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02 自己紹介が最初なんて誰が決めた?

 芳崎理都よしざきりつというのが親から与えられたわたしの名前である。出席番号2331、窓際の最前列がわたしの席だ。

 隣の席が、超絶クールな毒舌系俺様男子の三浦夕みうらゆう、うららんという全く可愛らしいニックネームをつけてあげた。

 後ろの席に座るのが吉住史哉よしずみふみや、通称史ちゃんと呼ばれてれいる女のわたしより可愛らしい女装男子である。

 そしてわたしの右斜め後ろの席に位置するのが、八洲脩次やしましゅうじという天然のいじられっ子だ。始終いじられているが決して虐めているわけではない、断じて違う。


 三浦とは中学校からの付き合いだが、2年生に上がってこの席になって4人でつるむようになった。なんとまあわたし以外の3人は個性が強くて仕方がない。しかしそれを当人たちに言うとだいぶバッシングを食らうので、心の中だけに留めている。

 特に三浦は、「お前とつるめるやつはそうそういない」だなんて失礼なことを言ってきた。


「全くさあ、三浦ってば失礼極まりないよねえ」

「あ?」

「えーだって失礼の塊でしょ、うららんって」

「俺のどこが失礼極まりないんだよ。っつーかお前がもう少し真面目にしっかりしてたら俺だって対応変えてるっつの」


 最近はうららんと呼ばれることに耐性がついてしまったらしい。初めの頃は面白い顔をして真っ向から全否定してきたのに。唯一わたしがこの男に勝てていた手段だったのに。

 なんて心の中で舌打ちしていると、三浦は眉を思い切り顰めた。イケメンではないものある程度整っている顔つきの三浦がその動作をすると凄味が増すから止めて頂きたい。


「ていうか、何で俺がお前の補習のプリント、付き合わされなきゃいけねえんだよ。まただぞ、ま た!今回で何回目だと思ってんだよ!」

「えー」

「てめえが嫌そうな顔してんじゃねえよ」


 …とか何とか言いながらちゃんと手伝ってくれるあたり、三浦は面倒見がいい。5人兄弟の長男だからだろうか。

 やってくれることは全力でやってもらうのがわたしのモットーである。机の上には沢山のプリントが散乱しているが、ほとんど三浦の方を向いている。つまり、わたしは何もせずに三浦がこなしてくれるプリント達を眺めているだけ。

 それでも文句を垂らしながらやってくれる三浦って…ツンデレ、いや、従順……?その結論に至った瞬間、ガツンと脳が揺れた。もう慣れつつある鈍痛だ。しかしここで言っておきたいのは、わたしはマゾではない。


「痛い」

「ああ、よかったな。あまりに動かねえから死んだのかと思った」

「酷い三浦。今わたしの脳細胞が死滅したよ」

「あっても使えない脳細胞なら死滅した方がましだ。他の脳細胞の養分になって脳細胞が活性化するといいんだけどな」

「ふっ…甘いよ三浦、そんなんで活性化してたら、毎日何十回と三浦に頭を叩かれてるわたしの脳味噌は今頃天才偉人レベルだよ?」

「そんな自分を誇りに思っているお前をある意味で尊敬するよ」

「いやん照れちゃう」

「気色悪い吐き気がするやめろ」


 三浦は常に始終こんな感じだ。今は相手がわたしだけだからどんどん突き刺してくるが、史ちゃんや八洲がいるときは収拾がつかなくなることを見越してほぼ諦めている。八洲も八洲でいじられることが多いが、なんだかんだでいじられてるのは三浦の方が多いかもしれない。

 というか、何故ここに八洲と史ちゃんはいないのだろうか。わたしの補習のプリント、二人とも手伝ってくれる約束だった…はずなのだけれども。

 軽く小首を傾げると、三浦がわたしの考えを見透かしたのか、ああ、と小さく声を発した。


「八洲と史なら逃げたぞ」

「え、」

「逃げた」

「いや2回も言わなくたって、ちゃんと聞こえてるよ」


 酷い。八洲も史ちゃんも友達だと思ってたのに、それなのにわたしとわたしの補習のプリントから逃げ出すなんて、なんて薄情なんだろうか。

 今日の昼休みにプリンを2個ずつ奢ってあげたのに。八洲の金で。


「村じいに脅されたんだよ。いっつもお前自分で補習のプリントやらねえから、手伝ったらその倍のプリントやらせるってな」


 村じいとはわたし達のクラスの担任である。年老いている訳ではないが(むしろ若い)、村地郁人むらじいくとという名前なのでわたし達が勝手に村じいという、さもお爺ちゃんのようなあだ名をつけてあげたのだ。進級してから早3か月、もう既に村じいというあだ名は浸透している。

 村じいはわたしにだけやたらと厳しい。わたしのことが好きなのだろうかと考えたところでそれがいかに妄想であるか客観的に捉えて、わたしは目の前の消化されていくプリントに意識を戻した。


「……ん?」


 待てよ。村じいが八洲と史ちゃんに脅しをかけて、この三浦には何にも言わないというのはおかしな話だ。確かに三浦はドSの極みともいえるが先生ともあろう人間が生徒に屈服するわけがない。

 まあ人によるかもしれないが、村じいだって三浦と同じ類の人間なのだ。ありえない。


「ねえ三浦」

「あ?」


 相変わらず不機嫌な返事。

 わたしは小さく笑みをこぼしながら、全く手に取ろうとしていなかったシャーペンを持ち、まだ手の付けられていないプリントと向かい合う。さすが村じい、難問ばかりが寄せ集められたプリントだ。

 シャーペンを手に取った私を見て、三浦は「頭大丈夫か」と言わんばかりの、有り得ないと言いたげな瞳でわたしを見る。


「ありがとねー、三浦」

「……何が」

「うん、日頃の感謝だよ。まあ今日は特に?」


 村じいに脅されたのは八洲と史ちゃんだけでなく、きっと三浦だって言われたはずだ。それでもわたしに付き合ってくれる。三浦はそういう奴だ。だからどれだけ貶されても殴られても怒る気になれない。

 するとわたしの言葉に、三浦は複雑そうな表情になってふいとそっぽを向いた。

 その反応が面白くて吹き出すと、ますます三浦の表情が不機嫌というか複雑というか、とにかく面白くなった。





 

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