表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
箱庭と猫 第一部 ―救国の英魂編―  作者: 山本陽之介
第4章 背景ヲ辿ル

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

45/75

第40話 ハンターですけど、なにか?

 ベル歴995年、水の月17日。深夜3時頃。


 王都エルンツ中央区の裏通りにある大衆食堂。レオと聖女シルビアの二名は、窓際のテーブル席に静かに座していた。


 レオは、追加注文した飲み物を飲み干し、書き終えたノートを鞄に収め、シルビアと顔を見合わせた。彼女が小さな声で呟く。


「なにかあると思っていたけど、より複雑でしたね」

「ええ。ですが、計画の全貌は、これでほぼ明らかになりました」

「彼らがエヴィス?ですかね」

「ええ、たぶん。話の内容から察するに、おそらく〝鏡面ミラー〟って部隊のメンバーでしょうね」

「そうですね」

「とりあえず、今日はもう遅いですから、箱庭に持ち帰って明日にでも改めて話し合いましょうか」


 レオは伝票を手に取って、席から立ち上がる。追うようにシルビアも立ち上がった。レオがレジで会計を済ませ、二人は店を出る。


 表通りをしばらく歩き、箱庭へ戻るための路地の角を曲がった。


 レオとシルビアは気配を感じ、同時に立ち止まった。


〘ご主人様っ〙


 離れた場所で監視していたリゼから、レオに念話が届いた。


〘わかってるよ、リゼ〙

「シルビアさん」

「はい」


 後方を振り返ると、レオの目前にロングソードが迫る。レオは、奇襲を仕掛けられたことに驚きを見せず、即座に反応した。


 右手で次元収納のベルトポーチから、剣を一瞬で引き抜くと、ロングソードの軌道を受け止めた。


 キンッ、と硬質な金属音が、閑散とした通りに響く。


 レオが剣を受けたとほぼ同時。イゼラが手に持った杖の先端を、無言でシルビアの顔めがけて突き出していた。


 シルビアは、間一髪で頭を傾けることで避ける。杖は、彼女のプラチナブロンドの髪を僅かに掠めた。


 シルビアは態勢を整えると、イゼラに向け、体術の構えをとる。


「あ?何者なにもんだよ、お前ら」


 レオと鍔迫り合いのような状態のディスが、しかめっ面で言った。


「いや、こっちの台詞なんですけど?」


 レオは応えながら、ディスのロングソードを押し返す。ディスの体が後方へ下がり、ある程度距離がとれた。


 イゼラの方も、突きが外れたことに驚きを示し、杖を素早く引き戻し、「やるわね」と言って、ディスの隣へと跳ねるように退く。それを見て、シルビアもレオの隣へと移動した。


「もう一度聞く。何者だ」ディスが再び尋ねた。

「もう一度言う。こっちの台詞だ」レオが再び同じことを言った。


 ディスは、より一層顔を顰め、レオに向かって指をさす。


「いいから、答えろよ」

「なんでだよ」

「さっき、レストランから僕らを見てただろ」

「さっきって、いつだよ」

「30分くらい前だよ」

「さあ、どうだったかな?俺がお前らを見てたって証拠でもあんのか?」

「とぼけるなよ。僕はそういう視線に敏感なんだ。ごまかせると思うなよ」

「いや、そんなこと云われてもわかんねえし」

「こいつっ……。なめてんのか?」

「いやいや、なに云ってんだよ。なめてんのは、お前らだろ。こっちはいきなり攻撃されたんだぞ。はい、わかりました、ってなると思うか?」

「僕たちは、ソルジャー庁(エクサ)警邏けいら隊だ。素直に云うことを聞いた方が身のためだぞ」


 ディスが、首にかかるペンダントのようなモノを手に取って掲げる。それは、エクサの警邏隊員を証明するものだった。


「えっ?エクサの人間が一般人に何も告げずに攻撃したのか?ヤバいだろ」

「くっ、てめえっ」

「あーっ!ちょっと、ちょっと、そこまで」


 二者のやり取りを見て、イゼラが手を振りながら割って入ってくる。


「わたしも含め、ごめんなさいね。一応ね、警邏隊は相手に隙を与えないように、先手で攻撃できる許可を得ているのよ」


 肩をすくめながら宣うイゼラを見て、レオが顔を顰める。


「嘘だろ?そんな権限があんのかよ」

「本当のことよ。2年ほど前から出来た、警邏隊独自のルールなんだけどね。後で調べればわかるわ」

「なんだよそれ。法律には引っかかんねえのかよ」

「もし間違っていたら、うちのトップが責任を持つって云っているもの、平気でしょ」

「トップって、警邏隊のか?」


 ソルジャーエクサ国防総省エデムの直轄である。そういった意味でのトップといったら、エデムのトップである、第三王子のハンス・アイゼンになる。だが、ハンスは、先程の密談において捕縛対象となっていた。なのでハンスの線はない。


 エクサの長官であるアダルベルト・レーマン伯爵は、去年就任したばかりで、こちらの線も薄い。


 だとするならば、警邏隊隊長ということになる。隊長のアントン・クロースターマンは貴族ではなく、市井の出身で、優秀な人物だ。相手が貴族であっても物怖じしない性格と、部下想いとして知られている。十中八九アントンだと踏んで、レオは心のメモに書き加えた。


「さあ、それは秘密よ」

「……そうかよ。それよりも、なんで俺たちを狙ったんだ?まさか、見られたから、って理由だけじゃないよな」

「そうね。でもあの暗がりにいたわたしたちに、視線を送るなんてすごいわね。こう見えてわたしたち、気配を消すのは得意なのよ?」

「たまたま、そっちの方を見ていただけかもしれないだろ」

「そうね。その可能性もあるわね。でも、先ほどの回避行動を見る限り、そうとも云えないわね」

「それは、今の感想だろ。俺たちを攻撃する前じゃない」

「たしかに」

「じゃあ、本当の理由はなんだ」

「この子の勘よ」イゼラが言った。

「勘!?想定より酷い理由だった!えっ?勘で俺たちを攻撃したのかよ」

「この子の勘は当たるのよ」

「ふざけんな、どんな理由だよ。しかも、マジで殺しにきてたじゃねえか」


 レオが剣の切っ先を、ディスとイゼラの方向に向けた。


「ええ、そうね。それは否定しないわ。でも、あなたたち――」


 イゼラは二人を見た。その表情は、冷淡な分析を行っているように見えた。


「――死んでいないじゃない」


 イゼラが静かに言い放った言葉には、全てを見透かすような冷徹さが含まれていた。


「あなたたちのあの身のこなし、護身術と云うには、多少無理があるわ。それに、そちらのあなた」


 イゼラが、顎をしゃくるようにレオを見た。


「俺か?」

「そう、あなたよ。あなたははじめ、武器を持っていなかったわよね?その剣はどこから現れたのかしら?」


 イゼラは冷笑を浮かべ、右手に持つ杖をレオとシルビアの方に向けた。


「もし本当にあなたちが〝一般人〟というならば、今のこの〝事実〟をどう説明してくれるのかしら?」


 レオは、不承不承といった表情を浮かべた。


「別に悪いことはしてないんだから、説明する必要はないんだけど」


 レオが剣を下げ、頭の中で即興の〝芝居〟の台本を組み立てていく。


「この剣はこの【次元収納ポーチ】から出した。俺が2級のハンターとして、遺跡に行ったときに発見した遺産レガシーアイテムだよ」


 レオは次元収納のポーチを誇示するように指差した。


 このポーチは、レオの時空属性魔法の≪クロノボックス≫を誤魔化すために作った、レオの自作である。ちなみにショルダーバックも邪魔だったので、このポーチに仕舞っている。


 実際、この世界では古代の遺跡という場所が世界各所にあり、極稀にレアな遺産レガシーアイテムが発見されることもある。


 レオは、それを利用しようと思ったのだ。彼の顔には、即興の芝居を楽しむかのような笑みが浮かんでいた。


「俺はリオン。これが|八英雄の国連合防衛組織エナド カードだ」


 レオはポーチからカードを取り出し、イゼラに向かって掲げた。


「そして、彼女が――」


 レオが、頭の中で組み上げていた芝居でのシルビアの役は〝恋人〟だった。そう紹介しようとしたその時、シルビアが一歩前へ出た。


「わたくしの名前は〝シルフィー〟」


 シルビアは柔和な笑みを浮かべ、彼女もまた、エナドカードを掲げた。


「1級の冒険者よ」


 レオはその事実に驚愕したが、顔に一切出さなかった。


 ディスとイゼラは、予期せぬ展開に目を見張り、無言でカードを見つめた。


 その姿を見て、レオが即興で説明を繋げる。


「そう、彼女とは以前、一緒に魔獣狩りに行ったことがあるんだ。今日はたまたまギルドで再会したから、食事に誘ったんだよ」

「こんな遅くまで?」イゼラが問うた。

「ええ、そうよ。思ったより会話が弾んじゃって、遅くなったの」


 シルビアが、慣れない感じの口調で答えた。


「俺はこれから、彼女を宿に送ろうと思っていたんだが……」

「本当か?」


 納得がいかないのか、ディスが怪訝に問うてきた。


「なんだ?お前ら、エナドと揉めたいのか?」


 レオが、不敵な笑みを浮かべた。


「もういいわ。行くわよ」イゼラが言った。

「いや、待て、まだ話は終わってな――」

「なにを言ってるのよ、カードを見たでしょう?彼らはエナドの正規の人間よ。それに、今エナドと揉めるのはマズいわ」


 イゼラがディスを制すと、冷淡な分析を行い、ディスの横に並びレオとシルビアを見る。


「彼らの身のこなしや剣については、次元収納のポーチとエナドカードで一応、説明はつく。それに、ここはアイゼン王都。アイゼンの警邏隊員である私たちが、私的な目的でエナドの人間を攻撃した事実が残るのはマズいわ」

「でも、僕の勘が――」

「勘は結構よ。また機会があるわ。さあ、行くわよ」


 イゼラがディスの腕を掴むと、ディスは舌打ちをした。彼の視線は、レオの腰のポーチと手に持つ剣に固定されている。


「分かったよ。だけど、リオンとか云ったね。次はないよ」

「次なんかねえよ」


 べー、と舌を出すレオを背に、イゼラとディスは、路地の闇の中へ素早く消えていった。


 レオは、二者の姿が完全に見えなくなるのを待って、剣をポーチに戻した。


「ふう……ごめんなさい、レオさん。わたくしの即興の芝居、大丈夫でしたか?」

「いや、助かりました、シルビアさん。おかげで彼らは撤退しました」レオが微笑んだ。「でも、まさか、1級のハンターだったとはね」

「ええ。クラルテ様がもしもを想定して、偽名を使ってエナドカードを作ったんですの。ガルズ湖周辺の魔獣狩りが主でしたけど、おかげで、1級になれましたわ」


 シルビアが少しだけ得意げに言った。ハンターズギルドの支署は、トゥインクディーヌ市国にもある。ほとんど外に出ることがないシルビアの、唯一のストレス発散でもあった。


「シルビアさんは、私と同い年でしたよね?」

「え?ええ、たしか、そうだと思いましたけど、それがなにか?」

「いや、クララに全力で護るって云ったのが、恥ずかしくて」

「ん?なんのことでしょう?」

「いえ、なんでもありません」


 レオは空を仰いだ。ノワルたち聖猫はまだしも、シルビアよりもハンターランクが低かったことに愕然としていた。


「とんだ夜になりましたね」レオが言った。

「そうですね」

「帰りましょうか」

「はい」


 初夏の深夜の路地に、生温い空気が満ちていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ