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箱庭と猫 第一部 ―救国の英魂編―  作者: 山本陽之介
第4章 背景ヲ辿ル

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第38話 穢れた酒杯の暗珠は零れる 後編

 「それでは次に、第五段階についてです」


 ノイアーがノートの項目を指し示した。


 第五段階は、水の月22日の深夜2時。ハンス殿下に擬態した何者かによるニクラウス国王の殺害と、その罪のハンス殿下への転嫁である。


「すでに陛下の人形を身代わりとして機能させているから良いんだけど、どんな動機をもってハンス殿下の偽物が殺害に及ぶのか、あんまり想像がつかないなあ」レオが言った。

「たしかに、そうですわね。ハンス殿下の為人ひととなりは、わたくしどもの国にも及んでおりおります。なにかあったとしても、とてもではありませんが、あのお方が、そのような行為に及ぶとは想像できません」シルビアが同意した。

「さようでございますね。それに、実行犯はハンス様に擬態した謎の人物というのも気になります。いったい何者なのでございましょう?」

「うーん。そいつが、マタド・ク・シアの行使するなにかしらの魔法で操られている人物なのか。それかもしくは、マタド・ク・シア本体なのか、ってところかなあ」


 レオがペンを置いて唸る。


 ノイアーは、レオの思案する様子を見つめていた。現在の時刻は既に水の月17日の未明。ハンス殿下の拉致は水の月18日深夜に予定されている。


「では、ワタクシが早速明日から、ハンス殿下の影に潜り、その謎の人物を確認して報告いたします」

「そうだな、ノワル。そうしてもらえると助かるよ」

「おまかせを」

「あっ、それとな」

「なんでしょう?」

「判断はノワルに任せるが、事務官ノイアーとしての職務が継続していることを周囲に示すことも忘れないようにな」

「なぜでございましょう?」

「そりゃ、王付き事務官の不在を疑われるのはマズいだろ」

「たしかに……さようでございますね。かしこまりました。状況を鑑みて最適な行動を取りたいと存じます」


 ノイアーが応諾したのを確認すると、レオはノートの次の項目を指し示す。


「それじゃ、最終段階だな」

「王族配信による玉座簒奪でございますね」

「ああ。今までの計画内容がここに集約される」


 レオが二者に告げると、ノイアーが静かに状況を整理する。


「【唄石】と反響の詩を利用し、ニクラウス国王の死と、まだ動機は見えませんが、ハンス殿下の狂気を国民に信じ込ませる。この王族配信が成功すれば、クーデターの成功率は、ほぼ100パーセント、と云ってよろしいでしょう」

「国民の思想までを支配しようとするなんて、常軌を逸してんな。いくらなんでも、オリバー伯父上がここまでするとは思えない。これこそ、〝虚飾〟による陰謀の確たる証拠だろ」

「では、私たちはこの計画を、どこから阻止すべきでしょうか」


 シルビアの問いにレオは、今回の盗聴で得た全ての情報を脳内で組み立てた。今夜の密会、そして水の月23日の王族配信までの時間軸を計算する。


「最優先事項は、彼らの行動の阻止じゃあない」


 シルビアは目を見開いた。


「計画は連動している『線』ということですよ、シルビアさん」

「線、ですか」

「ええ、彼らには、このまま計画という各点が、線として上手く進んでいると思い込ませ、勝利の確信を持たせておきたい。我々がすべきは、その線の要所要所を、気づかれずに断ち切ればいい」

「そうですね。すでに数カ所が切れていますものね」

「その通りです」


 レオは静かに微笑んだ。


 一通りまとめ終えたレオたちは、ノートにびっしりと書き込まれた内容を見つめる。その表情は、普段の冷静さを保ちつつも、どこか緊迫感を帯びていた。


「ノワル、今回の件、くれぐれも気をつけろよ。何か異常があれば、すぐに報告してくれ。こちらの作戦は、追って連絡するよ」

「承知いたしました。レオ様、それからシルビア様も、どうぞお気をつけください」


 ノイアーはそう言うと、席を立ち、食堂を後にする。その後、静かに影に溶け込んでいった。


 それを見てシルビアは立ち上がり、レオの対面の席に座った。テーブルの上を見ると、空になった皿と、少し残った飲み物がある。


「飲み物は残さず飲んでいきましょう」

「そうですね」


 レオとシルビアは、残されたハーブティーとブラックコーヒーをゆっくりと飲み干す。すっかり冷えてしまったそれは、とても美味しいとは言えなかった。


 食堂の窓の外を眺める。街の灯りこそ瞬いてはいるものの、人通りは閑散としていた。


 時刻は既に深夜。賑わっていた店内も、客の数がまばらになり、時折店員が空になった食器を片付ける音がよく響くようになってきていた。


「……何か嫌な気配がいたします」


 シルビアの声には、先ほどのフリッツに感じたものに似た、明確な緊張が滲んでいた。彼女は飲み干したカップを置こうとして、途中で動きを止めている。


「どうかしましたか?」


 レオが小声で問い返すと、シルビアはゆっくりと顔を窓の方に向け「あの二人」と言った。


 彼女の碧い瞳が、何かを探るように、じっと外の景色を捉えている。レオもまた、彼女の言葉に警戒心を高め、視線を窓の外へと向けた。


 夜も深く、人通りもまばらになった通り。食堂の窓からメヒスメノスがある方向を、注意深く見つめるシルビアの視線の先。ゆっくりとした足取りで、メヒスメノスのある裏道へと歩いていく二人組の姿があった。


 一人は杖を所持した、背の高い女性と思しき人物。もう一人は、身の丈ほどのロングソードを背負った、背の低い少年のような人物だ。


 レオは、キュートの眷属から報告を受けていた人物像の情報と、ダミアンの研究資料を、頭の中で照らし合わせた。


「エヴィス……」


 レオが呟いたその時、外の二人組の一人。背の低い少年のような人物と、なぜか目が合った気がした。

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