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箱庭と猫 第一部 ―救国の英魂編―  作者: 山本陽之介
第3章 傀儡ハ嗤ウ

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第28話 五日間の夜明け 後編

 水の月22日、立太子式典当日。


 王都エルンツは、朝から祝祭の熱気に包まれていた。


 色とりどりの装飾が通りを彩り、露店からは香ばしい匂いが立ち込め、子供たちの歓声が響き渡る。祝祭の賑わいは、地下の暗部にまで微かな振動となって伝わっていた。


 午後3時00分。


 宮殿正面の広大な庭園で、立太子を祝う建国記念の祝祭が始まった。


 この儀式の様子は、アイゼン王国全土、各都市の広場に設置されているマナビジョンに中継されている。


 壇上には、情報広報局局長のフリッツ・ペルレ伯爵が司会として立っていた。彼は、柔和な表情を浮かべている。


 式典の檀上に立つニクラウス王は、穏やかに群衆に語りかけ始めた。


 壇上に設けられた席には、第一王子オリバー、第二王子ダミアン、そして第三王子ハンスが、居住まいを正し整列していた。その傍らには、病で伏せるトーマスに代わり、モントシュタイン伯爵家次期当主のパウル・モントシュタインが控える。


 さらに、国内の主要な貴族、八英雄の国々の外交官、その他の同盟国の代表が舞台前の席に並び、式典の権威を表していた。


 ハンス王子は、完璧に慈愛に満ちた穏やかな笑みを浮かべ、その立ち居振る舞いは、国民に寄り添う“理想の王太子”そのものである。



 




 王宮地下深く、王の私室へと繋がる秘密通路。


 ディス率いる「鏡面ミラー」の精鋭たちが、音もなく壁面に張り付いていた。彼らの頭上、遥か遠くの地上からは、祝祭の賑やかな歓声と、拡声の魔法による王の声が、まるで世の太平を讃えるノイズのように響いてくる。


 ディスは、左腕に装着した小型の魔導時計を見た。時刻は午後3時30分。





 その頃、壇上では儀式がクライマックスを迎えていた。


 フリッツの声が響く。


「これより、次期国王の証たる【月の紋のレガリア(短剣)】、その写しを、第三王子ハンス殿下へ授与いたします!」


 厳かな旋律が流れ、ニクラウス王は台座に置かれた、闇の大聖霊オスクネスを表す月の紋が刻まれた短剣を手に取り、ハンスへと差し出した。


 ハンスは、そのレプリカを両手で恭しく受け取った。


 その瞬間、会場を揺るがすほどの盛大な拍手が、アイゼン王国全土に巻き起こった。


 フリッツ・ペルレ伯爵が右手を高く掲げ、静かに告げた。


 「――祝福を!」


 フリッツの短い宣言が、次期王を祝う花火の打ち上げの合図だった。






 地上から、地を揺るがすような、轟音と閃光が響いた。祝祭のクライマックスを飾る花火は、フリッツが用意した案だった。その轟音は、王都中の人々を歓喜の渦に巻き込んだ。





 地下にいたディスは、地上の轟音を聞き分ける。それが、待ち望んでいたフリッツ伯爵からの合図であることを確信した。


「フリッツ伯爵からの合図を確認。王の私室の近衛は、王の不在により、警備ルートを変更。花火の轟音に乗せて工作を開始する。制限時間は2分。『鍵』の奪取、開始」

「はっ」


 ディスが短く命じると、部隊は即座に行動を開始した。


 彼らが目指すのは、王の私室へ繋がる階段の扉。扉は、厳重な金属製の錠前で守られていた。この扉は、避難経路としても機能するため、複数の信頼できる要人が鍵を共有している。


 ディスは、「声の裂け目」の技術班が準備した小型の魔導爆薬を錠前に設置した。


 次の瞬間、階段の扉の錠が花火の轟音に完全に隠蔽された、破壊音と共に砕け散った。


 ディスは、扉をこじ開け、階段を駆け上がる。王の私室に繋がる隠し扉にも錠前があった。


 これを再び花火の轟音に紛れさせ破壊。王の私室に入り、調査で突き止めた秘密の【隠し箱】がある北壁に到着した。壁に隠された【隠し箱】を取り出した。


 【隠し箱】は魔道具で、〝王族紋ロイヤルクレスト〟の封印術で守られている。ディスは、本物のハンスから事前に採取した血を、技術班が加工した認証媒体に塗りつけ、隠し箱の紋様に押し当てた。


 紋様が青白く光り、王族紋ロイヤルクレストの封印が解除された。


 ディスは、隠し箱から本物の【月の紋のレガリア】を抜き取った。ディスは、その短剣を、傷一つつけぬよう黒い布で恭しく包み、直ちに最も信頼する部下に手渡しで回収させた。




 式典会場では、ミルヴィウスが持つ通信用のマナ結晶が光り、「完了」の報告が届けられた。



 





 王宮の旧館にある指令室。立太子の式典が無事終わり、時刻は午後5時00分。


 式典に参加していた各人が戻ってきている。そこに第一王子オリバー、そしてハンスに化けているシアも、立太子式典への列席を終え、指令室へと戻ってきた。ミルヴィウスが、作戦の完了を報告する。


「殿下、“鍵”の奪取が完了いたしました。これで、ニクラウス王の最後の抵抗は不可能となりました。最終段階へ移行いたします」


 オリバーは、ミルヴィウスに静かに頷き、部屋にいる者たちに視線を向けた。


「いよいよだ、皆。今宵、全てを変える」


 ミルヴィウスが頷くと、シアに向き直る。


「シア。王の寝所への侵入は深夜2時です。それまでは、フリッツ伯爵と共に、最後の仕込みに専念してください」


 ハンスに扮したシアが、無言で頷いた。その瞳の奥には、感情の機微は一切ない。







 王宮の夜は、お祭り騒ぎの余韻が冷め、静かな闇に包まれ始めていた。


 ミルヴィウスは、指令室の卓上の立体地図を見つめていた。


「抵抗勢力の排除、完了。【唄石】への充填、完了。“鍵”の奪取、完了。あとは、明日の王族配信を待つばかりでございます」

「ああ。この停滞した世の中に終止符を打ち、明日、八英雄の国としての本来の姿となる。新たな時代の幕開けとなろう」


 ミルヴィウスとオリバーの冷たい声が、静かな指令室に響き渡った。

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