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十一口目

「あなたを、ずっと探していました」


会場からため息が漏れる。主に女子。

聞けば隣の高校にも彼の噂は届いているらしく、女子はもちろん何故か男子も来ているらしい。

関係ないけど…萩都くんも来てるのかな。

下に降りてないから分からないけど。

来てるなら声くらいかけたい。


白逆くんは異様に王子が似合っていた。

しかも演技も上手いし。

演技はぎりぎり普通になったばかりの私は対処に困る。


「もう…離さない」


きゃー!

黄色い声がMAXに。一番の盛り上がりどころ。

白逆くんの切なげな声と一緒に力強く抱き締められる私。

…紡木が思い付き、白逆くんが本当にやってしまったので採用されたのだ。

すっごく照れ臭いんだけど。


そして拍手の後、幕は閉じられる。

これで三回目。

毎年反響がよく、演劇舞台は一年から三年生部門まで含めて、四回公演するのが通例。

文化祭の雛形といってもいい。

次の三年舞台はベルバラのアレンジ。

舞台のセットのために大道具部隊がわらわらと壇上に集まる。


「もう眠いんじゃない、白逆くん。疲れたでしょ」


正直私がくたくたなんだが。

体育館のテラスへ上がる階段が簡易控え室。

ドレスを着たまま、座り込んだ。

白逆くんはずっと王子のかっこのままで休憩。

疲れた様子…というかだいたい眠そうだから分からん。


「疲れてはいるけど。

……くきらと一緒だから、ヤじゃない」


ペットボトルを開けつつ、ぼそりとつぶやく。

よく聞こえなかったけど、また赤くなってる。

茶色の前髪で隠しても分かるぞ。


「白逆くんて…」


「くきら、八千代先輩が呼んでる」


またかーい!タイミングが良いのか悪いのか、雪輔に遮られた。

仕方ない、また後でと階段を下りていく。


「くきら、」


呼び止める白逆くん。


「今日の帰り、伝えたいことがあるから…

聞いてくれるなら、校門で待ってる」


「うん…分かった」



階段を下りると、黒い騎士の服に身を包んだ八千代先輩がいた。

…サディスティックなアンドレ役。

似合いすぎだよ、あんた…。


「やはり真近でみると美しさも二倍だ。

もしかして今でも似合わないとお角違いなことを考えてるのかな?

お笑いだねぇ。

立派にお姫さまだよ、もうどこぞの殿方にでも愛を申し込まれてるんじゃないかな?」


ちっともおもしろくなさそうな目元なので、どこか表情がアンバランス。

そしてまた話が長く回りくどい。


「そんなにうんざりした表情をしないでほしいかな。

僕も出番が近いから、珍しく手短に伝えさせてもらうよ。

本来であれば僕の愛して止まない弟の代わりとして、しっかり君と向き合いたいのだけれど仕方のないことなのかな。

ま、それは置いといて本題に入ろうかな」


まだ入ってないのかよとうんざりするが、仕方のない話。


「話は僕と僕が愛して止まない弟からなんだけど、」


「な、七次郎くんの?」


冗舌な八千代先輩も口を閉じる。

それほど、大きな声だった。

だって…気にかけてたことで、文化祭の舞台で顔を見ることはできても順番的に会うことができない。

だから、話したくて。


「なぜそんなに必至なのかな?」


薄ら笑いを浮かべつつも、少し哀しげな表情。

色々な感情でコロコロ表情が変わる。

それが本心なのか見せ掛けなのかも読めない…八千代先輩の心を読むことは難しい。

哀しげな表情は消え、挑むような強い眼差しに変わる。


「あまりにも可愛らしいので意地悪をしようかな。

僕の話からにしよう。

…今夜、僕の屋敷にきてほしい。

文化祭の打ち上げをささやかながら、二人でやりたいのだよ。もちろん来てくれるならいつでも構わないが、準備があるので月が上がってからにしようかな。


…で、僕が愛して止まない弟の話なのだけれど…

あの子は僕に言付けを頼んだんだよ。

まるで伝書鳩みたいな役割で嫌だったが…

あの子は僕なら必ず伝えられると、言ったからね。

兄として伝えよう」


黒い騎士の服を着て、まるで女王にかしづくように、頭を垂れた。


「『今日、文化祭が終わって…もし僕のことを信じてくれるなら、

屋上で待っててほしい』

…だ、そうだよ」


八千代先輩にスタンバイのお呼びがかかる。

その声に右手を軽く挙げて応えた。


「さて…どうされるおつもりかな、姫君?」


にやり、と笑ったまま、舞台袖に消えていった。私は階段で座り込む。


どうしよう、かな。



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