表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
箱庭と猫 第一部 ―救国の英魂編―  作者: 山本陽之介
第2章 風路ノ調ベ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

19/75

第15話 疑念への遁走曲

 ベル歴995年、水の月7日。王族配信の16日前。


 シュタイン宮殿。


 第一王子オリバーが、自室へと続く廊下をやや乱暴な足取りで歩く。最近側近となったミルヴィウスがそれに従うようについていく。


「ミルヴィウスよ。貴様はどう思う」オリバーが言った。

「どう、とは?」

「明日から就くという新たなメイドだ。“収穫祭”まであと少しというところだというのに」

「常に同行させろ、でしたか。明らかにオリバー殿下……、いえ、私を警戒してのことでしょう」

「警戒、か。父上も随分とわかりやすいことをする」オリバーは鼻で笑った。「だが、なぜ今更?ミルヴィウスが来てからもそうだが、これまで私の動きに、父上が介入するような素振りは見せなかったはずだが」

「そこが不可解な点です。このタイミングで、しかも得体の知れないメイドを送り込む。何らかの意図があるのは明白。おそらく、我々の行動を探る目的でしょう」


 ミルヴィウスは冷静に分析した。


「探る、か。ならば、どうする」


 オリバーはミルヴィウスに視線を向けた。


「まずは彼女たちの素性を徹底的に洗うべきです。出自、来歴、王宮に来るまでの経緯。何一つ見落としてはなりません。そして、彼女たちが殿下や私の周辺で不審な動きを見せれば、即座に対応を」ミルヴィウスの目が冷たく光る。「ただし、決して露骨な真似はせぬよう。こちらの動きを悟られては元も子もありませんから」

「ふむ……。面倒なことだ。だが、貴様の言う通り、そうもしていられぬか」


 オリバーは近くに監視結晶のない廊下の窓から外の庭を眺めた。


「しかし、嫌なことばかりでもない。父上の側近であるトーマスが、大病を患ったと訊く」

「ええ。ニクラウス王の側近中の側近であり、諜報部のトップでもある彼が自ら退場してくれましたからね。多少計画に変更は出ますが。一番厄介とされていた“影”が消えたのです。むしろ良い方向に傾いた、と云っていいでしょう」

「ならば、新たなメイドも父上の苦肉の策、とも取れんでもないのか」

「ええ、おそらくは。今更計画を大きく変更出来はしませんし、彼女たちが何者であろうと、もはや、止まるわけにはまいりません」

「……そうだな」


 そう言ってオリバーはミルヴィウスを伴い、私室へ向かって再び歩き始めた。






 一方、箱庭。


 レオが箱庭の屋敷にある工房兼研究室から出てきた。


「お疲れ様でございます」

「わあっ!……ってなんだ、ノワルか」


 ドアから出たところにノワルがヒト化した姿で立っていて、いきなり声をかけられたレオが、若干慌てた。


「おや?普段のレオ様でしたら、わたくしの気配ごとき、お気付きになられますのに」

「ん?いやまあ、今日はいつも以上に集中していたからな。終わって、気が抜けてたわ」

「さようでございますか。では、全て整った、と」

「あくまで、現段階で、だな」


 屋敷の二階にある自室へ向かおうと歩き始めたレオに、付き従うようにノワルもまた歩き始める。レオは現段階での進捗に、苦笑いを浮かべるが、その表情には僅かな自信が見て取れた。


「それで?王宮の様子は?」

「手筈通り整っております」

「シャルルとルジュは無事オリバー殿下の側仕えになれたってことね」

「さようでございます」

「他の子たちは?」

「そちらも手筈通りでございます」

「そうか」


 自室に辿り着くとノワルがドア開けてくれる。そんなことしなくていいよ、と言ってはいるのだが、どうにもやめてくれそうにない。レオは既に諦め、最近では慣れてきてまでいる。


 元々貴族の生まれということもあり、特に違和感はないのであった。


 レオは、ありがとう、と言って部屋に入る。ノワルも続くようにレオの自室へ入室した。


「レオ様はこれからいかがされるので?」

「ああ。俺はこれで……」


 レオは自室の机に置いてあった〝眼鏡〟を手に取った。


「それは……、かつてノーマン様が作られた〝誤認の眼鏡〟ですか」

「そ。俺が外でハンターとして活動出来るよう、親父に云って借りているんだ」

「なるほど。動きやすいように、でございますか」

「今後、表の行動は〝リオン〟として動く。そのためにも、〝二級ハンター〟リオンとしての活動記録を残しておきたいんだ」

「アリバイ的なものですか?」

「その言い方……、なんか、俺が悪いことしてるみたいじゃん」

「今回のお相手は王族でございます。違うので?」

「いや、まあ、そりゃそうなんだけれども」

「それで、どちらまで行かれるので?」

「一応オスクネス様の聖域だな」

「聖域へ?」


 ノワルが僅かに片眉を上げた。


「そうだ。と云ってもまあ、オスクネス様に用事というより、カドリー様に頼みがあってね」

「カドリー様にですか」


 カドリーは、闇の大聖霊オスクネスの眷属であり、アラネアの進化系のアラネア・ソンブルという巨大な蜘蛛型の大聖獣だ。


「ああ。とりあえずドンクルハイツまでは俺一人で行くよ。その後、聖域までの道すがら、ノワル、お前を召喚したいんだが。……手伝ってくれるか?」

「当然でございます。聖域とあらばわたくしの領域でもございます。ただ、その日に何かしらの問題が起きなければよいのですが……」

「マナトレインのチケットは買ってあるんだよ。今日これからの便だ。寝台列車ってやつ。到着予定は明日の12時。そん時に念話するから、問題が無ければ召喚するよ」

「かしこまりました。ですが、問題があった場合は如何されるので」

「俺がカドリー様に会うことは決定事項だ。今回の件の要だからな。よっぽどの問題じゃない限り、聖域には俺1人でも行くさ。俺が聖猫の新たな主であることを、カドリー様はもちろん知っているんだろ?」

「さようでございますね」

「なら最悪、ノワルが居なくてもなんとかなるだろ」

 

 レオはそう言って微笑んで見せたが、ノワルの気持ちはなぜか、若干の寂しさを覚えた。


 レオと主従の契約を結び、この約千年間近く芽生えなかった感情、謂わば〝飼い主への愛〟のようなものが湧き出てきた。


 おそらくそれはかつて、ショウに向けていたもの。ノワルはそう理解した。


 だがノワルはその感情の起伏少ない表情で、誤魔化す。


「さようですか」


 ノワルの声は、いつものように淡々としている。しかし、その瞳の奥には、かすかな揺らぎが見て取れた。


 そんなノワルの微かな変化を、レオは見逃さない。


「おいおい、ノワル。なんだその顔。もしかして俺が、ノワルが居なくても大丈夫、って言ったから、拗ねてんのか?」


 レオがからかうように言うと、ノワルは僅かに目を見開く。その感情の薄い表情に、ほんのわずかだが、動揺の色がよぎったように見えた。


「いいか、ノワル。俺だって出来る限りノワルに来て欲しいんだよ。なにも問題が起きない方がいい。なんせ、聖域までのルートはドンクルハイツの騎士団とエナド(八英雄の国連合防衛組織)が厳重に警備、警戒しているからな。そこをノワルが猫で行ってくれりゃ楽だし、どうせ聖域までの接続紋もあるんだろ?」

「……ええ、お察しの通りでございます」


ノワルは少し間を置いて答えた。その声には、先ほどのわずかな動揺はもう見られない。


「やっぱりね。まあ、なによりも、俺一人で行くよりノワルが一緒に居てくれたほうが、よっぽど心強いからな」


 レオが笑顔を見せる。彼の言葉は、ノワルの心にじんわりと温かさを広げた。


「それにな、他の子たちもいるんだ、その心配は杞憂で終わるさ」

「さよう……でございますね」


 ノワルは、ようやく心から納得したように頷いた。その口元には、ごく微かな笑みが浮かんでいるように見えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ