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自転車旅行

作者: 堤 伸一

 真夏の日差しが肌を焦がす。だが自転車で旅行中の彼には何の障害にもならなかった。綿密に組み立てた旅行計画、自分の脚力と相談して決めたいろいろなチェックポイント。初日から計画に大きなずれもなく、繁華街に到着すると昼食をとる店を品定めする。

 

 うどんと書かれたのれんの色が気に入って自転車を駐めると鍵をかけ、貴重品を詰めたバッグを肩にかけて店に入った。

 水がうまい、うどんもうまい、値段も高くない。言うこと無し、腹八分目に押さえた食事を終え支払いを済ませる。次へのエネルギー補給もすんだ、足の調子も悪くない。駐めたときと同じ場所で自転車は待っていた。鍵を取り出しながら、自転車の元に向かう。


 ちょっとした油断から、鍵が手から滑る。鍵は側溝に落ちた。鉄製の丈夫なふたがボルトで留められていてかんたんに開きそうにない。彼は焦った。ふたと言っても縦横に鉄板が組み合わさったもので、指は入るが、とうてい鍵まで届かない。そこに見えているのに鉄線でもあれば即席のつり上げ棒が作れるだろうが、あいにくそんなものは持ち合わせていない。


 先のうどん屋に助けを求めるも、彼らにもどうしようもないらしい。さすがにうどんでつり上げるわけにもいかない。釣具店があればとも思ったが、あたりにはそんな店はない。せっかくの旅行がこんな事で頓挫するとは考えてもいなかった。パチンコ屋の漏れ聞こえる音楽が景気よく響き、かえって絶望を深くする。その刹那、ロジックはつながった。


 パチンコ屋に飛び込むと店員の一人に熱心に話しかける。懇願と言っても良い。やがて鍵は彼の手元に戻り、予定をわずかに超過したが旅行は続けられることとなった。

 パチンコ屋では床に落ちている玉を拾うために磁石の着いた棒を用意している。磁石がふたを通り抜ける大きさで良かった、彼は思った。一人旅は、多くの善意で支えられている。自分もいつの日かわからないけど、誰かの救いになろう、と

実話です。あのとき助けてくれた皆さん、今でも感謝しています。

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