俺の幼馴染が俺にベタ惚れだった件〜(スピンオフ作品)幼馴染のあの子が気になる〜
「付き合って2年ってすっごいねー!」
そう言って声を弾ませたのは、塙山かれん。俺の幼馴染だ。
まあ、幼馴染っていっても、小中高が同じだけの、ただの腐れ縁だけどな。
「ほんと、すごいよな、お前ら二人。カップルうらやましー」
俺、杉野圭太は、両手を頭の後ろで組んで、リラックスしてみせながらため息をついた。
そう、俺は一度も彼女ができたことがないのだ。
しかし、俺のダチである杉本真人は、かれんの親友である西園寺美香と付き合って、ちょうど今日で2年が経った。
高校最後の年。受験勉強の息抜きも兼ねて、今日は学校の帰り道にあるお馴染みのファストフード店に、いつもの4人で立ち寄っていた。
「いやー、もう俺も高3だし、高校生活最後に彼女つくりてーなー」
俺はポテトを口に放り込みながら、本気とも冗談ともつかないトーンでこぼす。
「うんうん、私も彼氏作って、美香と一緒にダブルデートしたい!」
少し明るい茶髪をふわりと揺らしながら、かれんが美香の腕に抱きつく。
美香は嬉しそうに微笑みながら、隣に座る真人のほうをちらりと見た。
黒髪を短くさっぱりと整えた真人は、落ち着いた様子で美香の手を握り返している。
2年経った今でも変わらずに穏やかで、特別な空気が二人の間には流れていた。
そんな二人を見ていると、俺の胸の奥が少しだけチクリと痛む。
いつも一緒にいて、お互いに文句を言い合いながらも、俺にとって誰よりも特別で、ずっと目で追ってしまう存在。
けれど、関係が近すぎるからこそ、一歩を踏み出してこの心地いい距離感が壊れてしまうのが、俺は怖かった。
「お前らも、幼馴染同士で付き合えばいいじゃん」
真人がコーラをすすりながら、真面目な顔で言った。
その瞬間、一瞬だけテーブルの空気が止まったような気がした。
俺は心臓が跳ね上がるのを必死に隠し、慌てて頭を掻いてみせる。
「いや、そんな冗談言うなよー、こいつとはただの幼馴染だし」
自分の声が少し上擦っていないか、不安になる。
「そうだよー、圭太なんかと付き合うわけないじゃん」
かれんもまた、いつもの軽い口調でそう返した。
けれど、俺は見逃さなかった。かれんがそう言った直後、手に持っていたスマホをぎゅっと握りしめ、液晶画面に目を落としたことを。
その横顔は、なんだか少し切なそうで、もどかしそうに見えた。
そんな他愛のない会話をしながら、私たちは放課後の心地よい時間を過ごした。
「じゃあまた明日、学校で!」「またな」
「おう」「うん、バイバイ!」
店の前で真人、美香と二手に分かれ、俺とかれんは隣り合う家へと続く、いつもの坂道を歩き始める。
オレンジ色に染まる夕暮れの光が、かれんの茶髪をきらきらと透かしていた。
「今日、うちの家で夕飯だって」
かれんが、前を歩きながらぽつりと言った。
「おっけ、さんきゅな」
俺とかれんの家は隣同士だから、俺の親が仕事で不在の時は、かれんの家でご飯を食べることになっている。最初は、高校生にもなって悪いなと遠慮していたんだが、かれんのお母さんが「みんなでご飯食べたほうが倍美味しくなるから!」と満面の笑みで言ってくれたので、お言葉に甘えることにした。
だから、たまに俺の家にもかれんがやってきて、一緒に夕飯をとったりもする。
歩きながら、かれんは何度もスマホを見ていた。普段なら歩きスマホなんてしない真面目な奴なのに、今の彼女は、何かを気にしているのが丸分かりだった。
「……なぁ、かれん」
「ん? なに?」
「いや、なんでもない」
俺は口を閉ざした。
きっと、今言っても、かれんは「ただの幼馴染だから」と言い張るに違いない。他愛のない関係。
そのレッテルを剥がす勇気が、今の俺にはまだなかった。
かれんの家に着くと、温かい出汁の香りが玄関まで漂っていた。
「お邪魔します」とリビングに入ると、かれんのお母さんが「いらっしゃい、圭太くん」と温かく迎えてくれた。
食卓に並んだのは、湯気が立つ大皿の肉じゃが。
一口食べると、じんわりと甘い味が口の中に広がった。
「やっぱり、おばさんの作る肉じゃがは美味いな.ちょっと甘めのやつ、俺大好きなんだよ」
俺がそう言うと、お母さんはクスリと笑った。
「ふふ、ありがとう。でもね、今日の肉じゃがの味付け、実はかれんがやったのよ」
「えっ、かれんが?」
「そうなの。『圭太が、お肉はもう少し甘めの方が好きって言ってたから、今度からこの味にする!』って、昨日からずっとスマホでレシピを調べて大騒ぎしてたのよねぇ」
「ちょっと、お母さん!! 余計なこと言わないでよ!」
かれんが顔を真っ赤にして叫び、お母さんの口を塞ごうとする。
お母さんは楽しそうに身をかわしながら、「あら、いいじゃない。圭太くんなら身内みたいなものなんだから」と笑っている。
俺は箸を持ったまま、固まってしまった。数日前、俺が何気なく言った好みの味を、かれんは覚えていてくれたのだ。わざわざお母さんにレシピを聞いてまで、俺のために作ってくれた。
胸の奥が、どくんと大きく波打つ。放課後、店で「ただの幼馴染」なんてはぐらかしていたけれど……もしかして、かれんも俺と同じ気持ちなのだろうか。
夕飯を終え、かれんの家を出て自分の家に戻った俺は、すぐに部屋のベッドにひっくり返り、スマホを取り出した。 頭の中で、かれんの真っ赤な顔が離れない。その時、スマホが短く震えた。ダチの真人からのLINEだった。
『なぁ圭太、寝てねえよな。今日かれんの家で夕飯だったんだろ?』
『起きてる。おう、食べたけど』
『昼間、かれんが「ダブルデートしたい」って言ってたやつだけどさ、あれ半分は本気だと思うぞ。美香からも聞いたけど、かれん、最近ずっとお前の話ばっかりしてるらしいからな』
メッセージを見て、俺の心臓はさらにスピードを上げた。
やっぱり、俺の勘違いじゃない。
真人は、俺たちの関係を分かっていて、昼間あんなアシストをしてくれたのだ。
続いて、真人から少し意味深なメッセージが届く。
『俺、かれんには絶対に頭が上がらないような、バカでかい恩があるからさ。あいつの恋くらい、全力で応援しねえと男が廃るんだよ』
その言葉の意味はよく分からなかったが、真人の真っ直ぐな言葉が、俺の胸を熱く突いた。
いつまでもヘタレて、幼馴染という安全地帯に隠れていた自分が、急に格好悪く思えてくる。
『いつまでも「ただの幼馴染」なんて便利な言葉に逃げてんなよ。男見せろ、親友』『……分かった。明日、放課後、あいつとちゃんと話す。真人、ありがとな』
画面を閉じ、俺は大きく深呼吸をした。
窓を開けると、夜風がカーテンを優しく揺らした。隣の家の、かれんの部屋の明かりがまだ点いている。
きっと今頃、彼女もスマホを見つめて、同じようにドキドキしているのだろうか。
明日は、絶対に言葉にしようと心に誓った。
◇
翌日の放課後。
俺はいつも通りファストフード店に行こうとするかれんを呼び止め、学校の裏庭へと連れ出した。
夕暮れの光が差し込む静かな場所で、俺たちは向かい合う。かれんは緊張した様子で、制服のスカートをぎゅっと握りしめていた。
「なぁ、かれん。昨日、肉じゃが、俺のために作ってくれたんだろ?」
俺が切り出すと、かれんは一瞬で耳の裏まで真っ赤に染まった。
昨日、お母さんの前であれだけ騒いだというのに、いざ俺から直球で確認されると、直視できないほど照れている。
「……っ、もう、昨日のことは忘れてよ。お母さんが大げさに言っただけだし……」
「大げさじゃないだろ。嬉しかったよ、めちゃくちゃ美味かった。……それと、もう一つ聞きたいんだけど。お前が言ってたダブルデートしたい相手って……」
俺は頭の後ろで手を組むいつもの癖を捨て、真人のように、真っ直ぐに彼女の目を見つめた。
「俺じゃ、ダメか?」
かれんは驚いたように目を見開いた。その瞳に、夕日の光が優しく反射する。
「……ばか。気づくの遅すぎ」
かれんはぽろりと涙をこぼし、すぐに満面の笑顔になって「……ずっと、圭太と行きたかったんだよ」と頷いた。
◇
数日後。いつもの帰り道、いつものファストフード店。
四人掛けの席に座る俺とかれんの雰囲気は、明らかに変わっていた。
テーブルの下で、俺たちはどちらからともなく、そっと手を重ねていた。
「……あのさ、真人、美香」
俺は少し照れくささを感じながらも、二人の顔を見た。
「俺たち、付き合うことになった。だから、その……」
俺がそこまで言うと、かれんが真っ赤な顔のまま、美香のほうをバッと向いて叫ぶように言った。
「美香! 約束通り、私と……ダブルデート、しよっ!」
その健気で必死な様子に、美香は思わず破顔し、「もちろん!」とかれんの手を握りしめた。真人も嬉しそうに目を細め、俺の肩を小突く。
「おめでとう、圭太、かれん。これでやっと『ただの幼馴染』卒業だな」
「うるせーよ。……ありがとな、真人」
俺が小さく感謝を伝えると、真人はすべてを察したように、悪戯っぽく笑った。
「気にすんなって。2年前、俺と美香をくっつけるために必死になってくれたキューピッドに、ようやく恩返しができただけだからさ」
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真人がいうかれんの恩は、こちらの作品から確認できます。ぜひ読んでみてください。
「俺の幼馴染が俺にベタ惚れだった件」
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