六口目
「と、いうわけで文化祭の出し物は王道の演劇をもぎ取って来ましたっ!
出演者および大道具の皆さん、一生に一度の思い出デス!
気合い入れてやり込めヨ!」
題目はシンデレラ。
演劇は人気種目なのでもぎ取ってくるのは苦労したろうな、と紡木に優しい眼差しを送る。
そして私の横でぐっすり寝ている白逆くんにも眼差しを向ける。
…朝から寝っぱなしなんだが、きみは学校をなんだと思ってるんだ?
「王子様役は白逆くんがいい人ー!」
ほらほら、きみの知らないところで、紡木の陰謀が進行しているぞ。
とはいえ、王子様役にぴったりなビジュアルをもつ白逆くん。
寝こけている彼を尻目に、多数決でさくさくと役が決められていく。
主演のシンデレラはクラスで一番可愛い愛希さんに決まった。
愛希さんは校内でも有名な美少女。いわゆるマドンナだ。
街を歩けば十分ごとにスカウトマンから声をかけられたという伝説の保持者。
「あたしとの相手役にふさわしいわ、宜しくね白逆くん」
ようやく起きた白逆くんは眠い目を擦りながら、現状把握をはじめる。
大道具の打ち合せをしながら、横目で二人の様子を盗み見る。
美男美女、いや白逆くんが異様に綺麗すぎるので不思議なかんじ。
「俺の相手役……なんで勝手に決まってんの?」
「多数決よ。なによ、あたしじゃ不満なわけ?」
こくり、と頷く彼。
できたばかりの寝癖がゆれている。
ぼうっとしたままの顔が私を探して、その指を向けてきた。
「俺、委員長が相手ならやる」
驚愕・歓喜・やじうまの声。
明らかに失礼な態度だ。
…そして私、委員長じゃないんだってば。
「なんでくきらがいいのよ!
あたしのほうが断然ビジュアル的に勝ってるわ!」
愛希さんもばっちり失礼だが、正論なので頷くしかない。
紡木がにやにやしながら、事の収集を謀る。
「役の取り合いはよくないヨ。
どちらがシンデレラ役にぴったりか互いに競い合って、役の質が高かったほうに任せることにしようじゃないネ。
劇の高精度が上がり、こちらとしても喜ばしいヨ」
悪魔がウインクしている。
私にはそう見えた。
「いいわ…戦うまでもないでしょうけど」
腕を組みながら私に背を向けて、席に戻っていく。
「紡木…いえ策士と呼んだほうがいいかしら。
望みはなに?」
じと目を向けても、紡木はにやにや笑いをやめない。
…また面白がってるな?
「委員長」
呼んできたのは、まだ眠そうな白逆くん。
「委員長じゃなくて、くきらよ。
あれは白逆くんが寝てる間に多数決で決まったんだよ。
それを」
「よく知らない女とベタつくのなんてヤダ。
だから俺は委員長じゃなきゃヤダ」
知らない人みたいな位置付けだけど、愛希さんはクラスメイトです。
叱られた子供みたいにしゅんとなっている。
濡れた子犬みたいな瞳とはこのことか。
くそう、綺麗なだけに強く叱れない。
「私は姫ってポジションじゃないよ」
正直、自信ない…。
私の様子をめずらしく察知したらしく、白逆くんは頬杖を付いたまま、微笑んだ。
「頑張ってよ」
「………」
初めてかもしれない、白逆くんの笑顔。
こりゃ国も傾くだろう。
「じゃくきら、劇の質向上化のために切磋琢磨しましょうネ!」
策士の紡木は悪魔のように笑う。
劇のためか面白いからという個人的な楽しみ故か…たぶん、両方だろうけど。
「わーかったわよ。やるからには完璧にやるわ」
眼鏡を直し、気を引き締める。やるからには手を抜かないのが私の信条。
というわけで頑張ります。




