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 登山道の、小さな崖になっている所には鎖が設置してあった。そこは一人ずつ下りていくという決まりがあるらしく、彼女たちが着いたときには数人が順番待ちをしていた。

 天水は先に進む人を見て、どこに足をおき、どのように下りていくかを考えていたので、待っていることは苦にならなかった。鷹見が先に鎖場を下りて、天水が下りるときには下から話しかけてくれた。

 鎖場を過ぎると間もなくロープウェー山頂駅の近くの道に出た。その舗装された道に足を踏み入れたとき、天水は右足に電流がはしったかのような衝撃を感じた。ふくらはぎをつってしまった。

「うう、うおおお」

 うめき声をあげるが、座り込まずに体を折り曲げて自分のふくらはぎをさすった。

「とりあえず座って、足伸ばして」

 鷹見に言われたとおりに道の端に腰を下ろした。天水は足をなげ出して、鷹見が天水の足首を曲げてふくらはぎの筋肉を伸ばした。

「うー、いたたたたた。のあー」

「なんか余裕ありそうだね」

「無いですよー」

 天水は涙目だ。

「こうなったら、痛みが治まるまで待つしかないから。耐えて」

 一分ほどその体勢でいた。

「あ、やっと治まってきました」

「いきなり動かない方がいいよ。立ち上がろうとしたときにまたつったりするから」

「経験則ですか?」

「うん。両足同時にやったことがある」

「うわあ」

 しばらく動かないでいようと決めた。

 間近に木があり、展望が良くないので、することのない天水は空を見上げた。そういえば、登りはじめてから空を見上げていなかった気がする。

 上空では飛行機雲ができている最中だった。

「こんなに登っても、飛行機はまだあんなに遠いんですね」

「ほんとだ。麓で見るのとあまり変わらないね」

 近くにあったベンチに移動して、しばらく休憩することになった。

「もうすぐ頂上だー、って安心した瞬間にきましたよ。あー、痛かった」

 天水は右足のふくらはぎをさすった。まだ少し余韻のようなものが残っている。

「天水、飲み物は何持ってきたの?」

「ミネラルウォーターです」

「じゃあ塩分不足が原因かもしれないね。とりあえず、これ飲んで」

 緑のメタリックカラーの水筒を受けとった。見た目の割に軽い。ペットボトルと大して変わらない重さだ。

「ありがとうございます」

 中身はスポーツドリンクだった。

「もっとこまめに休憩するべきだったね」

 鷹見が少し気落ちしたような調子で言った。

「いえ、私が調子に乗っていたせいですよ」

「いつものことじゃない?」

「ひでー」

「冗談だって」

 二人は山頂駅付近の舗装された道を行く人々を見ていた。

「でも、こんな場所でボーッとしてるのもいいもんですね」

「うん。それは同感」

 冬はスキー場になる芝生の急な斜面を登った。傾斜は今までの道よりもきつく、斜面の端にはリフトが通っている。この時期でも乗れるらしい。

 山頂付近は登山道を通ってきた人とロープウェーで来た人が合流するので、人の数が急に増えた。

「人多いですね」

 天水がそう感想をもらした。

「登山道が確か五つくらいあるからね。紅葉の季節だともっと混雑するらしいよ」

 山頂には一等三角点があり、大きな石版に標高と山の名前と共にそのことが刻まれていた。山頂の近くにはいくつかの広場があったので、空いていた歌碑のある所で昼食にした。

 鷹見がコッヘルという小さな鍋とバーナーをザックから出して、インスタントラーメンを作り始めた。用意のいいことに真空パックされた野菜も付いていた。

 二人分を同時に作れないので別々に食べはじめたが、山頂という開放感のせいか普段より美味しく感じた。

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