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箱庭と猫 第一部 ―救国の英魂編―  作者: 山本陽之介
第2章 風路ノ調ベ

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第13話 王都エルンツにて

 ベル歴995年。水の月23日。アイゼン王国建国記念の日。


 アイゼン王都「エルンツ」。国の中央よりやや東側に位置する。


 エルンツ南区南門の付近には、アイゼン王国国内外の都市を繋ぐマナトレインの駅のひとつ、エルンツ南門駅がある。東口は商店街と住宅街、西口は各工房や繁華街と、明確に役割が分かれていた。王宮が鎮座する中央区に比べれば、その華やかさや建物の高さは劣るが、中規模な領都に匹敵する賑わいを見せている。


 建物は5階建て程度の高さのビルが散見され、南門駅からさらに一駅先の南区役場駅前には、より高層のビルも点在する。


 南門駅西口付近。そこに、三階建てと高さはないものの、広大な敷地と大きな建坪を誇る施設がある。


 八英雄の国連合防衛組織――通称「E.N.A.D.O.(エナド)」――の一つ、「ハンターズギルド」エルンツ南区支所である。


「番号札29番の方―、10番窓口までどうぞー」

「はい」


 数ある窓口の一角。10番窓口に座る、やや小太りな受付の男性の声に、茶髪のミドルヘアで端正な顔立ちの青年が応じ、受付へと向かった。青年は眼鏡をかけている。


 彼の服装は、白色に肩口から肘にかけて太目の灰色ラインが入ったジップアップ半袖。本格的な夏の暑さにもかかわらず、黒色の長袖インナーが袖口から手首にかけて見えている。ボトムスはカーキ色のシンプルなカーゴパンツ。足元は黒色のワークブーツだ。


 腰には、様々な小物を収納できるこげ茶色のベルトを巻き、片手剣を提げている。


 青年は剣を気にしつつ、窓口に用意されている椅子に腰をおろした。


「エナドカードの提出を」受付の男性が言った。

「はい」


 八英雄の国連合防衛組織所属証明書、通称「エナドカード」は、E.N.A.D.O.が管理する各組織の資格証明書であると同時に、身分証、銀行口座カードの役割も兼ねていた。


「ありがとうございます」受付の男性はカードを受け取り、確認する。「2級ハンター、リオン様ですね。本日のご用件は?」

「狩って来た魔獣素材の買い取りと、エナドカードの更新を」

「かしこまりました。では、こちらのエナドカードと、狩猟証明書をお預かりいたします」


 「はい」と、リオンは解体・鑑定窓口から受け取った狩猟証明書を差し出した。


「ところで、建国記念日とはいえ、外が異様に混雑しているみたいですが、なにかあったのですか?」リオンが言った。

「あー、三時間ほど前に、王宮より国民に対して大事な話がある、という旨のお知らせがマナビジョンを通してありましてね。リオン様はご存じなかったのですか?」受付の男性が、作業をしながら言った。

「ええ。先程ここに着いたばかりで、まっすぐこちらに来ましたので」

「おや?トレイン内でもお知らせがありませんでしたか?」

「ここのところ睡眠不足でして。恥ずかしい話、ここの駅に到着するギリギリまで眠ってしまっていて、慌てて降りて手続きしてましたから」


 リオンは、苦笑しながら頭をかいた。その仕草に、疲労の色が滲む。


「なるほど、さようでしたか。本日の17時に各都市の各広場にあるマナビジョンでその様子が全国放映されるみたいですよ」


 マナビジョン。映像を映し出す高性能の魔道具であり、国内外のニュース等を放映するシステムが組み込まれている。各都市の広場に設置され、王宮や各省庁から国民へ情報を一方的に伝達する役割を担っていた。


「王族配信ですか?」

「さようです」

「そうですか。表の賑やかさは、広場の場所取りってところですね」

「さようですね。ここは南門駅西口前広場が近いですから」

「なるほど」リオンは、首から服の内側にチェーンで下げている懐中時計を出し、時刻を確認する。「今は……16時45分ですか……場所もほとんど無くなってそうですね。まいったな」

「エナドカードによると、リオン様もアイゼンのご出身でございますよね。南区は初めてで?」

「ええ。駅員さんに道を尋ねて、まっすぐこちらまで来ましたので」

「さようでしたか。残念ながら広場の視聴しやすい場所はほとんどないでしょうね」

「でしょうね。でも、まあ、混んでいても王族配信の視聴は、国民の義務ですからね」

「さようですね。とはいえ、こういった放送は突発的におきますので、用事などで戻れなかった方々には、各機関にて内容をお伝えいたしますが……。まあ、リアルタイムで視たいですよね」

「そうですね」

「出来ました。更新したエナドカードの口座に、買取金をお振り込みいたしますか?」


 会話が交わされている間も、受付の男性は手際よく仕事を処理していた。


「はい。振込でお願いします」

「かしこまりました。それでは、口座に振込いたします」窓口の男性が手元にある魔道具にカードを通し、何やら操作する。「はい、これで振込完了です。エナドカードをお返しいたします」

「どうもありがとうございます」

「これから広場へ向かわれますよね?」

「そうですね」

「現在、駅前から広場前までの区間は、マナビークルの通行を制限しております。広場前の大通りからでしたら、マナビジョンをご視聴いただくことが出来ますよ」

「ありがとうございます。わかりました」

「いえいえ。またのお越しをお待ちしております」

「どうもお世話になりました」


 リオンは窓口をあとにし、出入り口の風除室を抜け、ハンターズギルドの建物の外へ出た。外の通りは、訪れた時よりも広場に向かって人波が激しくなっており、混雑している。リオンは、その人混みの流れに身を任せ、広場へ向かった。



 広場に到着すると、既に人で埋め尽くされていた。アイゼン王国国防総省直轄ソルジャー庁――通称「E.K.S.A.(エクサ)」――所属のガードマンたちが、要所要所に配置されている。


 広場の中央には、巨大なモニター――マナビジョン――が複数設置され、東西南北どこからでも視聴できるよう四面になっていた。


 リオンはハンターズギルドの受付の男性の言葉を思い出し、広場前通りの適当な、ヒトの邪魔にならない場所に立ち止まった。広場にある時計塔を見ると、時刻は16時59分を示している。


 リオンはチャクラを視力に集中させ、一番見やすいマナビジョンを捉えた。画面には、放映開始までのカウントダウンだろうか、「48、47、46」と数字が映し出されている。


 刻々とカウントダウンが進み、遂にその数字が0を示すと、画が切り替わり、画面上に一人の男性が映し出された。


 人だかりが、疑問の言葉で僅かに騒めく。


「第一王子?」

「今日は陛下じゃないのか?」


 画面に映し出された人物は、鈍い紫色の瞳に、やや吊り上がった二重瞼。銀色の髪を短く切り揃え、豪奢な詰襟衣装に身を包んだ四十代の偉丈夫。アイゼン王国第一王子、オリバー・アイゼンだった。


 画面上のオリバーが神妙な面持ちで口を開く。


『国民の皆様。私は、この国の第一王子、オリバー・アイゼン。本日は皆様に報告したいことがございます』


 オリバーの表情を汲んだ人々は、先程までのざわめきを止めた。固唾を呑む音だけが聞こえる静寂に変わり、オリバーの次の言葉を待つ。


『国王であるニクラウス・クライノート・アイゼンが殺害されました』


 広場とその周辺に集まった人々が大きくどよめく中、その光景を見たリオンは、ふっ、と小さく吐息し、僅かに口角を上げた。

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