何色の春が来るだろうか
「面白い文章を書く子ですね」
三者面談で学級新聞をみんなでみていた。
担任が私の文章を推薦してくれて載っていた。
この空間でだれもこれに意味がないなんて思っていなかった。
12歳。
才能なんて言葉が似合いそうだった。
まだ幼い骨格に表情は、どんな些細な光でさえ大人には眩しく見えていた。
10年が経った。
その頃、日記を書いていたとしてもわたしはこのことを書いていなかったと思う。
あの日のわたしは驚くかもしれないが、今日あの三者面談を思い出したことを日記に書いた。
安心して欲しいのは、あの頃褒められたことが嬉しくなかったように、今も別に嬉しくはない。
「小学生の頃、自由研究も何度もやり直してやっていて理系も好きなのかなと」
その学級新聞は冷蔵庫に貼られていたせいで、もう母には読まれなかった。
文章を書くのも、実験するのも好きだった。
そんなことを小声でも自分にも話したことがなかった。
発したことのない言葉が閉まっていない扉のせいで、廊下にも響いていた。
わたしは、学級新聞の下に透けたテスト結果を眺めていた。
「戻れるならいつに戻りたい?」
あの頃見えなかった未来にいた。
そこには、夢を追いかけるように過去を追いかけている人がたくさんいた。
あの頃の周りにいた大人達は、泳げない私の悩みをどんな顔で聞いていたのかもう一度見てみたくなった。
だんだんと紐解けていく世界が鬱陶しかった。
生きていたら、あの頃一度も気持ちを
考えたこともない人の気持ちを知っていた。
それが何に使えるのかわからなかった。
「本日は、ありがとうございました。」
校舎の中はいつもより綺麗だった。
傘立てはもうガラガラで置いてけぼりにされてるみたいだった。
わたしだけ空を見上げて、そのあと傘をさした。
理科室の窓から遠くを見ている先生をみつけた。
午前授業のせいで会えなかったから嬉しかった。
丁寧に傘をさしながら、スニーカーでゆっくり歩いていた。
どうやって愛してると伝えたら、わたしは愛していたことになるだろうか。
そんなことを考えないで、手を振りあえるような関係でいたかった。
先生と目が合うことも、先生にわたしがここにいることを知ってもらうのも、全部が大切だった。
特別な人だった。
早歩きしながら生きてもよかったら、一緒に校舎を掃除したかった。
「好きなことをして生きてほしい。」
映画を見た。
主人公は彼女の過ごした世界を見ようした。
誰も知らない街にいた。
新しい仕事をしていた。
愛してるなんて叫ぶ以外の伝え方を初めて知った。
彼女が愛されていたと気づかなくても、世の中にその愛し方を広めた。
「失礼します」
職員室に訪ねてくる生徒の気持ちを知っていたはずなのに流れ作業みたいに対応していた。
廊下を走る子は減っていて、鐘が鳴っても笑い声が聞こえていた。
亡くなった彼女はあの頃のまま、彼と教室で話していた。
わたしは教室でまだ集まっていない生徒を想像しながら階段を上がっていた。
愛していた人は生きているのに、話したいことをまだ話せていなかった。
授業を受けていると先生は遠くに感じた。
教室にやってくる先生を楽しみに待っていた。
今日の日直は号令が苦手だろうから勝手にホームルームを始めた。
あの頃、廊下ですれ違うと話しかけてくれるのが嬉しかった。
「元気?」
19歳の時、先生の見てた景色が見たくて先生になった。
そんな愛し方を映画で学んだ。
3年後、先生を辞めたくて日記に思い出せることを羅列して書いていた。




