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箱庭と猫 第一部 ―救国の英魂編―  作者: 山本陽之介
第1章 追懐ニ啼ク

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第2話 マナ開放の鍵と、覚醒の予感

 闇を抜けるとそこは、密生した木立の中だった。


 木々に囲まれているせいもあり、薄暗く、風をそこまで感じない。上を見ると、夕方の空を背景に樹木の先端が騒めいている。それなりに風は吹いているのだろう。


 そこまで広くはない範囲ではあるが、間伐か何かで伐採されたあとの切り株が散見される。そんな場所に一人と一匹は現れた。


 雑木林や森の中など、どこも似たような雰囲気ではあるし、一目では見分けることも難しい。


 だが、レオはその場所に見覚えがあった。


「まさかここは……うちの裏手にある雑木林か?」

「流石でございます。たしかにここは、レオ様のご自宅の裏手にある雑木林。これだけの情報で、よくお分かりになられましたね」ノワルが言った。

「そりゃあ、この辺の木は……俺が最近斬ったからな」レオは切り株を指差し「ほら、切り口がまだ新しいだろ」と取り繕うような笑顔を浮かべた。


 製作師メーカーという資格を持つレオの父親は、現在アハートで修理屋を営んでいる。その仕事をレオは、兄と共に手伝っている。その際に必要な木材調達のため、父親に頼まれ、この辺の木をレオが伐採したのだという。


「それにしても」と、レオは改めて周辺を見回して「商店街から結構な距離があったはずだよな」と言った。

「ええ。マナ量にもよりますが、これぐらいの距離でしたら問題なく」

「凄いな。これも、聖霊魔法なのか?」

「左様でございますね。あれは魔法の位階では第十位階に近い、非常に高度なものに属します。わたくしが今いる場所と、移動先の場所を闇で繋ぐという、移動系魔法です」

「そうか。ちなみに、ノワルはどれくらいの距離を移動できるんだ?」

「どれくらい……。左様でございますねぇ……。現在のわたくしのマナ量でございましたら、二都市向こうの、ザフィア領都くらいまでならば、なんとかなるかと」

「ユヴェーレンまでかよ」


 レオから呆れ笑いが漏れる。またもや何でもないようにノワルは言うが、ここから商店街までは、走って1時間くらいの場所にある。身体能力を高めるチャクラ……所謂、体内のマナとは違う気の力を使っても、一般的に40分程度かかる距離。それも、チャクラを切らさない、休まない、という条件付きだ。なのに、それ程の距離をほぼ一瞬だ。


 更にノワルは、二都市越えた先にある、ザフィア辺境伯領都ユヴェーレンまで行けるという。呆れを超えて、寧ろ清々しくも思えた。


 通常の属性魔法にこれほどの移動魔法などない。あえて言うならば、風属性魔法で背中側から前方に風を起こし、その風力を使ってちょっと速くなる程度。少し間違えると怪我をするし、危険だ。


「ところで」


 呆れる事もほどほどに、レオは、ちらり、と先程通って来た闇を見る。


「この闇はどうするんだ?」レオが言った。

「ああ、それでしたら」ノワルが闇の下に近付き「これを」と言った先にレオは視線を移す。


 すると、地面にうっすらと描かれている魔法陣が確認できた。


「こうします」と言って、ノワルはその愛らしい右前脚でその魔法陣に軽く触れ、消した。


 すると、先程まであった闇が、瞬く間に霧するのを見て、レオは目を見張った。


「このように、闇は消え、利用できなくなります」ノワルが言った。

「な、なるほどね。だけど、商店街に残った方の闇はどうなる?」

「ご心配には及びません。二対一体についいったいのこの魔法は、2個目の魔法陣が起動した後、片方を解除することで、もう片方も陣ごと消失いたします」

「そうですか……」


 苦笑したレオは、少しの間をおいて考えるように浅く俯うつむいたあと、思い出す。


「それで?確かめたいことってのは?」

「ああ、そうでございましたね」


 ノワルが自身の影に頭を突っ込んだ。


 もうこれ以上は驚かないぞ、と言わんばかりにレオは、ノワルのその姿に冷めた視線を送る。


 やや経って、顔を戻したノワルの口には、何かが咥えられていた。


 喋り難そうにくぐもった声で「これを」と言って、レオにその何かを差し出した。


 レオは手に持っていた買い物カゴを一応、傍にあった切り株の上にのせ、眉をひそめながらそれを受け取り、視る。


 掌に収まるか収まらないか程度の大きさ。頭の部分の真ん中に少し大きめの宝石みたいなものが埋め込まれ、その周りに小さな宝石が八個。囲むように埋め込まれている。その先のブレード部分は、円柱状の細い棒が真っ直ぐ伸びており、先端近くに何かを模かたどった平たい板が一枚付いている。


「これは……鍵?」

「左様でございますね。その鍵に、レオ様のマナを込めてみてはいただけないでしょうか?」

「マナを込める………」


 何の鍵なんだという疑問より、ノワルの、マナを込めてほしい、という言葉に思わず言葉が弱くなる。なぜならレオは、マナに対してやや忌避感をもっているからだ。


 この世界の者は、生まれながらにして何かしらの属性を持つ。


 属性は、自身が行使できる魔法に直結する。その為、幼い頃から自身のマナを制御するための訓練が義務付けられていた。その訓練の中心は、自身の得意属性を用いることが多い。


 しかも、この世界には魔法だけではなく、マナを利用した魔道具というものも存在する。その全てにマナを制御して注ぎ込み、起動したり使用したりする必要がある。制御出来ずに魔道具にマナを込めると、壊れてしまうことも多々あるのだ。


 なので、まずは自身のマナ制御から覚えるというのが、この世界の常識である。


 だがレオは、生まれつきマナの量が豊富で、周囲の人間を驚かせるほどだった。しかし、ある時からマナの制御が上手くできず、暴走させてしまう。暴走したマナは、周囲の魔道具を無効化させ、自分の属性に合った魔法(呪文)の詠唱や、魔道具へのマナ出力の調整方法が全くわからない状態になってしまった。


 その結果、幼い頃から訓練していた魔法が使えなくなり、彼は魔法師の道を閉ざされ、ついたあだ名は〝出来損ないの次男坊〟。


 そのあだ名は、やがてレオの耳にも届くことになり、自分の力を使えないという悲しみと悔しさは、今もなお、心を締め付けるトラウマなのだ。


 だがそれでも、家族の愛情もあって、レオは腐ることはなく、代わりに何か出来ることはないのか、と模索したりした。


 家の仕事を手伝うようになった頃には、マナの制御方法について両親に相談し、現在は簡単な魔道具に関してだけだが、ある程度制御し、起動できるようになった。


 とはいえ、完璧な制御とは言えないお粗末なものではあるのだが。


「いかがされたのですか?」


 今までの出来事を思い出し、思考に耽るように固まってしまっていたレオの耳に、ノワルの訝し気な声が刺さる。


「い、いや。なんでもない」


 簡単な魔道具を使用できるようになったとはいえ、本来、属性すら持たないレオにとって、マナの扱いは目を背けたくなるほど苦手なものなのだ。


 右手に持つ鍵を見つめる。先程、商店街で感じた予感が薄れ、不安が襲ってきた。全身が僅かに震え、嫌な汗がまとわりつく。


「そうですか?何というか……とても、正常な状態には窺えないのでございますが……」

「うっ」


 レオの口から、狼狽した唸り声が漏れる。本人としては平静を装っていたつもりだったのだが、ノワルの目をごまかすことは出来なかった。


 どうしたものか、と返答に窮していると、「もしや」とノワルが口を開いた。


「その鍵に、マナを込めるのが怖いのでしょうか?」

「いや、まぁ、……うん」

「ほう。それは、なぜでしょう?」

「俺、マナ制御が苦手なんだ」


 がくり、と消沈する様に俯きながら、レオは正直に言った。悔しさと恥ずかしさから、自然に歯を食いしばる。


「はっはっはっ」


 突然笑い声をあげたノワルに、レオは冷ややかな視線を送りながら「なに笑ってんだよ」と、思わずドスの利いた声を出した。


「ああ、いえ。失礼いたしました。何もわたくしは、レオ様を侮るつもりで笑ったのではございません」

「じゃあ、なんだよ」

「その鍵には、マナの制御など必要ないので、と思いまして」

「え?」鍵を持つ手とは逆の手で指差し「これって魔道具とかじゃないの?」

「あー、どうでしょう。魔道具と言えば、魔道具なのでしょうかね」

「なんだよ。意味わかんねぇぞ」レオが眉をひそめた。

「魔道具っぽいもの、と思っていただけたら、今はそれで。いずれにせよその鍵には、マナを制御などせずに込めていただいて結構でございます」

「訊いてもさっぱりよくわかんなかったけど。まぁ、いいや。制御は必要ないってことね。それより、制御なしと言っても限度があるだろ。どれくらいマナを込めればいい?」

「そうでございますねぇ。マナ切れしない程度に、思いっきりどうぞ」


 ある意味限度も無いし、マナ切れしないようにっていう制御じゃないのか、と言いたいレオ。だがしかし、制御なしでマナを込めて良い、と聞いて少し安堵したのは事実だ。それに、実をいうとレオは、自身のマナを制御せず、思いっきり解放したことがないのだ。


 先程の沈んだ気持ちもどこへやら。今は少し期待しているくらいだ。


 だが、少し不安な部分もある。


「なあ、一応確認なんだが」

「何でございましょう?」

「俺、何年か前に、マナを込め過ぎて魔道具を壊したことがあるんだが。本当に大丈夫なのか?」

「ご安心を。余程の事が無い限り、そちらの鍵が壊れることはございませんので」

「そうか……」


 余程のことってなんだよ、と思いつつも、レオは再び視線を鍵に向け、わずかに喉鼓のどつづみを鳴らす。


 やや間があって、意を決したレオが「いくぞ」と言うと、ノワルが「ええ」と相槌を打った。


 鍵を掴む手に、指先に、息をつめて力をこめた瞬間、レオの体内のマナが、一気に鍵へと流れ込み始めた。


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