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箱庭と猫 第一部 ―救国の英魂編―  作者: 山本陽之介
第5章 黎明ヲ謳ウ

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第50話 王都北区戦

 王都北区、ハンターズギルド北支所前。


 腹の底を振動させるような重低音の咆哮が、展開された結界内部の空気を震わせた。


 舞い上がる粉塵を突き破り、全身が岩盤のように硬化した巨大なサイ型の魔獣――「アテレス・ケラトス」が姿を現す。その巨体が繰り出す「ブラインド・チャージ」は、進路上にあるものすべてを瓦礫に変える質量兵器そのものだった。


 アスファルトが紙のように捲れ上がり、猛スピードで迫りくる。


 その圧倒的な突進の正面に、珍しく戦闘服に着替えた壮年の男――オスヴァルト・クロースが立ちはだかる。


 彼は無言で巨大な戦槌【魔導杭撃槌ナーゲル・シュラーク】を構え、深く重心を落とした。


「父さん! 正面からの物理攻撃だ! 角度30度、右寄り!」


 後方で魔導端末を操作しながら、息子のマルクスが鋭く指示を飛ばす。


「わかってるって! いちいち細かいんだよお前は!」

「細かい計算が大事なんだろ! それより父さん、腰やっても知らないからね!」

「バカ野郎! 俺の腰は金剛石製だ!」


 親子喧嘩のような怒鳴り合いを交わしながらも、二人の呼吸は恐ろしいほどに噛み合っていた。


 アテレス・ケラトスが鼻先の巨大な角を突き出し、オスヴァルトへ衝突する寸前。


「今だ! 展開!」


 マルクスが指を鳴らす。 事前に地面に散布されていた小型魔道具が一斉に励起光を放ち、局所的な重力場を発生させた。魔獣の前足が重みに耐えかねて沈み込み、突進の軌道が強制的に下方へと修正される。


「ナイスだ愚息ぅ!」

「愚息っていうな!」


 好機と見たオスヴァルトは、チャクラを最大まで練り上げる。奥歯が砕けよと言わんばかりに噛み締め、戦槌の噴射口から爆炎を噴き出させてヘッドを加速させた。


 金属と岩盤が激突する、耳をつんざくような破壊音が炸裂する。


 魔獣の硬質な角を、戦槌のヘッドが正確に下からカチ上げた。


 魔獣の喉から空気が漏れるような音が響く。数トンはある巨体が、まるで軽いボールのように空へと打ち上げられた。


 オスヴァルトは宙に浮いた魔獣の腹部を見上げ、顔をしかめる。


「チッ……硬ぇなこいつの皮は! さては安物の合金でも食って育ちやがったか?」 「文句言ってる暇があったら次! 滞空時間はあと2秒だよ!」

「だあーっ!指示厨やめろよ! わかってっから!」


 オスヴァルトが戦槌の柄にあるレバーを荒々しく引く。ガション、と重厚な機械音が鳴り、ヘッド部分が変形。打撃面から巨大な鋼鉄のパイルが露出した。


「ほらよマルクス、いつものやつだ!」

「はいはい、拘束!」


 マルクスが手元の端末を走らせると、空中に浮いた魔獣の周囲に幾重もの光の輪が出現し、その巨体を空中で縫い留める。


「動けねぇだろ? 最高の的だぜ!」

「父さん、その搭載されてる【魔導杭打ち機(マナ・パイルバンカー)】、試作段階だから反動すごいよ! ちゃんと踏ん張って!それと――」

「うるせぇ! 男は度胸と火力だ!」


 オスヴァルトは空中の魔獣の懐へ潜り込むと、杭の先端を魔獣の腹部に静かに、しかし確実な殺意を込めて押し当てた。


 貫通ペネトレイション


 オスヴァルトがトリガーを引いた次の 瞬間、周囲の空気が弾け飛ぶような炸裂音と共に、太い杭が射出された。


 純粋な物理破壊力。


 アテレス・ケラトスの強靭な皮膚も、筋肉も、内臓も、すべてを貫通し、衝撃波が背中側へと突き抜けた。


 魔獣は絶命の声を上げる間もなく、ドサリと地面に落下し、動かなくなる。土煙が舞う中、オスヴァルトは戦槌を肩に担ぎ直し、ハンカチで額の汗を拭った。


「……ふゥ。解体完了だ」

「お疲れ様。……父さん、排熱」


 マルクスが冷静に指差す先、戦槌の機関部が危険な赤色を発光させている。


「……あ」


 圧縮された蒸気が悲鳴のような音を立てて噴き出し、その直後、黒煙がオスヴァルトの顔を直撃した。


「……ッ、げほっ、ごほっ! お、お前なぁ! 先に言えよ!」

「言おうとしたら父さんが『男は度胸』とか、よくわかんないこと叫んで遮ったんだろ! まったく、整備の手間が増えるよ」


 淡々とぼやくマルクスと、ばつが悪そうに顔の煤を払うオスヴァルト。


 画面越しにその様子を見ていた民衆は、その圧倒的な強さと、あまりに緊張感のない親子のやり取りに、呆気にとられながらも爆笑し、そして割れんばかりの大歓声を上げた。


「さすがは匠聖オスヴァルト様だ!」

「息子さんもすげぇ! あの魔導制御、天才か!?」


 北区の脅威は、クロース親子の漫才のような連携によって、瞬く間に排除されたのだった。

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