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箱庭と猫 第一部 ―救国の英魂編―  作者: 山本陽之介
第1章 追懐ニ啼ク

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閑話 破滅の跫音を背にして

 青く澄んだ常春の空の下、ヒト属より聖霊王と呼ばれるベル・ラシルの、凛とした声が虚しく響いた。


 ヒト属とコミュニケーションを取るために覚えた〝ヒト属の言葉〟で、ついついため息混じりに呟いてしまった。


「思わず、このコたちを助けてしまったのだけれど、仕方なかったといえば、仕方なかったよね」


 つい先程まで此処とは別の場所で、後に〝聖戦〟とも呼ばれる災厄との争いが行われていた。


 思わず、とは言ったが、先程の戦いに巻き込まれようとしていたこのコたちを助けないという選択肢はなかった。他にも理由はある。


「だけど、どうしましょう」


 ベルは今一度、目の前のコたちを見遣り、ふうと息を吐いて頷く。


「他の聖霊たちにも相談してみましょう、そうしましょう」


 ベルが言った他の聖霊というのは、この世界のヒト属より〝八大聖霊〟と呼称された存在である。


 始原の四大属性を司る大聖霊四柱と、終末の四大属性を司る大聖霊四柱。


 随分と大仰な呼称ではあるのだが、ヒト属にとっては実際それほどのものなのだろうと理解する。理解はするのだが、ベルがその呼称を思い浮かべ、そして眉をひそめた。


「それにしても、私が聖霊王って。おかしくない?」


 災厄との戦いが一段落した現在いま、何故という想いが沸き上がり、改めて嘆く。

 ベル自身は、八大聖霊に比べてほんの少し特殊というだけで、他の聖霊たちと変わらない存在だと思っている。


 だが、聖戦にむけ、ベルが聖霊代表として人々に協力を要請したということ。その時、ヒト属の男性の姿を模していた上に、覇気のような厳かなオーラを纏っていたということもまた、聖霊王と呼ばれる要因でもある。


 そもそも、聖霊に性別など存在しない。更にベルは現在、ヒト属の女性の姿に模している。


 なぜならベルは、自身をヒト属の性別にするならば、どちらかというと女性寄りの性格だと思っているからだ。なので、威厳を出したいから、という安直な理由で男性の姿に模した上、更に厳かなオーラを纏いながらヒト属に接触したことを、少しばかり後悔している。


 はっきり言って、自業自得ではある。


 あるのだが、男性の姿に模していたのは、ほんの僅かな期間。災厄に立ち向かう英雄たちを選出する頃には、既に女性の姿になっていた。それなのにもかかわらず聖霊王などと呼称された。


 ベルとしては、そんな男性感溢れる呼ばれ方よりも――特に男性というものが嫌というわけではないのだが――、どちらかというと〝聖霊女王〟じゃないのか、と納得せずにはいられなかった。


「まぁ、今更か」


 災厄との戦いは、約一年間続いた。そのかんに聖霊王という呼称も、ヒト属の間で定着してしまったのだ。今更呼称の変更を求めても、おいそれと変えるのは難しいだろう。それに、自ら「聖霊女王という呼び名にして」などと求めるのはダサすぎて、口が裂けても言えない。ベルは憎たらしいほどの青空を仰ぎ見て、諦めた。


 ふと視線を感じ、ベルは顔を戻した。戦いの最中さなかに救ったコたちが、こぞってベルを不安気に見つめていた。まるで、自分達はこの後どうなるの、と訴えているかのようだ。


「そうね。あなたたちをなんとかしないとね。うん、オスクたちと相談するにしても、ある程度決めておくべきよね。うーん、なにかいい案はないかな。」


 ベルは改めて目の前のコたちを見遣る。ひい、ふう、みい、よお、…………と数えたあと「そうだ!」と、何か思い付いたかのように声を張って言った。


 声の大きさにビクッとするコたちに気付き「あ、ごめんね」と言いつつも、ベルは明るい笑顔を浮かべた。


「ふふっ。良いことを考えたわ。あなた達にもお仕事を与えます!」


 ヒト属の言葉を理解できないコたちだが、ベルの妙に自信満々の表情を見たコたちは、なんとなく不安が消え、一斉に「ニャー」と合唱するかの如く鳴いた。

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