長谷川怪談!
五月雨が地面を濡らし、夜は植物の匂いを漂わせる季節となった。
「乾杯!!」
林間学校では、夕飯の頃であった。
長谷川栄一は隣の座敷に幽かな妖気を感じる。
だがしかし、これは自分の思い込みだと思うことにした。せっかくの旅行、自分の霊感のせいでクラスの皆を怖がらせる訳にはいかない。
「栄一くん。怪談話しない?」
話かけてきた少女の名を志保と言った。
「うん。今はいいや」
「えーっ怖い話しようよ♪」
「怖いからいいって」
「えーっつまんないの。せっかく栄一くん霊感あるのに」
「そう言う話は、寄って来るぜ」
栄一が断った、次の瞬間であった。
座敷に寒気が走った。とても冷たい嫌な風だった。
「寒いね、障子を閉めようか?」
栄一は障子を閉めようとしたが、志保に止められる。
「やめて!」
見ると、下から黒い髪の毛が涌き出ているのだ。
「まずい!これは」
次の瞬間、畳が赤黒く染まった。
おびただしい量の血飛沫が空気を裂き、障子にも紅い花を咲かせる。
栄一は朦朧とする意識のなかでそれが自分の右半身から発せられている事に気づき、断末魔を上げる隙も無いまま畳に落ちる。
生徒たちの悲鳴が遠くに聞こえた。
そして、此処に住み着くモノ、得たいの知れない黒髪の女を睨んでやる。
(コイツだけは、この呪いだけは絶対に生かしちゃいけねぇ!悪霊はこの霊は必ず……)
栄一の何かが切れた。
「志保……あの、床の間に……飾ってある、刀…はあれは……本物、なのかい?」
志保は開いたままの瞳孔で栄一に目をやった。
そして静かに頷く。
栄一はそっと起き上がる。
「皆を怖がらせて楽しいのか?悪霊は人を呪うことが仕事なのかい?なぁ聞かせてくれよ」
よたよたと床の間に向かう。
きっと飾りモノであろう刀の横で、血の臭いに包まれた日本人形がほのかに笑う。
栄一がそっと、刀をつかんだ。
刹那に横で、日本人形の目が大きく見開かれた。
背筋が凍った感覚で、人形が見ている場所に目をやる。
「やめろ!」
黒髪の女は志保や、周りの級友を睨んでいる。
血の通っていない、指先は級友の喉を押し潰さんばかりにしていた。
栄一の視界が揺らぐ。出血のためであった。
思考が停止したまま、刀を抜こうと考える。
紐を緩める。
肩の傷の痛みこそ、自分が今意識を失いかけている原因と思えた。
そして、刀を抜いた。
「三毒崩壊!」
呪文を叫んだ。
そして刀を降り下ろす。
二秒ほど、奴には反応がない。
効果が無かったかに思われた。
だがしかし、奴はゆっくり栄一の方を振り向き、訳の分からない叫びを上げ、血の乾ききっていない先ほどの障子に飛び込んでいった。
栄一は倒れた。
「と、言うお話でしたーーー!」
志保の怪談話が終わった。
「じゃあ次栄一くんね♪」
「おいおい、何で俺が血がブシャーってなって悪霊はどこ行ったかもわかんねぇ終わりになるんだよ!」
「いや、長編だから、続きがあるんだって」
「ねえよ!この話は短編だよ」
「はい♪終わり。怖かった?」