雪輔との帰り道
…寄り道するのは、やめとこう。
なんだか今日は雪輔と帰りたい気分だし。
並んで歩く帰り道なんて、あと一年で終わっちゃうかも…。
ちらり、と雪輔の顔をのぞき見る。
何か考え込んでいるのか、少し真剣な表情。
疲れてるのかもしれない、部活と文化祭両立してたしな。
と、腕に抱えたドレスが風にはためく。
「んー邪魔…。
思い出になるかと思ったけど、使わないから誰かにあげればよかったかな」
「悔しいけど結構高そうだよな。
とっとけよ、珍しく…可愛く見えたし」
珍しくは余計だ。
憎まれ口を叩きながらも、雪輔はそのドレスを持ってくれた。
「まぁ…雪輔が言うならとっとこうかな。
なかなかこんなの着ないもん」
「そんなことないだろ。
ほら…ウェディングドレス、とかさ」
急に変なことを言いだす雪輔。
なんでもない顔をしてるけど、目線が泳いでる。
なんだよ、変なの。
「まぁ、でもそんなのまだ先だし…考えてもないって。
いつかの話だよ」
とりとめのない冗談に聞こえた。
他愛無いいつもの会話だと。
でも、雪輔は違った。
「嫁に行く気がなくても、俺はもらいに行くよ。
いつか――お前が真剣に考えてくれるときがきたら」
「え…」
空耳にしては近すぎる距離。
彼も真剣な目をしている。
「…本気だよ。いつか言おうと思ってた。
自分の気持ち、はっきりさせてなかったけど…最近いろいろ、考えててな」
大人みたいな、横顔だった。
私を置いて幼なじみの雪輔はすっかり大人みたいに決断していた。
恥ずかしい、私はまだ…子供だ。
「お前とこれからも一緒にいたい。
お前が横にいないとつまらない。
まぁ…俺ばっかだからな、くきらも自分の気持ちをちゃんと決めてくれ」
じゃな、とドレスを手渡す雪輔。
気が付くと家の前。
…もう着いてたんだ。
手を振って背を向く雪輔。
出会ったときより、大きくなった背中。
当たり前だけど、これからは当たり前じゃない…かもしれない。
雪輔がいなくなるかもしれない。
いなくなるのは―――
「私、」
大きくなった足が止まった。
私は息を吸って、気持ちを吐き出す。
「雪輔の隣に、ずっといたい。
誰かのものに、ならないでほしい…」
考えると胸が締め付けられたように痛くなった。
考えたくなかったから、目をそらしてた。
それは、怖い『いつか』だった。
「くきら…」
歩み寄ってくる雪輔の顔は優しい。
いつもみたいに。
「…寄り道、するか。なんか、甘いの食いたいな」
「うん、そうだね…」
雪輔の手は暖かい。
二人並んで、手をつなぐ。
いつもの道。
今日は
いつもと違う、特別な君との帰り道。




