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 登りはじめは、土を削ってできたような細道だった。所々急な登りの場所があったので、岩や木に手を置きながら歩いた。天水は手袋を持ってきていなかったが、それを見越していた鷹見が貸してくれた。

 鷹見が前で天水はそれについていった。ペースはゆっくりで、時々鷹見が後ろを見て様子を確認している。

「もうちょっと歩幅を狭めたほうがいいよ。足にくるから」

 振り向いて、鷹見が言った。

「そうですか? 全然ヘーキですけど」

「まだ歩き始めて三十分も経ってないからね」

「わかりました」

 指摘されてから小股で歩くことを意識したが、しばらくすると元に戻り、また思い出して歩幅を小さくすることを繰り返した。

 登山口から四十分ほどで、岩が多く木の少ない展望のいい場所に出た。真上にロープウェーのロープが横切っていて、それを目で追うと岩肌が剥き出しになった山頂が見えた。

 座りやすい高さの岩があったので、そこに座って休憩をとることにした。

 天水は座ってから「ふいー」と息を吐いた。

「ずっと斜面だと思ってたよりしんどいですね」

「少しペースさげようか」

「いえ、やっと馴れてきたところなので」

「そう。時間には余裕があるから、無理しないように」

「はーい」

 上がってくるロープウェーの向こう側にぼんやりと街が見える。

「さっきまであそこにいたんですよね」

「そうだね。あまりよく見えないけど」

 景色を見ながら鷹見が用意したミックスナッツを食べたり、水を飲んだりした。ロープウェーに向かって手を振ったら返事をしてくれた。それを合図にしたように、

「じゃあ、行こうか」

 と鷹見が言った。

「はい」

 二人は再び歩き始めた。

 この登山道の途中にはいくつか名前の付いた岩がある。休憩した場所の近くには、巨大な紡錘形に近い形の二つの岩が寄りかかるように並んでいた。大きいので全部をカメラの画角におさめるのに手間取った。

 さらに数十分歩いたところにも独特な形の岩があった。角柱に近い形の二つの岩の隙間に、角の取れた立方体の岩の一辺がはまり込んでいる。一見、誰かが乗せたようだったが、近付いてみると角柱の岩は天水の背の二倍くらいあったので、重機でもなければ乗せられそうにない。

「これ、ガイドブックにあったやつですよね」

「うん。写真のイメージより大きいね」

「きっと少し離れて撮ったんですよ。あっちの方じゃないですかね」

 天水はそこから少し登ったところを指さしながら言った。

「そうかもね。しかし、いい眺めだ」

 天水の指さした所から見たら、ガイドブックの写真と同じような景色だった。写真を撮ってから休憩した。

 残りの道のりが三分の一ほどになったあたりから、天水は疲れを見せはじめた。それまでと比べて明らかに口数が減った。ペースを上げたわけではないので、写真を撮るために歩き回ったのが原因だろう。

「休憩するよ」

「いや、まだ、いけます」

「息切らしながら言うことかなあ」

 鷹見は意地悪な笑みを浮かべた。

「休みます」

「よろしい」

 急いでしまうのはなぜだろう、と一口飲んだ後のペットボトルを見つめながら天水は考えた。ゆっくりしていたり、こうして立ち止まったりすると何となく落ち着かない。はやく目的地に行かないと何かを逃してしまうような、そんな気がする。

「あくまで山頂が目的地だからね。急ぎたいのはわからなくもない」

 隣に座った鷹見が天水を見ながら言った。

「だけどね、ほら」

 と、顔をあげて正面を見た。天水もつられて顔をあげる。

「途中からの景色もなかなかいいものだよ」

 登ってきたことで遮るものがさらに少なくなり、先ほどよりも遠くまで見渡せた。

 木々をわずかにそよがせる風が心地いい。

「いい眺めですね」

 と天水がつぶやき、上着を脱いで、両手を挙げて体を伸ばし、

「よしっ、行きましょう」

 と言って立ち上がった。

「ダメ。まだ五分も休憩してない」

 鷹見に再び座らされた。勢いをくじかれたが、疲れていたのでおとなしく従った。

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