八口目
あと一週間。
大道具の雪輔も、いよいよ仕上げの時期。
雪輔の周りにはクラスメイトがわらわら集まっている。
大詰めって感じ。
大詰め、というなればそろそろ役者の衣裳寸法の関係で愛希さんと私のどちらが主演をやるのか決めなければならない。
…その問題を勃発させた王子白逆くんは先に衣裳合わせに入っている。
勝負は1時間後…受けた以上は勝ちたくなってきた。
あんなに練習したし。
階段で台詞を覚えていると、足音が階下から聞こえる。
「我が姫君。
なんてね…どう?」
現われたのは七次郎くん。
袴姿、みたいな衣裳。
いつものブレザーとネクタイではない。
なんだか少しりりしい雰囲気で…うん、かっこいい。
「へへ、委員長から演劇部員に要請されちゃってさ…。
くきらに会えないから物足りなくて、抜け出してきちゃった」
隣に座ると、私の台本を覗き込む。
へぇと嬉しそうに笑う。
「くきら、シンデレラやるの?
すごいね、主役じゃん!」
少しくすぐったい。あんまり全面的に誉められることがなかったから、ちょっと照れ臭かった。
「んー…僕やっぱりくきらとクラスが同じだったら良かったなぁ」
「学年からして違うでしょ。
でも、なんで?」
「だってさー王子様役がいるんでしょ?
情けないけど嫉妬、妬くもん」
まさか王子役は白逆くんだよとは言えなかったけど、いずれ知ることになるだろう。
反応が恐いなぁ。
「あ、いたいたぁ。探しちゃったじゃん」
ドアを開けて出てきたのは愛希さん。
私の隣にいる七次郎くんは軽く会釈するが、彼女は横目で見るだけ。
相変わらずこのマドンナは年下には興味ないみたいね…。
「紡木が呼んでこいって言ってきたのよ、このあたしに。
全く何様って感じよねー!」
おまえがな。
思ったけど、口には出さないで黙る。
こういうタイプは面倒臭いからなー。
「てゆーか!
あたしとくきらの勝負とか可哀相すぎじゃない?
ビジュアル含めて明らかにあたしじゃんね!
イジメだよイジメー!」
けらけらと笑う。
無邪気さからではない、蔑みの眼差し。
まぁ―――本当に綺麗だからなにも言い返せないのが悔しいけど。
…けど、七次郎くんは怒った。
「お前みたいなブサイク、くきらに適うわけねーじゃん」
にわかに凍り付く愛希さんの笑顔。
かまわず七次郎くんは続ける。
「見た目だけあればいいハリボテのアンタと違って、くきらは努力して頑張ってる。そんなら当たり前に―――
くきらの勝ちじゃないか」
かっとなる愛希さんだが、紡木の声が邪魔をする。
成果を見せるとき。
ふんと鼻で言って、愛希さんは教室のドアを開けた。
「…ありがと、七次郎くん」
彼は私のことで怒ってくれた。それは嬉しいことだったから。
でも七次郎くんは首を傾げる。
「別に…トーゼンのことだし」
ふぃっと顔をそらす。
かわいい、けど…たまに強い一面がチラついて、どきっとしてしまう。
「くきらーはじめるよー!」
「あ、じゃあ行かなきゃ…」
階段に置いてた台本を手に取る、と七次郎くんの手が私の腕を引き止めた。
一瞬にして鼓動が高鳴る。
「くきらを、めろめろにさせるまでは―――
僕も、頑張るから」
ぱ、と手を離す。
何も言えずにドアに駆け込んだ。
鼓動が静まらない。
いつもと違う服装のせい?
いつもと違う雰囲気で?
七次郎くんがいつもと違う、から?
握られた腕が焼けるように熱く感じた。




