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01 いつもの日常



「この出題形式はこの公式な」

「へー…ふーん…」

「で、このχは」

「あー…うんうんなるほど」

「………」

「ほうほう」

「……」

「……」

「……」

「…へ?どうした、急に黙って」


 わたしは目の前の席に座る三浦に目を向けた。

 三浦は頭が良い。だから先生に特別視されているせいでわたしだけ与えられた課題をこうして手伝ってくれている訳なんだけれど、何故か、そう何故か突然黙ってしまったのだ。

 不思議そうにしているわたしを睨み付けて三浦は溜め息を洩らした。


「聞いてないだろ、お前」

「いやいや聞いてるよ?ちゃんと。だからほらこんなにスムーズに」

「頭に入ってるか?」

「えーと、うん、まあ、あれだよね。ああなるからそうなってこうなる的な」


 ぷつん、と三浦の脳味噌の血管が数本逝ってしまった音が聞こえた(気がする)。三浦が口を開くと同時に、教室の扉が盛大にガラガラと音を立てて開いた。


「あれっ?芳崎よしざきと三浦じゃん」

「あ、ほんとだー!りっつーとうららんがいるー」


 扉を開けたのは、同じクラスの八洲やしまだった。その後ろには史ちゃんがいる。二人を見た三浦は、わたしに向かんとしていた怒りの矛先を折って時計に目を向けた。


「うわ、もう6時になるじゃねえか」

「あーほんとだねえ」


 気の抜けた返事を返すと、三浦の眉がひくりと上下した。あ、怒られそうだ。

 しかしタイミングよく八洲と史ちゃんが声を掛けながら近寄ってきてくれた。


「りっつーとうららん、ずっと勉強してたの?」

「おい史、その妙な呼び方やめろ気持ち悪い」

「あははいいじゃん、うららん」

「殺されたいか八洲」


 矛先が二人に向けられたところで、わたしはそそくさと帰る準備を始める。しかしその素早い行動を三浦は見逃してくれなかった。


「何てめえは帰ろうとしてんだ」

「え?いや、もう6時だし」

「芳崎帰んの?じゃあ俺らと帰ろうぜ」

「うん」

「やったあ!りっつーと帰れるー」

「課 題 は ど う す ん だ」


 呑気に盛り上がるわたし達に、三浦が氷点下の笑みで地鳴りのような低い声を丁寧に区切りながら発した。怖いですよ三浦さん。


「いやあー、うん、」

「芳崎が課題をやろうとしたこと自体奇跡に近いし、もういいんじゃない?終わるまで付き合ってたら朝になるよ」

「そうやって甘やかしたらこいつは馬鹿のままだろ」

「あははっそうかもねえ」

「りっつー、今のは怒るところだよ」


 史ちゃんがよしよしとわたしの頭を撫でてくれた。可愛いなあ。男の子とは思えないよ。女装男子って侮れない。わたしよりも女子力高いんだもん。

 ぎゅっと史ちゃんを抱き締めると、史ちゃんはにっこり笑ってわたしを抱き締め返してくれた。


「はあ…まあどうせ怒られるのはこいつだしな。無駄な労力使って腹減った」

「マック行こうよマック」

「あ、いいねマック!八洲の奢りで」

「え?俺?」


 そんなことを喋りながらわたしは椅子から立ち上がり鞄を持った。三浦もかったるそうに立ち上がる。

 八洲はわたし達の言葉を本気にして財布の中身を確認し、唸り声を上げている。史ちゃんと手を繋ぎながらその光景に笑った。

 学校を出て4人で並んで歩きながらマックに行ったら何を注文するかの話で盛り上がる。


「そういえば携帯クーポンあるよ」


 とわたしが言うと、先ほどの八洲の奢り発言を本気にしている八洲が飛び付いてきた。本当に奢ってくれる気らしいから、半ば冗談だということはわたしも史ちゃんも三浦も口にしない。


「あー、シェイク飲みたい」

「じゃあ俺は炭酸頼もっとー」

「史ちゃんと一緒に八洲の炭酸振りまくっていい?」

「てめえは頭でも振って無い脳味噌活性化させろ」

「…ひどい三浦。史ちゃん慰めて」

「うららんひどーい」

「うららんさいてー」

「ぶっ殺すぞてめえら…特に八洲」

「え!?俺何も言ってなくねえ!?」

「言われた気がした」

「うっそ、聞こえた?三浦エスパー?」


 いつも通りの光景だ。三浦は毒舌だし、向井は天然だし、史ちゃんは可愛い。何だかんだでわたし達は罵ったりしながらこんな風につるんでいる。

 その後、マックに着いて八洲が財布の中身を見てひっそり泣いたのは言うまでもない。



 

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