七次郎くんのいる屋上へ
階段は、静かだった。
みんな打ち上げで、体育館にいるからだろう。
うちの学校は代々打ち上げは体育館にて行われる。
掃除とか、楽だからかな。
だから校内は今、誰もいない。
とても静かだ。
最後の一段を上ると、寂れたドアがある。
その向こうには屋上。実は一度も行ったことがない。
でも今日は、行かなくちゃ。
がたん。
「七次郎くん…」
屋上は広くて、周りを柵で囲ってあった。
その柵に寄りかかるようにして、空を見上げている後姿があった。
体つきは華奢だけれど、ちゃんと男の子。
夕日が髪の毛を照らして、赤茶色に見える。
名前を呼んでも、こちらを向いてくれない。
なんだか私も近寄れなくて、彼の数歩後ろで足をとめた。
「呼び出してごめん、急に」
後ろを向いたまま、七次郎くんは話す。
その声は、いつもの調子じゃなくて―
――男の人みたいな、声。
それだけで、どきりと胸が高鳴る。
「今日の劇、くきら、すっごく綺麗だった」
「七次郎くんも、かっこよかったよ…」
本当に、かっこよかった。
役どころは主人公を守る青年侍。
脚本は八千代先輩。
流石によく出来ていて、見せ所泣かせ所満載。
高校生の作品にしては出来過ぎていた。
だからか分からないけど、いつもの七次郎くんに見えなかった。
「王子様の白逆先輩、かっこよかった?」
不安げな声で冗談ぽく言う。
私は何も言えなかった。
なんて言っても、彼を傷つけるような言葉になってしまう。
「僕はくきらのために、どんどんかっこよくなる」
柵に手をかけ、うつむく。
「背も伸びるし、強くもなる」
陽を背にしてるので、表情が見えない。
「でも、同い年になることはできない。
ずっと僕は年下で…同じクラスには絶対、なれない」
やっと振り向いてくれた七次郎くんは、悲しそうだった。
「だから…情けないけど、嫉妬しちゃうんだよ。
それにたまに悲しくなる…自分で選んだ道なのに、情けない」
自虐的に笑う顔は、どこか悔しそう。
見たことない、顔だった。
私は彼に一歩近づく。
「情けないついでに教えてあげる。
くきらと出会ったのは…ここ、屋上なんだよ」
覚えてない。
けれど、七次郎くんは優しく笑いながら続けた。
「この屋上に忍び込んで、日向ぼっこしてたんだ。
学校見学を抜け出して…そしたら、くきらに見つかったんだ。
くきらは頼んでもいないのに、学校を案内してくれたんだ。…僕ひとりのために、一人きりで」
確かにおぼろげに記憶にある。
見たことのない私服の男の子が寝そべっていたから、校内で迷ったのかなと話しかけた気がする。
…でもそんな些細なことで?
「僕にとっては嬉しかったんだよ。
なんの見返りもなく優しくしてもらったのは、初めてだったから」
急に真剣な表情になる七次郎くん。
「優しくて、僕の手を引いて歩いてくれた。
ちょっと恥ずかしかったけど、そんな必死な姿がなんだか眩しかったんだ。
…たまたま兄の学校を覗きにいっただけなのに、思いがけなかったよ。
…だから、くきらに会いたくて、たまらなくなったんだ」
その笑顔に実感する。
いつも、本気だったんだ。
一言一言の気持ちが本気で、全力で。
「――くきらが、好きだ。
いつか僕に夢中にさせてやるよ」
七次郎くんの真剣な表情に胸が熱くなる。
私にどうしてこんなに真剣なんだろう。
私はたいしたことなんて、してないのに。
「馬鹿…」
馬鹿正直で、真剣。
彼の真っすぐな気持ちに、私は嬉しくて泣きそうになった。
七次郎くんは私を優しく抱き締めた。
「めろめろに、してよ?」
「了解」




