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箱庭と猫 第一部 ―救国の英魂編―  作者: 山本陽之介
第4章 背景ヲ辿ル

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第43話 王族としての責務 後編

「私が調べた結果、マタド・ク・シアの真の狙いは、ハンス叔父上を貶めることでも、玉座を奪うことでもない」

「……ああ。先ほどレオから聞いた通りだな」

「ええ。闇の大聖霊オスクネス様です」


 ハンスは、改めて突きつけられた事実に、覚悟を決めたように強く頷いた。


 ハンスは、ふとある考えに行き着く。


「まさか、レガリアか?しかし、あれには堅固な錠が――」

「破られましたよ」

「な、んだ、と」

「それだけ、エヴィスの技術解析班…えーっと、〝声の裂け目(ヴォイス)〟でしたか、そいつらが優秀だ、ということです」

「ルーミー神教の実働部隊、『エヴィス』か……」


 その声に、僅かな動揺が滲んだ。


「とはいえ、実は叔父上。今回の立太子で用意された王の短剣は、宝物庫のレプリカではありません。陛下の協力を得て、本物のレガリアを授与に使用いたしました」

「なに?本物だと? なぜそのような危険な真似を……」

「さすがに、もう一つ精巧なレプリカを準備するには、あまりにも時間が足りませんでした。本物のレガリアが奪われると知っていて、指をくわえているわけにもいきませんでしたからね。だからあえて、本物とレプリカを入れ替える作戦に出たのです」

「では、今本物は……」

「いやあ、たまたまなんですけどね――」


 レオは、少しだけばつが悪そうに視線を逸らした。


「今回の国王殺害の凶器として敵が選んだ短剣。それが、たまたま〝レガリア〟だったんです」

「は?」

「おかげで、ロジェさんは誰にも怪しまれることなく、検死の名目で、堂々と『凶器』として回収できました。現在は、この箱庭で安全に管理しています」

「なんと……。偶然が味方したというのか」

「ええ、まったくの偶然です。本当は別の方法で取り戻す予定でしたが、そちらの方法は多少危険が伴いましたからね」

「危険?」

「そりゃ、もう。なにせ、相手さんの陣地に潜り込むわけですからね。とはいえ、ノワルなら楽勝だったと思いますが」

「なるほど、ノワル殿か」

「ええ」

「ま、まあ、偶然とはいえ本物のレガリアは返ってきたのだ」

「そうですね。しかも、敵はそれに気づいていない。とどめに彼らは、自分たちが奪ったものが本物だと信じ込んでいます。そして、その偽物の鍵を使い、聖域の扉を開けようとしている」

「しかし、奴らとて無能ではない。偽物だと気づくのではないか?」


 ハンスの懸念に、レオは皮肉っぽく笑って首を振った。


「いやあ、驚きましたよ。本当にマナ反応も何もかもそっくり。陛下に頼んで王族紋ロイヤルクレストを使用してもらいましたが、まさか、反応するとは」

「ああ、なるほど。私は次期王の聖霊命セイントコールを受けていたから、知っている。父上に伺った話ではあるが、それは戴冠式でのデモンストレーションのための仕掛けだね。レオのご先祖。クロース家の初代、ノーマン様が作ったとされているよ」

「初代様……ですか」

「ああ。父上や祖父の戴冠式を知っている者からすれば、何かしらの魔道具、ぐらいにしか思っていないだろうけどね」

「なるほど」

「とはいえ、とりあえず一安心ということでいいのかな?」

「ええ。約1000年前の偉人の手仕事に助けられましたね。あれなら気づかないでしょう。おかげで奴らは疑うことすらなく、偽物を本物と信じ込んで突き進んでいますから」


 レオは、そこで一旦言葉を区切り、表情を引き締めた。


「ただ、一つ懸念事項があります。王宮内に潜ませていたキュートの眷属と、外で監視していたリゼ……別の聖猫から、ダミアン叔父上の動向について報告が入りました」

「ダミアン兄上の?」

「ええ。報告によると、今朝早く、変装したダミアン叔父上が、ある人物に従って王宮を抜け出し、マナトレインに乗り込んだとのことです」


 レオはハンスを直視し、報告された事実を淡々と告げる。


「その人物の姿は、ハンス叔父上。あなたでした」

「私……だと?」

「はい。そしてその周囲を、例の実行部隊『鏡面ミラー』が、付かず離れずの距離でサポートしていたそうです」


 ハンスの顔色が蒼白に変わる。


「心当たりがあるでしょう? ハンス叔父上に扮し、立太子の式典に出席し王太子の儀を受け、その日の深夜に陛下……まあ、これは人形ですが、それを殺害した者」

「ああ。それはもう。さきほどレオに訊かせてもらった、メヒスメノスでのエヴィスの密談にも出ていたね」

「そうですね。十中八九〝シア〟という人物です」


 レオは静かに、しかし確信を持って告げた。


「そのシアが、ダミアン叔父上を言葉巧みに誘導したのでしょう。そして、ダミアン叔父上もまた、あえて……といったところでしょうか」

「ん?あえて、だと?」

「ええ。元来慎重であるダミアン叔父上です。おそらく、違和感を覚えつつも、あえてその懐に入り込んだのでしょう。自らを『最後の砦』として、刺し違えてでも止める覚悟で」


 レオは静かに、しかし確信を持って告げた。


「相手は『物理的な鍵』……まあ、レプリカですが。それと、王族の血脈を持つダミアン叔父上という『生体認証の鍵』、その両方を手に入れたと確信している。彼らはドンクルハイツへ向かい、聖域への門、『五重輪オクト・クインタ』の前まで行くはずです」

「なるほど、だから私をここに連れてきたというわけだな。これからそこで、待ち構えるというわけか」

「はい。偽物だと気づき、立ち往生しているところを叩く。騙されたダミアン叔父上の救出も兼ねて、ハンス叔父上にお願いしたい」


 ハンスの顔に、王族としての厳しい覚悟が宿る。


「承知した。兄上を救い、聖域を護る。それが私の初陣ということだな」

「ただし、シアが虚飾のマオン、マタド・ク・シア本体である可能性もあり得ます」


 レオの警告に、ハンスの表情がさらに険しくなる。


「本体……か」

「ええ。決して油断しないでください」


 そう言ってレオは、クロノボックスからテーブルと椅子、それから軽食とマナケトルを取り出した。厳かな聖域に突如現れたそれらは、どこか場違いな雰囲気を醸し出している。


 その光景にハンスは目を見開くのだが、レオは気にする素振りも見せず話を続ける。


「まあ、時間はあまりないかもしれませんが、これでリラックスでもしてください、叔父上」

「そんな、こんな時に悠長な」

「こんな時だからこそですよ、叔父上。大丈夫です。カドリーもいますから。では、私はまだ、やることがあるので、後ほど戻ってきますね」

「なに?どこへ、行くのだ?」

「王都へ」


 レオは僅かに口角を上げつつ、そう言い残し、クロノボックスからベルコネクトを取り出した。





 第4章 背景ヲ辿ル ―完―

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