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72時間ワンオペ死した元球児、女神の『ボッタクリ』通販と『絶対破壊不能』のノートPCで異世界最強のコンビニ・スローライフを始める  作者: 月神世一


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7/20

EP


エルフの王女は腹ペコ


 ガンツ工房への訪問から翌日。


 俺は再び、カチカチに固まった荒れ地(元畑)の前に立っていた。


「さて、試してみるか」


 俺の手には、昨日ガンツが徹夜で仕上げてくれた新品の鍬くわが握られている。


 だが、それは俺の知っている鍬とは大きく異なっていた。


 柄の部分には小型の魔導エンジンが搭載され、刃先はミスリル合金製。そして、持ち手のトリガーを引くと――。


 ブォォォン! ガガガガガガッ!


「うおっ!? 振動がすげぇ!」


 鍬全体が激しく振動し始めた。


 これ、鍬っていうか、工事現場の電動ピック(削岩機)じゃねーか!


「喰らえ、ロックバイソンの踏み跡ォ!」


 俺は振動する刃先を地面に突き立てた。


 ズダダダダダッ!!


 土煙が舞い上がる。


 昨日、俺の鍬をへし折った頑強な地面が、まるで豆腐のように砕かれていく。


「ははっ! すげぇ! これなら今日中に全部耕せるぞ!」


 さすが発明王。加減というものを知らない。


 俺は夢中になって荒れ地を開墾していった。


「ふぅ……やりすぎた」


 気づけば太陽は高く昇り、昼過ぎになっていた。


 予定していた区画は全て耕し終え、俺は汗だくだった。


 72時間労働の後に、炎天下での土木作業。我ながら社畜根性が染み付いている。


「少し休むか……」


 俺は涼を求めて、畑の隣に広がる森の木陰へと入っていった。


 静かだ。鳥のさえずりと、風で葉が擦れる音しかしない。


 こういう静寂こそ、俺が求めていたスローライフ――。


 グゥゥゥゥゥゥ~~~~ッ。


「……ん?」


 今、何か聞こえたな。


 地鳴りか? いや、もっと情けない、腹の虫の音のような……。


 俺は音のした方へ、慎重に近づいた。


 茂みをかき分けると、そこには信じられない光景があった。


 金色の髪。宝石のようなエメラルドグリーンの瞳。


 透き通るような白い肌に、人間よりも長く尖った耳。


 身につけているドレスは、薄汚れてはいるが、一目で最高級品だと分かる織物だ。


 絵本から飛び出してきたような、絶世の美少女。


 いわゆる「エルフ」というやつだろう。


 だが、そのエルフは――。


 グゥゥゥゥゥ……キュゥゥ……。


 地面にうつ伏せに倒れ、今にも死にそうな声で呻いていた。


「お、おい! 大丈夫か!?」


 俺は慌てて駆け寄り、彼女の体を仰向けにした。


 意識はあるようだが、目はうつろだ。


「……あぅ……おな……か……すい、た……」


 餓死寸前だった。


 行き倒れのエルフ。どういう状況だ?


「待ってろ、今何か……」


 俺はリュックを探ったが、食料は入っていない。畑仕事のつもりだったからだ。


 村まで戻ればキャルルかニャングルがいるだろうが、この様子では間に合わないかもしれない。


「……仕方ない、使うか」


 俺はリュックから『ルチアナ・ブック(PC)』を取り出し、起動させた。


 森の中だが電波はバリ3本だ(さすが女神の回線)。


 通販サイトを開き、『食品』カテゴリを検索する。


 すぐに食べられて、カロリーが高くて、温かいもの。


 ――あった。コンビニのホットスナックコーナー。


 俺は迷わず『Lチキ(旨塩味)』と『おにぎり(シーチキンマヨ)』をカートに入れ、購入ボタンを押した。


 合計1,500円(ボッタクリ価格)。痛い出費だが、人命には代えられない。


 ブォン、と光が集まり、熱々のチキンとおにぎりが実体化した。


「ほら、これならすぐに食えるぞ」


 俺はチキンの袋を開け、彼女の口元に持っていった。


 スパイシーでジューシーな香りが漂う。


 ピクッ。


 エルフの長い耳が反応した。


「……ん、ぁ……?」


 彼女はふらりと上半身を起こし、本能のままにチキンにかぶりついた。


「――んんっ!?」


 一口食べた瞬間、彼女の目がカッと見開かれた。


 そして、猛烈な勢いで咀嚼を始める。


「はふっ、はふっ……! おいひぃ! なんでふかこれ!? お口の中が、お祭りでふ!」


 そりゃそうだ。化学調味料と脂質の暴力。


 自然食がメインであろうエルフにとって、コンビニのホットスナックは劇物に近い旨味爆弾だろう。


 彼女はあっという間にチキンを平らげ、続いて差し出したシーチキンマヨおにぎりも、海苔ごと貪り食った。


「ぷはーっ! 生き返りましたわ!」


 完食。


 彼女は満足げに腹をさすり、ようやく俺の顔をまじまじと見た。


「貴方様が、わたくしを助けてくださったのですか?」


「ああ、まあな。通りかかったら倒れてたから」


「感謝いたします! わたくし、森をお散歩していたら道に迷ってしまいまして……気づけば三日三晩、何も食べていなかったのです」


 三日も? エルフの森からこのポポロ村までは、かなりの距離があるはずだが……。


「あの、この素晴らしい食べ物は、貴方様がお作りになったのですか?」


「え? いや、俺の世界の……まあ、取り寄せた物だ」


 彼女はキラキラした瞳で俺を見つめ、そして俺の手を両手で包み込んだ。


「素晴らしいです! あのジューシーな油! 複雑怪奇な味付け! わたくし、感動いたしました!」


 ……複雑怪奇って、それ褒め言葉か?


「決めたわ! わたくし、貴方様について行きます!」


「は?」


「だって、貴方様の側にいれば、またあの美味しいご飯が食べられるのでしょう?」


 なんて現金なエルフだ。


 だが、こんな森の中に放置するわけにもいかない。


「……とりあえず、村まで来るか? 村長に相談してみるよ」


「はい! 喜んで!」


 こうして、俺は予定外の「拾い物」をして、ポポロ村へと戻ることになった。


「キャルル、いるか? ちょっと困ったことになって……」


 俺はエルフの少女を連れて、村長の執務室(兼キャルルの家)のドアを叩いた。


 中にはキャルルと、ちょうど商談に来ていたニャングルがいた。


「あら、ダイチさん。畑仕事は終わったんですか? ……って、その後ろの方は?」


 キャルルが首を傾げる。


 俺の後ろから、金髪のエルフがひょっこりと顔を出した。


「ごきげんよう。わたくし、森で迷子になっていたところを、こちらの親切な殿方に拾われましたの」


 彼女が優雅にカーテシー(お辞儀)をした瞬間。


 ガシャン!


 バタッ!


 ニャングルが持っていた算盤を取り落とし、キャルルが持っていたティーカップが床に落ちて割れた。


「……え?」


「ウソやろ……」


 二人の顔色が、真っ青を通り越して土気色になっている。


 キャルルが震える指で、エルフの少女を指差した。


「そ、その、金色の髪……世界樹の紋章が入ったドレス……まさか……」


「ニャ、ニャンで『歩く世界樹の加護ディザスター』がココにおるんや!?」


 ディザスター? 災害?


 エルフの少女は、二人の反応を気にする様子もなく、ニコニコと自己紹介した。


「申し遅れましたわ。わたくし、ハイ・エルフ族の次期女王候補、ルナ・シンフォニアと申します。以後、お見知り置きを」


 ……女王候補?


 俺は天を仰いだ。


 ただでさえ騒がしいスローライフに、とんでもない爆弾が追加された瞬間だった。

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