表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
箱庭と猫 第一部 ―救国の英魂編―  作者: 山本陽之介
第5章 黎明ヲ謳ウ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

62/75

第56話 破壊のリアクター

 リオンの警告が鼓膜を叩くより早く、ハンスは本能的な危機感に身体を強張らせた。だが、固有魔法オリジンを放った直後の硬直が、彼の足を石畳に縫い付けている。


 ハンスの視界の端を、茶髪の青年が疾風のごとく通り抜けた。


 リオンは、ハンスが切り裂いたシアの胸元へ肉薄する。


 シアの胸部装甲は、ハンスの斬撃によって深く切り裂かれ、内部機構の一部が露出していた。その奥から、周囲のマナを食らいながら連鎖的に崩壊しようとする、不快な高周波を伴う青白い光が漏れ出している。


 リオンは躊躇なく、捲れ上がった装甲板に指をかけ、強引に剥ぎ取った。


「これは――」


 装甲の下で露わになったのは、生物の臓器ではなく、暴走を始めた結晶体だった。


 ヒト属のソレを模した、人工的なマナ器官。複雑な構造ながらもシンプルにその魔導自動機械人形オートマタの回路を的確にとらえていることが、そこから見える。


 『マギリアクター』。


 それはかつて破壊を生み、古の災厄を呼び起こした〝マギデシメート〟の源。


「まずい」


 冷却機能を失った炉心が、臨界点を超えようとしている。リオンが即座に後退しようとした、その刹那。


 機能を停止していたはずのシアの右腕が、リオンの左腕を掴んだ。


 万力のような握力。シアの瞳に生気はない。だが、その口元は、道連れを確信したかのように三日月型に吊り上がっていた。


 リオンの判断に、コンマ一秒の迷いもなかった。彼は右手に持っていた剣を閃かせ、シアの肩口へ刃を走らせた。


 硬質な音もなく、シアの腕が根元から両断される。リオンの腕を掴んだままの右腕が、胴体から切り離され、重力に従って垂れ下がった。


 本体との連結を断ち切ったリオンは、間髪入れずに踏み込んだ。


 へその下、丹田にあるチャクラ器官から爆発的なエネルギーを練り上げ、右脚へと流し込む。マナとは異なる、純粋な身体エネルギーの奔流。


 リオンの蹴りが、シアの股間を捉えた。大気が破裂するような衝撃と共に、シアの身体が砲弾のように真上へと打ち上げられる。数十キロはあるはずの金属の塊が、遥か頭上、空中まで吹き飛んだ。


 リオンは、固有魔法の反動で硬直したままのハンスのもとへ瞬時に肉薄し、彼の腕を掴むと、強引にダミアンのいる石柱の陰へと突き飛ばす。


「ダミアン殿下!ハンス様を連れて逃げてください!早く!!」


 リオンの絶叫が、轟音と競うように響いた。


 その絶叫に「わ、わかった!」と頷くと、ダミアンはハンスを支えながら、半ば引きずるような形でその場を離れはじめる。


 リオンは空を見上げる。シアの胸部から放たれる青白い光は、もはや直視できないほどの輝きを放ち、周囲の空間を歪め始めていた。


 間に合わない。


 ここで爆発すれば、ハンスやダミアンはおろか、第一門付近の結界ごと、この場にいる全員が消滅する。


 リオンは覚悟を決め、左手を天空へとかざした。


 ショウの記憶が、最適な術式を瞬時に脳裏へ描き出す。詠唱など不要。今の彼にとって、魔法は呼吸と同じだ。


 リオンの掌から、虹色のマナが爆発的に放出された。


 ≪ヘキサガード≫。シアを中心とした空間に、六角形のハニカム構造を持つ光の壁が出現する。だが、それは通常の一枚壁ではない。


 本来、術者の前面や周囲を守るための第五位階時空属性防御魔法。それをリオンは、対象を完全に包み込む「球体」へと形状変化させ、幾重にも重ねて展開した。


 直後、シアの肉体が内側から弾け飛んだ。


 音はなかった。閃光だけが世界を白く塗りつぶし、球体結界の内側で、純粋な破壊のエネルギーが荒れ狂う。空間そのものを削り取るようなマナの奔流が、第一層の結界を紙のように食い破り、第二層、第三層へと牙を剥く。


 リオンは歯を食い縛り、さらにマナを注ぎ込んだ。


 時空属性の特性である「空間の歪曲」を利用し、内側からの圧力を別の座標へと受け流し、相殺し、封じ込める。

 球状の結界が、膨張と収縮を繰り返し、軋みを上げる。


 幾重にも重ねた球状の結界が10枚目を数えたとき、爆発のエネルギーが追いつく。最後の1枚が砕け、抑え込まれていた余波が爆風となって吹き荒れた。


 白濁した衝撃波が彼らを飲み込まんと迫る。


 先に衝撃波が到着したのは、リオンだ。その圧力に耐えきれず、彼が掛けていた【誤認の眼鏡】のレンズに亀裂が走り、粉々に砕け散った。


 リオンは咄嗟に自身の身体の周囲に時空属性防御魔法≪グラヴィス≫を展開した。

 凄まじい風圧と衝撃が、展開した膜ごしに彼を打ち据える。


 今やレオに戻った彼の身体は、木の葉のように後方へと吹き飛ばされ、地面を転がったが、とっさに展開した結界のおかげで致命傷は避けられた。


 一方、ある程度離れた位置まで駆けていたダミアンとハンスにも、暴風が牙を剥く。


 逃げる時間はない。


「ハンスだけはっ……!」


 ダミアンは、弟ハンスを背に庇うように、爆風の正面へと立ちはだかる。彼は両手を広げ、迫りくる破滅をその身で受け止める覚悟を決めた。


「兄上っ!」


 ハンスが必死に叫んだ。だが、ダミアンの身体が砕かれることはなかった。


 なぜならば、二人の前に、一陣の翠緑の風が舞い降りたからだ。


 風の大聖霊ウィンリーフの眷属、聖猫リゼが、エメラルドグリーンの髪をなびかせたヒトの姿――リエリーとなって顕現していた。


 彼女は優雅に、しかし迅速に両手を掲げる。


 ≪ホーリィレン≫。


 聖なる風のエネルギーで構築された球状の結界が、瞬時にダミアンとハンスを包み込む。爆風は第六位階の結界に激突し、その威力を削がれて左右へと霧散していった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ