっつまんないの。せっかく栄一くん霊感あるのに」

「そう言う話は、寄って来るぜ」

 栄一が断った、次の瞬間であった。

 座敷に寒気が走った。とても冷たい嫌な風だった。

「寒いね、障子を閉めようか?」

 栄一は障子を閉めようとしたが、志保に止められる。

「やめて!」

 見ると、下から黒い髪の毛が涌き出ているのだ。

「まずい!これは」

 次の瞬間、畳が赤黒く染まった。

 

 おびただしい量の血飛沫が空気を裂き、障子にも紅い花を咲かせる。

 栄一は朦朧とする意識のなかでそれが自分の右半身から発せられている事に気づき、断末魔を上げる隙も無いまま畳に落ちる。


 生徒たちの悲鳴が遠くに聞こえた。

 そして、此処に住み着くモノ、得たいの知れない黒髪の女を睨んでやる。


 (コイツだけは、この呪いだけは絶対に生かしちゃいけねぇ!悪霊はこの霊は必ず……)


 栄一の何かが切れた。


「志保……あの、床の間に……飾ってある、刀…はあれは……本物、なのかい?」


 志保は開いたままの瞳孔で栄一に目をやった。

 そして静かに頷く。


 栄一はそっと起き上がる。

「皆を怖がらせて楽しいのか?悪霊は人を呪うことが仕事なのかい?なぁ聞かせてくれよ」


 よたよたと床の間に向かう。

 きっと飾りモノであろう刀の横で、血の臭いに包まれた日本人形がほのかに笑う。

 栄一がそっと、刀をつかんだ。


 刹那に横で、日本人形の目が大きく見開かれた。

 背筋が凍った感覚で、人形が見ている場所に目をやる。


「やめろ!」


 黒髪の女は志保や、周りの級友を睨んでいる。

 血の通っていない、指先は級友の喉を押し潰さんばかりにしていた。


 栄一の視界が揺らぐ。出血のためであった。

 

 思考が停止したまま、刀を抜こうと考える。

 紐を緩める。

 肩の傷の痛みこそ、自分が今意識を失いかけている原因と思えた。

 そして、刀を抜いた。


 「三毒崩壊!」


 呪文を叫んだ。

 そして刀を降り下ろす。


 二秒ほど、奴には反応がない。

 効果が無かったかに思われた。


 だがしかし、奴はゆっくり栄一の方を振り向き、訳の分からない叫びを上げ、血の乾ききっていない先ほどの障子に飛び込んでいった。


 栄一は倒れた。

 

 「と、言うお話でしたーーー!」

 志保の怪談話が終わった。

 「じゃあ次栄一くんね♪」

 「おいおい、何で俺が血がブシャーってなって悪霊はどこ行ったかもわかんねぇ終わりになるんだよ!」

 「いや、長編だから、続きがあるんだって」

 「ねえよ!この話は短編だよ」



 「はい♪終わり。怖かった?」


 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 志保の創作話なんですよね? 構造力豊かで面白いです。 栄一が散々だけど。 話の中では瀕死の状態で悪霊に挑むかっこいい役だけど。 ドキドキしながら読んでおいての最後のオチ。 笑えました。 こう…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ