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虚数のバベル  作者: 石田かのん
EPISODE2 「諸刃の唄」
9/25

プロローグ

私は、父を愛している。

だけど、今の父には届かない。




私は、父を愛している。

だから、笑顔で父を殺した。


とある娘


私は走る。

空気を切って走る。

この感覚を、人間は『清々しい』と言うらしい。

私にはその感覚が理解できないことが、少し寂しい。

しかし、ネガティブに思うことは無い。

走っているときの私は、いつだって自由だ。もちろん、完全な自由ではないが、メンテナンススペースに拘束される時間よりは断然いい。

だが、今回の自由時間はもうすぐ終わりだ。

一通りのテスト走行を終えた私は、工場に戻ろうと方向を変える。

工場に戻れば、また退屈な時間が待っている。

でも、悪い場所ではない。

だってそこには、私を待っていてくれる家族がいるのだから。

その家族から、着信が来た。

テスト走行の結果でも聞きたいのだろうか。

私は、速度を落とすことなく通信を繋ぐ。

[刹那、今どこにいる?]

父の声が聞こえる。

「今BM089地点。一通りの試験を終えたところだよ」

私は、電子音で返事をする。

[そうか……良かった。本当に良かった]

父は、ほっとしたように言う。

テスト走行が終わったことがそんなにうれしいのか。

「大げさだなあ。定期メンテだから、心配すること無いのに。これから帰るから、もう少し待っていてね」

私は言う。

[いや、刹那……ウチには戻るな]

……え?

今なんて?

「……どうしたの?」

私は、恐る恐る父に尋ねる。

[ASDが、ガサ入れに来てる]

最悪だ。

私は、走りながら絶望した。

「嘘でしょう……?」

[残念ながら本当だ。今帰って来ると奴らに回収される。だから刹那……お前だけでも逃げろ]

「父さんは……父さんはどうなるの?」

[俺は……もうすぐ逮捕される]

嘘だ。

「嫌……」

[残念だが、これまでだ。刹那、これからはお前一人で生きて行くんだ。そのために燃料を隠しておいた。隠し場所の座標はBN119の裏手地下……]

そこで、父との連絡は途絶えた。


こうして、私は父に捨てられた。

だが、それは父の本意ではない。

だからこそ、父を取り戻さねば。

父を取り戻す戦いが始まった。




とある刑事


イメージで言うとゴキブリ。

キッチンによく出るゴキブリ。

彼は『それ』をそう呼んでいた。


今日もまた酷い夢を見た。

俺は、いつも過去の姿の自分を夢に見る。

傷害や違法薬物売買等々、酷いときでは殺人まで。

いずれも、若いころの俺が行う非行を見る夢だ。

俺は今、ASDの刑事だ。要するに、夢に出てきたような非行を取り締まる職に付いている。

そんな人間が、犯行の光景に怖気付くとはとんだ笑い草だ。


俺は、出来るだけ昔のことは考えないようにしている。

そうしないと俺は壊れてしまうからだ。

しかし、俺が寝て気が緩んだときに「それ」は動き出す。そして、俺の中を動き回って俺を苦しめる。

まるでゴキブリだ。

普段は物陰に隠れてじっとしているが、気を抜いたころにカサコソと不快な音を立てて人間を苦しめる。

まったく、これから職場に行かなくてはいけないっていうのに嫌な気分だ。


後になって思うが、この日は俺の人生で最悪な日だったと思う。

だが起床したばかりの俺、束沢信樹にはそんなことは知る由も無かった。


まったく、嫌な気分だ。


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